投稿日: Apr 08, 2018 5:10:6 AM
保育実践力を向上させる鍵は何でしょうか。このことを世界各国の保育者養成に携わる研究者仲間と語り合ったことがあります。その時に、国境をこえて口々に出た答えは、保育者の「考える力」、「構造的に考える力」といったものがありました。
前回、ご紹介とご提案をさせていただきましたが、まずは、保育を「語る」同僚性が職員間で形成されて欲しいと願っています。そして、共に専門職としての同僚を尊重し一緒に向上していこうという関係性が築かれたら、次に目指していただきたいと考えることは、「なぜ」「どうして」「どうすれば」といった「考え」を職員間で出し合うことだと思います。「もし私だったら・・・こうすると思う。なぜならば・・・」とか、「もし私だったら・・・・ととらえる(判断する)と思う。なぜならば・・・(Aちゃんがこう言っていたから)」とアイディアを出し合い、実践における選択肢を蓄積しあえる関係が素晴らしいと考えます。
保育実践には唯一の答えはありません。また保育実践には100点満点もありません。向上の余地がいくらでもあります。さらには保育実践の評価者は子どもです。保育の現場では個々の子ども、それぞれの集団、状況や文脈が複雑で、不確定要素がたくさんあるのです。よって、単純にこのときはこうすればよい、といった対応をマニュアル化して明示できません。だからこそ、いろんな要素を自ら構造的に「考える」ことが保育者の先生方に必要となると思います。その力を蓄えることが、ライブで展開する保育実践において、とっさの判断の礎となります。よく保育を「考える」研修が、実践力の向上につながると私は考えています。
1)子どもの事実から「考え」てみよう
「事実」と「解釈」を分けて、保育実践をとらえると「解釈」にいたった「理由」を「事実」に基づき考える、きかっけになります。さらには、「解釈」と「解釈にいたった理由」を出し合ってみると、「解釈」の仕方に違いがあることが分かります。その違いを互いに学び合うことができ、「子ども理解」の手立ての選択肢を増やしていくことになります。繰り返しになりますが、これによって、実践力を幅広く身に着けていくことが可能となると思います。
神戸大学の幼稚園教員養成課程関係の授業では、4,5人のグループで、同じビデオをみて、記録を書き、ディスカッションするといった演習をしています。その時活用するシートは、以下の三つのセルに分けて作成しています。
①「子どもの事実」(会話、行動、表情など、子どもの育ちを記述する)
②「保育者の解釈」(子どもの事実(姿)からみとった(読み取り)、子どもの育ちや学びの評価を記述する)
③「解釈にいたった理由」(②と判断する根拠、子どもや子ども同士の育ちや学びにつながった、環境構成、保育者の援助などを記述する)
類似した研修を保育者対象に、各地でさせていただいたことがあります。その折には、①から③に加えて、④さらなる育ちと学びを育むための援助の提案欄などを作成し、ディスカッションしました。
2)場面を絞り込み、映像データを比較しながら「考え」てみよう
全クラスの話し合い(振り返り)場面のビデオを撮影させていただき、DVDに焼いたものを各先生が視聴し、比較するといった研修を実施させていただいたこともあります。
保育者の立ち位置、動き、言葉かけの方法、応答の仕方、子どもと子どもを繋ぐ援助の特徴など、他者の集会場面を見ると、違いに気付きます。「この立ち位置、この目線の高さの方が、子どもたちは話を聞きやすいみたいだ」、「話す子どもの対角線に動いているのがよいのかもしれない」「こういった応答をすると子どもの集中が高まるみたいだ」、「実物提示があると子どもたちの興味関心が高まるようだ」、「子どもの名前が先生の話によく話に出てくる」、「同じ考えの人?、などとA児の考えを集団に繋げているのが良いように思う」など、他者の保育実践からよいと思われる方法に気付き、自分の実践力を向上させることとなりました。
その折も、単に映像を視聴するだけではなく、補助シートを作成しました。自分の集会場面における援助の特徴を記載する欄を設けました。また、自分も学びたい、やってみたいと思った、他の先生の実践の特徴(立ち位置、動き、言葉、表情)を、より具体的に記載し、理解を深める欄なども設けました。
3)保育を「語る」ことから、さらには「考える」ことへとつなげてみよう
ビデオを活用しなくとも、園内研修では、保育を「語る」ことをさらに深めて一緒に「考える」ことが可能であると思います。以下に研修例を挙げます。
① 保育の中で、保育者が「嬉しかった」、是非同僚に「紹介したい」と思った、子どもの「育ち」「学び」を感じたと思った子どもの実際の様子を取り上げてみましょう。何がどんな風に育ったり学んだりしたのかを、より具体的に(言葉、行動、表情、姿等)話すとよりよく共有することができると考えます。
② 次に、「嬉しかった」「紹介したい」と思った理由を考えてみましょう。
③ また、子どもの「育ち」「学び」につながった、環境構成や保育者の配慮、援助について抽出し、ディスカッションしてみましょう
④ さらには、子どもたちのこれからの育ちや学びとして、何を期待するのか、具体的に挙げましょう。
⑤ 加えて、育って欲しい子ども像の共有を図り、そのための環境構成、保育者の配慮や援助について、出し合ってみましょう。
⑥ 振り返りやまとめるために、出てきた意見を付箋等に書き、KJ法で分類し共有化を図りましょう。
4)保護者に配るクラス便りなどの記録を一緒に読み合おう
クラス便りなど保護者に配布する保育の記録を一緒に議論しながら書くことも推奨したいと思います。業務記録は文学表現とは異なり、訓練により、どんどん書き方が定着し、また語彙も増え、より表現力がつきます。まずは記録嫌いを克服し、残したい場面や言葉、行為を楽しく記録する習慣作りから始めていっていただきたいと考えます。
同僚性が育っている組織であれば、「こういった方が分かりやすいかもしれない」「Aちゃんの○○の時の場面を紹介したらより、保護者に伝わるように思う」といった提案が大いに出てきます。
次週の記事は【005 記録への苦手意識を克服しよう】です。
※本記事の内容は、特定非営利活動法人ちゃいるどネット大阪情報誌「ちゃいるどネットOSAKA」に掲載されたものを許可を得て転載しています。
(執筆者 北野幸子 2018年3月17日)