Chapter 13 Prosocial Development
Eisenberg, N., Spinrad, T.L., & Morris, A. S. (2013).
pp. 300-325.
向社会的行動は、思いやり行動や他者に対する援助的な行動を指しますが、本章では、向社会的行動に関連する情動として、共感、同情、個人的苦悩を挙げ、それらを区別すべきであると強調しています。
第一著者のナンシー・アイゼンバーグは、気質(個人の傾向)における自己制御の側面であるエフォートフル・コントロール(Effortful Control; EC)の研究にも精力的に取り組んでいますが、エフォートフル・コントロール(EC)について、本章では独立した節としては扱われていません。
より詳しく知りたい場合は、『共感の社会神経科学』(ジャン・デセティ&ウィリアム・アイクス(編著). 岡田顕宏(訳). 勁草書房, 2009/2016年)の第6章「共感的反応:同情と個人的苦悩」(ナンシー・アイゼンバーグ&ナタリー・D・エッガム)を併せて読むことで、さらに理解を深められるでしょう。
本章では、共感に関連する様々な形態の反応(すなわち、「共感(empathy)」「同情(sympathy)」「個人的苦悩(personal distress)」)と向社会的行動を区別する。共感や同情の能力は人生の初期に生じ、概して子ども期を通して増大する。同情と向社会的行動における個人差は共に変化し、両者はかなり安定している傾向にある。向社会的な傾向は、向社会的な道徳的推論や社会的コンピテンス(社会的有能性)、自己制御、および攻撃性/外在化問題の表面化の低さと関連する。向社会的で共感的/同情的な反応の個人差は、ある程度、遺伝によるものではあるが、そのような個人差には環境要因も関連している。子どもが他者の内的状態を理解するのに役立つモデリングや理由づけ、および実践を含む指導的で(authoritative)で支持的な(supportive)養育は、より高いレベルの向社会的行動と関連づけられてきた。さらに、安定的な愛着形成がなされた子どもたちは向社会的な傾向にある。加えて、仲間や兄弟姉妹は向社会的行動のモデルとなったり、促したり、強化したりする。学校での介入およびボランティア経験は、子どもたちが同情的であったり、向社会的行動を行ったりする程度に影響を与えるように思われる。
キーワード: 向社会的行動(prosocial behavior),同情(sympathy),共感(empathy),個人的苦悩(personal distress),ボランティア活動(volunteerism),社会化(socialization),道徳的推論(moral reasoning),気質(temperament),介入(interventions),年齢変化(age change), 遺伝学(genetics)
向社会的行動と共感に類似する反応のニュアンスについて、検討すべきである。向社会的行動は、他者に対する利得が意図された自発的な行動として定義される。共感は、他者が感じていることと類似した感情的反応であると考えられる。同情は他者への配慮から生じる他者志向的な情動的反応を反映しており、個人的苦悩は自己焦点化した反応であると捉えられている。
乳児は、基本的な共感の能力をもって生まれてくるが、乳児期において情動理解や自己理解、および自他の情動を区別する能力など向上するにつれ、同情が増加する。同情と向社会的行動は、子ども期における認知的変化(例:抽象的思考,記憶能力)や社会情動的発達(例:情動の制御と理解)、および他者を援助する機会(例:ボランティア活動)によって増加する。
向社会的行動における個人差は、比較的安定する傾向にあり、いくつかの測度においては,女児の方が男児よりも共感的であり向社会的である。
快楽主義的な向社会的道徳判断をする子どもよりも、熟慮的で他者志向的な(もしくは、熟慮的か他者志向的のどちらかの)向社会的道徳判断をする子どもの方が、高い向社会的行動をとる傾向にある。
同情は、向社会的行動を動機づけ、高い同情性を示す子どもたちはより向社会的な傾向にある。
向社会的な子どもたちは、比較的社会的に有能であり、攻撃性や外在化行動の表面化が低い。共感に関連する反応と学業との関係には他の要因も媒介しているが、共感や向社会的行動を示す子どもは、学校生活でも成功する傾向にある。向社会的行動と学業的な到達度との関連は弱いが、比較的向社会的であったり共感的であったりする子どもは、相対的にクラス内で協調的であり、教室でも社会的に適切な振る舞いを示す。
制御/エフォートフル・コントロールの個人差は、高い共感関連反応と向社会的行動と関係しており、個人的苦悩は、低い制御/エフォートフル・コントロールと関係している。子どもの情動性は、共感にも同情にも関連している。
遺伝の影響は人生の初期には非常に弱く、年を経るに従い強くなるものの、遺伝も環境も子どもの向社会的で人を気遣う反応の個人差に寄与する。
誘導的なしつけは子どもの共感や同情、向社会的行動と関連し、援助行動に対して具体物による報酬を行ったり、懲罰的なしつけや愛情のないしつけをしたりすることは、子どもの共感や同情、向社会的行動と負の関係になりがちである。子どもは他者の向社会的行動を模倣し、親は若者に、奉仕活動は人生において意義のあるものだと示したり教えたりすることができる。
もし、指導的な養育をし、安定的な愛着を形成し、誘導などのしつけが暖かさを兼ね備えているならば、子どもは比較的向社会的になる傾向にある。加えて、子どもを必要以上に興奮させるよりは、子どもの理解を助け、心地よく、ネガティブ情動を制御する養育の方が、(個人的苦悩よりも)同情と向社会的行動を促す可能性がある。
仲間や兄弟姉妹は、向社会的行動のモデルとなり得るし、向社会的行動を強化もする。さらに、学校場面での介入は、子どもの向社会的反応を育むことが明らかにされている。
(発表担当者および発表日:広瀬美和/2014年5月)
(まとめ:伊藤理絵)