投稿日: Apr 22, 2018 2:48:26 AM
「ドキュメンテーション」とは、イタリアのレッジョ・エミリア市で、保護者に伝達するために作成された記録のことをさします。この記録は、特に、日頃の保育の中で、子どもたちが遊びや生活を通じて、「どのように育っているのか」、「何を学んでいるのか」、を保護者に伝えることを意図として作成されたものです。「ドキュメント」ではなく「ドキュメンテーション」と名付けられて理由は、単なる子どもの姿やそれに関する保護者の感想等をしるした、「ドキュメント」とは異なり「変化」を意識した記録だからです。つまり、「ドキュメンテーション」には、発達の視点があり、育ちや学びの視点があり、保育者の育って欲しい子どもの姿への願いが込められています。イタリアのレッジョ・エミリアの保育は世界各地に影響を与えており、例えばスウェーデンでは、「教育ドキュメンテーション」を個々の子どもについて作成することが、保育者の業務として規定されています。スウェーデンでは、特に、子どもと保育者の相互作用での互いの育ちや学び、気付き、思いを記録することがめざされています。
乳幼児期の子どもの教育は、遊びや生活が中心であること。このことへの理解を保護者に促すことは、なかなか難しいようです。しかし、小学校以降の「教科主義教育」ではなく、乳幼児期の発達に適した、遊びや生活を中心とした「経験主義教育」の大切さを保護者や地域社会に伝え、理解を深めることは、子どもの最善の利益を確保するために大切なことです。「ドキュメンテーション」をその一つの手段として、保育現場で活用していっていただければ嬉しく思います。
1)トピックス、テーマを考えよう
保護者に是非伝えたい子どもたちの姿、保育の様子、遊びや生活の姿を選びましょう。色水あそびや、どろだんご遊び、どんぐりやまつぼっくり等季節の素材を活用した製作や表現遊び、探検ごっこ、話し合いの様子、給食の場面など、子どもの育ちや学びの場面は遊びや生活の中にたくさん埋め込まれています。
2)子どもの興味や関心を可視化しよう
子どもの何に興味や関心を持っているのか、その興味や関心の変化について可視化し伝えましょう。子どもの好奇心が感じられる場面、それが深まる様子など、保育の場面でドキドキしたりワクワクしたりする様子を保護者に伝えてみましょう。
3)子どもの育ちや学びを可視化しよう
アイディアを出し合ったり、一緒にイメージを共有したり、まねたり伝えたり、一緒に調べたり、試したり、没頭して深めたり、そういった子どもたちの体験的に学んでいる様子や体験を共有している様子を保護者に伝えてみましょう。
4)育ちと学びの過程を説明しよう
発達の姿、変化、5領域との関係を意識して、保育者のねがいや保育のねらいを説明するのもよいかもしれません。できたできなかったといった結果のみではなく、むしろ、非認知的な子どもの意欲や創意工夫、自尊心、思いやり、自制心等の心の育ちのプロセスを丁寧につたえていくことを大切にしてほしいと思います。また、保育者の教育的な意図、育ちの見通し、環境構成や援助の工夫なども遠慮せずに表現して欲しいと考えます。それらによって、保育実践が遊びと生活を中心とした教育実践であることへの保護者の理解を高めることが可能となると思うからです。
保育の実践現場にいた先生が「ドキュメンテーション」を作成した場合、自分はその実際をよくわかっているので、つい言葉足らずであったり、説明不足であったりすることもあります。その場にいなかった人、保育実践をよくみたことがない人に、子どもの遊びや生活を通じた育ちや学びの姿についての理解を促すことは案外難しいことです。
日々の振り返りや記録の時間を業務時間にしっかりと確保し、「ドキュメンテーション」を園の同僚と共有し、分かりやすいかどうか、伝えたいことが伝わるか、表現方法や写真の選択についての意見交換を行ってほしいと考えます。保護者対応の力も高まります。園長を中心に、マネジメントにあたってのリーダーシップを是非大いに発揮して欲しいと願っています。
それでも、園では子どものことをスタッフがよくしっていたり、日頃の保育をみあっていたりするので、「ドキュメンテーション」の内容についての想像がつきやすく、わかりやすいものです。また同い年の他の園の子どもやクラスの様子を知ることは、より分かりやすく発達の特徴や、遊びの様子、育ちや学びの姿を表現し説明する方法を多様に学ぶことにもつながります。
京都府舞鶴市では「ドキュメンテーション」の研修を市が一体となって実施しています。公立私立の幼稚園保育所といった園種を越えて市内の保育者が一緒に「ドキュメンテーション」の作成方法を学び、その力量を向上させています。保育者の専門性とは何か、遊びと生活を中心とした保育とは何か、保育の独自性とは何か、「ドキュメンテーションとは何か」、「作成方法や工夫」について講義形式で学び基礎的な事項についての共通認識を持ちます。さらには、ワークショップ形式で各園の先生が「ドキュメンテーション」を持ち寄り意見交換するような研修や、年齢ごとに話し合う研修、ある1つの「ドキュメンテーション」を分析し、意見交換をするなどの研修を実施しています。グループワークでは、以下のような<分析の視点>を用いることもあります。
舞鶴市では、「ドキュメンテーション」の研修をはじめて、今年で4年目になりますが、年数を重ねるごとに参加園が増え、保育者自身の専門性の向上への意識、実際の記録の方法と技術の向上がみられます。保護者の理解や評価も大変高く、成果が実感されています。
(詳細は舞鶴市HPにその記録が掲載されていますので、参照してください。)
<グループワーク:「ドキュメンテーション」の分析の視点>
①ドキュメンテーションのトピックスについての感想
・テーマとしてどこがおもしろそうか?
・自園の子どもと比較してどうか?(良く見られる姿かなど)
・その時期(発達など)の子どもの姿として適切か?
など
②ドキュメンテーションから読み取れる、子どもの興味関心
・何に興味関心をいだいているか?
・どんな興味関心を抱いているか?
など
③ドキュメンテーションから読み取ることができる保育者の教育的意図
・発達のとらえはどのようなものか?
・保育のねらいは何か?
・育って欲しい子どもの姿は?
など
④ドキュメンテーションから子どもの育ち・学びとして読み取れること
・どのような会話から、何が育っているか、何を学んでいるかが読み取れるか?
・どのような行動から、何が育っているか、何を学んでいるかが伝わるか?
など
⑤子どもの育ち・学びにつながったと思われる環境構成
⑥子どもの育ち・学びにつながったと思われる保育者の援助や工夫
⑦自分と照らし合わせた振り返り
・もし自分ならどのような環境を構成するか?
・もし自分ならどのように子どもと関わるか?
・それはなぜか?
など
次週の記事は【007 保育を公開しよう!】です。
※本記事の内容は、特定非営利活動法人ちゃいるどネット大阪情報誌「ちゃいるどネットOSAKA」に掲載されたものを許可を得て転載しています。
(執筆者:北野幸子 2018年3月20日)