Chapter 9 Attachment Theory and Research: Precis and Prospect
Ross A. Thompson
pp.191-216.
アタッチメントとは、時間と空間を超えて人を結びつける持続的で情緒的な結びつき(Ainsworth, 1973)です。この結びつきが、危険やストレスのある状況での安全な避難場所となったり、困難に挑む際の安心感の源となったり、情動調整を支えたりします。
アタッチメント研究では、親子関係だけでなく、恋愛、友人、その他の他者との関係性も扱われますが、本章では親子のアタッチメント関係について論じられています。アタッチメントに焦点を当てた親子関係支援プログラムである“「安心感の輪」子育てプログラム”(http://circleofsecurity.net/)を参照されると、より理解が深まるでしょう。
アタッチメント理論では、早期の親子関係と継続的な影響について強い関心が向けられてきた。そしてそれは、発達精神病理学、 早期の介入、心的表象などに関する生涯発達の理論へと広がっている。
本論文は8つの問いに答える形で構成されている。
アタッチメントは誰を対象に発達するのか?
アタッチメントの生物学的な基盤は?
文化はアタッチメントにどのような影響をもたらすのか?
何がアタッチメントの安定/不安定に寄与するのか?
アタッチメントの安定性は時と共に変わるのか?
安定もしくは不安定なアタッチメントのその後は?
アタッチメントは思考や社会的表象にどのように影響するのか?
アタッチメント研究の臨床的意義は?
以上の問いに答えることで、早期の親子関係の重要性や今後の研究への示唆が得られるであろう。
キーワード:安定性(security),敏感性(sensitivity),内的作業モデル(internal working models),ストレンジシチュエーション(Strange Situation),ボウルビィ(Bowlby),エインズワース(Ainsworth)
アタッチメントの理論家は、乳児が養育者に強い情緒的な結びつきを求める動機は、保護と養育のための近接を維持するという生物学的な適応価値に由来すると考えている。したがって、アタッチメントは、種の進化における生物学的なルーツに深く根ざしているといえる。
乳幼児は、一般的には養育者にアタッチメントを形成する。しかし、自他や人との関係性に関する心的表象(内的作業モデル)が、どのように取り込まれるかによって、アタッチメント関係の安定性には個人差が生じる。
アタッチメントの研究者によって、乳児期からの実験・観察、養育者が評価する尺度、子どもや成人に対するインタビューなど、妥当性・信頼性のある尺度が開発された。
乳幼児は一般に複数の養育者にアタッチメントを形成するが、アタッチメントの安定性は大人側の子どもに対する敏感性が基盤になっている。しかし、それだけでなく、家族のストレスや子どもを預ける環境などからも影響を受ける。
乳児期に形成されたアタッチメントは、必ずしも一定不変のものではない。その後の発達過程で変化し、親子関係の質が変わる可能性もある。
安定したアタッチメントは、他者との親密な関係におけるコンピテンス、ポジティブな人格特性、建設的な自己概念、高度な情動理解、情動制御など、社会性や人格の発達に重要な影響をもたらす。
安定したアタッチメントの重要性は、子どもが“どう行動するか”だけでなく、自分自身や他者を“どう認識するか”という側面にも関わっていることである。これは“内的作業モデル”の概念から説明できる。
アタッチメントの安定さ/不安定さがもたらす結果は、アタッチメントの安定性の発達の時期にも明らかとなるが、長期的な結果を知るには、親子関係の継続的な質の影響も考慮すべきである。
アタッチメントの理論や研究は、発達初期におけるリスクとレジリエンスの関連や子どもの生育歴と現在の経験の重要性を強調し、子どもに影響を与える人間関係を理解することによって、早期の子どものメンタルヘルスについて重要な影響を与えてきた。
アタッチメントの理論や研究は、子どもと家族に関する問題にも重要な示唆を与えてきた。例えば、保育の質の重要性、離婚や親権についての政策、子どもにとって好ましくない家庭環境になったときの介入などである。
(発表担当者および発表日:安藤智子/2014年7月)
(まとめ:伊藤理絵)