Chapter 14 Gender Development During Childhood
Campbell Leaper
pp.326-377
この章では、社会文化的な性であるジェンダー(gender)の発達について、気質などの遺伝的要因の影響を扱った論文から仲間関係、親、教師などの環境的要因の影響について述べられた論文など幅広く紹介しています。
”sex”と”gender”という用語の用法に関しては、いくつかの異なる用法がありますが、本章では、
”sex”はXX、XYなどの性染色体に基づいた「生物学的性差」という狭義の意味として使用し、”gender”は男性および女性としての個々の「社会的分類」について言及する際に用いています。
本章では、子どものジェンダー発達における現代の研究をレビューする。文化・社会的構造、認知、動機づけ、生物学的影響に焦点を当てた理論についてまとめられている。これらの理論的枠組は、次の領域においてジェンダーに関連したバリエーションを解釈する際に用いられる。すなわち、気質(temperament)、ジェンダースキーマ(gender schemas)、自己概念(self-concepts)、性差別的態度(sexist attitudes)、男女別の仲間集団関係(gender segregation and peer group relations)、遊び(play)、スポーツ(sports)、学業成績(academic achievement)、コミュニケーションスタイル(communication style)、直接的および間接的攻撃(direct and indirect aggression)、セクシャルハラスメント(sexual harassment)、友情関係の親密さ(friendship intimacy)である。ジェンダーの類似性やジェンダー内の変動性が重視されている。
キーワード:人間の性差、性役割、性同一性、性差別、仲間関係、子ども期の遊び行動、学業成績、運動への参加、攻撃性、親密性
ジェンダーは誕生から子どもの生活を組織化し形成する社会的カテゴリーである。
ジェンダー発達についての最も最新の理論は、社会的、心理的、生理的な影響の複合的 な影響を暗に陽に認めている。しかしながら、特定の結果に関する特定のプロセスをどの程度強調するかは理論によって異なる傾向がある。
子ども期の思考と行動における平均的なジェンダー差に有意差が見られる時、ほとんどの属性において通常差異は取るに足りないか小さい。男児と女児の区別には一般的に大きな重なりがあり、それぞれのジェンダー内のバリエーションも通常大きい。
最も早期に出現する平均的なジェンダー差は、2つの気質的特性と関連しているものもある。一つは、女児が男児よりも自己統制力が高い傾向があること。すなわち、男児は衝動性が女児より高い傾向がある。二つ目に、男児は活動レベルにおいて女児よりも高い傾向があるという気質的特徴である。
ジェンダーに関連した自己概念と態度(ジェンダー・スキーマ)は、自分自身のジェンダーに関連した物に対してより大きな注目が向くために、特定の対象物や活動における子どもの興味を形成しうる。集団内のバイアスは、のちに性差別(ジェンダーに基づいた偏見や差別)に繋がることもありうる。
3歳頃になると、子どもは同性の仲間と仲間になることを好む(ジェンダーの分離)。同性の仲間集団は、子どもがジェンダーに型付された規範を形成するのに強力な役割を持つであろう。同性の仲間やジェンダーに型付された遊び活動(gender-typed play behavior)への選好は、子ども期に見られる社会的活動において最も大きい平均的なジェンダー差である。活動が繰り返される中で、男女ともに子ども達はジェンダーに型付された遊び行動を通して、性別で異なる特定の行動を実践するのである。
米国や他の国において、ジェンダーの平等性の風潮が高まるにつれて、ここ数十年間で女児の運動競技への参加が劇的に増加した。スポーツにおけるポジティブな経験や親、コーチ、仲間からのソーシャル・サポートは、男児より女児のスポーツへの興味を持続させるのにより重要な要因かもしれない。多くの男児のスポーツ・チームに関連した伝統的でマッチョな文化は、ネガティブな結果を引き起こす(例えば、制限された情緒性、女児や非伝統的な男児への敵対的な態度)。
平均的に米国では、学業成績と高校卒業率は男子よりも女子の方が高い。特に女子は、読み書きにおいて男子よりも秀でているようである。一方、男子は、女子よりも物理科学やコンピュータ分野において女子よりも優れている傾向がある。女子と男子は数学や生命科学ではよく似ている。ジェンダー・ステレオタイプの期待から、(物理やコンピュータのような非伝統的領域における)女子の成績と(学業全般や読み書きにおける)男子の成績を制限している可能性もある。仲間、親、教師からのサポートは、これらの影響を相殺するのに役立つかもしれない。また、学業成績におけるジェンダー差は文化によって異なるバリエーションがある。
社会的相互作用やコミュニケーションにおける平均的なジェンダー差が、自己主張や親和的(affiliation)な表現に関して見られるとされている。男子は女子よりも高い自己主張を好みやすく比較的親和性は低い傾向がある(=優位な立場に立ちたがる)。一方、女児は男児よりも親和性を重視するため、親和性と主張を調和させる傾向が強い(=協調性を重視する)。
男子は女子よりも直接的な攻撃(言語的攻撃または身体的攻撃)を使用する傾向がある。これらの差異は、情動制御、情動予測、経験において平均的なジェンダー差に基づくことと関連している。間接的攻撃の使用における平均的なジェンダー差に有意差はないが、女子の間で最もよく起こりやすい攻撃のタイプである。
友人関係において、自己開示(self-disclosure)と情緒的支持(emotional support)は、男子より女子においてより起こることである。これらのパターンは、メディアにおける一般的な描写だけでなく、親や仲間のジェンダー・ステレオタイプに基づく期待によって強化される。
ジェンダー発達におけるほとんどの研究は、工業化された欧米社会の子どもたちのサンプルに基づいたものである。比較文化研究においては、特定に平均的なジェンダー差に関して文化的な類似性とバリエーションが示されてきた。しかしながら、多くのジェンダーに関連した傾向の文化比較的な一般化は十分ではない。
(発表担当者および発表日:白川佳子・伊藤理絵 / 2015年3月1日)
(まとめ:白川佳子)