投稿日: May 06, 2018 6:59:53 AM
乳幼児教育と関わる来年度の国の施策の構想の中で、保育者の人材確保と関わり、保育関連施設の待遇の改善が組み込まれました。そこでは研修の充実とそれに伴う、保育の質の維持・向上、そしてそれにみあった待遇が議論されています。
保育の実践の質の維持・向上につながる研修とは、単に講義を聴くことにとどまらないように思います。つまり、例えば講義を聴いた結果、どのような知識や技術が習得されたのかが大切であると思います。また講義を聴いた結果、何を考え、どのような実践力つまり、判断に影響を与えたり、応用したりすることができるような力量が得られたのか、が大切であると思います。つまり、よりよい実践づくりにつながる研修が大切であるといえるでしょう。そして特に、実践力の維持・向上につながる研修とは、研究と重なっていく部分があるものだと思います。
乳幼児教育とかかわり国における調査研究が推進されています。ご承知のとおり、各都道府県での幼児教育センターの設置つまり調査研究や研修等の拠点づくりが、平成28年度から事業化されています。来年度さらに多くの地域でこれが進んでいくことを期待しています。また、市町村によるアドバイザーの設置を支援する事業も進められています。この研修の紹介記事においても、舞鶴市の事例を紹介させていただきました。
実践現場の課題こそを研究のスタートとし、その現場の課題の解決を目指して、実践現場が外部の専門家等と協力して実施する研究のことをアクション・リサーチといいます。例えば、年度末あるいは年度はじめに、職員会議で、園の先生方が職員会議で全体的な計画(保育課程や教育課程等)の見直しや確認を行った時に「今の園児はかつてと比較して、お友達と外で思い切り体を動かして遊ぶ姿が見られない」ことが話題となったとします。この先生方の印象を確信に変えるために、つまりより具体的に子どもたちの実態を把握するために、そして生活課題を抽出し改善を図るために、家庭での遊びの様子をアンケートで調査しようということが企画されます。具体的に、家庭教育支援の調査や子どもの生活調査、園での外遊びの時間や内容などについて調査することとなります。
調査にあたっては、調査研究実績のある外部講師等に協力を得て、アンケート項目を精選し、実際に調査します。統計データの処理などは共同研究者としての大学教員や大学院生の協力を得ることが可能です。さらには、その結果を踏まえて、課題を抽出しその解決の実践方法を工夫し開発します。実際に実践研究を実施し、園生活の流れを変えたり、環境設定の工夫や援助の工夫をしたりします。そして、実践の工夫が実際に子どもたちの育ちや学びにどのようにつながったのかを明らかにするために、子どもたちの変化について再度アンケートをとったり、調査をしたりします。多くの園では、子どもたちの姿をよく洞察し、多くの工夫を園の先生方がなさっています。そしてその努力のもたらす肯定的な影響について、実感されていることも多いです。こうした、アクション・リサーチによって先生方のプロとしての保育の実践がいかに子どもの育ちや学びにつながっているのかがより具体的に見えることに繋がります。
保育の研修や、日頃のPDCAサイクルに基づく実践の工夫やそれに基づく成果をアクション・リサーチという実践研究ベースとすることで、より保育の実態を可視化したり説明可能にしたり、実際の質向上もより具体的に実施し、かつ、構造的に図ることが可能となります。つまり、アクション・リサーチによって、現場で生じている日々の課題を実践研究ベースで分析し、実践を創りながら解決することが可能となります。印象として抱いていた課題がより実感できる形で把握できます。実際の実践改善の方法も、思い付きによるものだけではなく、先行研究の検討に基づきより他園の実践研究事例を踏まえた、さらに質の高い方法が開発可能です。改善したかどうかも、具体的に吟味し、可視化できますので、保護者や社会にもしっかりプロの仕事としての保育実践の内容を伝えることが期待できます。
アクション・リサーチにおける保育現場の先生方の関係性には、共によりよい実践創りをおこなおう、という前提があります。よって、研究者が子どもの発達や実態、保育の実践の特徴を第三者的に客観的に把握しようとし、子どもや園を調査研究の対象としてなされる観察研究や実験研究とは異なるものです。今後、多くの園が研修をさらに発展させていき、研究者と共同でアクション・リサーチを進めていって欲しいと願っています。
アクション・リサーチを支える制度としては、例えば、『学校教育法施行規則』第55条に基づいて設けられている「研究開発学校制度」や、国立教育政策研究所の教育課程研究センターが進めている「研究指定校事業制度」があります。重要な保育実践の課題について研究テーマが公募の形で示され、実践研究が指定された園や地域によって進められていきます。ここでは、園内研修が基軸となり実践研究が進められます。公開保育、指導案の作成、実践の事後検討会、研究主題の話し合い、調査の実施、実践の開発、その評価といったアクション・リサーチが、保育現場の先生方と研究者の共同により進められます。
各地の教育委員会や福祉課等の行政組織でも、また、多くの専門組織でも、同様に、指定された園や地域においてアクション・リサーチが企画実施されており、年次大会等においてその研究成果が報告されています。
保育の研修さらには、アクション・リサーチへの発展が期待されており、その支援制度の充実が益々図られていって欲しいと願っています。
参考:
「研究開発学校制度」の公募や、研究成果、報告会については、以下を参照。
http://www.mext.go.jp/a_menu/shotou/kenkyu/
「研究指定校事業制度」については、以下を参照。
http://www.nier.go.jp/kaihatsu/shiteikou.html#nendo
次週の記事は【009 自助努力から、育ちあう集団づくりへ、さらには、制度づくりへ 園長こそが研修し続ける、文化をつくろう】です。
※本記事の内容は、特定非営利活動法人ちゃいるどネット大阪情報誌「ちゃいるどネットOSAKA」に掲載されたものを許可を得て転載しています。
(執筆者:北野幸子 2018年3月26日)