Chapter 5 The Developing Moralities: A Cognitive Neuroscience Approach
R. J. Blair
pp.98-112.
これまで神経科学の領域ではあまり扱われてこなかった道徳性の問題について、近年、道徳的判断と情動の関連を検討する動きがみられます。
例えば、他者を傷つける行動と被害者の恐れと悲しみを結びつけるために扁桃体が重要な役割を果たしていること、嫌悪感には島が関わっていることなどから、道徳性の認知神経科学的基盤について検討されています。
Vol.1のChapter29(道徳性発達:社会的領域理論の観点から)と併せて読むことで、より理解が深まるでしょう。
この章で道徳性の発達について主張していることは、次の5点である。
社会的規範の計算的に区別できる形は少なくとも3つある。それは、「犠牲者を中心に考えるもの」「嫌悪感に基づくもの」および「社会的慣習」であり、それら全てが道徳と見なされている。ただし、全ての人が、これらのカテゴリーに道徳を当てはめるというわけではない。
特定の情動に基づいた学習システム(specific emotion-based learning systems)が存在することによって、3つの規範が発達する。例:犠牲者を中心に考えるものと苦悩への感情的反応,嫌悪感的に基づくものと嫌悪表出への感情的反応、社会的慣習と怒りへの感情的反応
もし、情動ベースの学習システム(emotion-based learning systems)が機能不全を起こせば、特定の種類の規範の発達は途絶えることになるだろう。
情動ベースシステム(emotion-based systems)は自動的ではなく、多大なる注意の制御のもとにある。
これらの情動ベースシステムだけが、道徳の全ての面の発達に繋がるわけではない。特に、情動ベースシステムは、道徳の領域内で個人がどの規範を位置づけるかを決めるわけではない。それは、個人の文化に影響を受けた道徳理論に大きく依存する。さらに、道徳的判断は、真逆の行為と比較するために、不道徳の概念へのアクセスを必要とする。多くの人にとって、不道徳な行為の概念の一部は、意図的性質を含むものである。
要するに、全ての道徳性の発達は、心の理論によってもたらされる心的状態情報と、情動ベースの学習システムによってもたらされる結果情報との統合を必要とするのである。
キーワード:扁桃体(amygdala), 自閉症(autism), 島(insula),統合された情動システムモデル(Integrated Emotion Systems model),眼窩前頭皮質(orbital frontal cortex), サイコパス(psychopath), 心の理論(theory of mind)
道徳性の発達については、活発な議論がなされているが、情動の役割については意見の分かれるところであり、心の理論の役割における考察も高まりつつある。しかし、少なくともこの議論の一部には、誤りがあるのではないだろうか。それは特に、計算的に区別される「道徳的規範(moral norms)」と特異的な計算処理である「道徳的理由づけ(moral reasoning)」の多様性に起因していると思われる。
少なくとも計算的に区別できる3つの規範の形態がある。それは、「犠牲者を中心に考えるもの」「嫌悪感に基づくもの」および「社会的慣習」であり、全て「道徳」と見なされている。
これらの3つの規範の形態は、特定の情動に基づいた学習システムであるため、発達する。
もし、情動ベースの学習システム(emotion-based learning systems)が機能しなければ、特定の種類の規範の発達は中断してしまうだろう。
情動ベースのシステム(emotion-based systems)は自動的ではなく、注意制御(attentional control)にかなり支配されている。
情動ベースのシステムだけが、道徳性に関する全ての側面の発達を引き起こすわけではない。
(発表担当者および発表日:岡本かおり/2013年12月)
(まとめ:伊藤理絵)