Chapter 2 Personality and Emotional Development
Nathan A. Fox, Bethany C. Reeb-Sutherland, & Kathryn A. Degnan
pp.15 - 44.
近年、神経科学を抜きに発達心理学を語れなくなっており、特に情動研究については、医学、脳神経科学、生理学等に関する研究とともに急速な進展がみられています。
本章では、情動発達研究について、従来、行動科学で研究されてきた恐怖と報酬に関する条件付けの知見を神経科学的に考察しています。条件付けの研究で説明されてきた恐怖や報酬に関するプロセスは、情動の元となる神経経路を同定する研究が進むにつれて、種を越えて類似して見られることが明らかになってきています。
また、神経回路の発達を理解することは、情動表出の個人差を含むパーソナリティを理解することにも関連します。本章の後半では、遺伝子と環境の相互作用が生み出す精神疾患や反社会的行動についても述べられています。
過去 20 年にわたり、情動発達の研究や情動と認知のインターフェイスについての関心が盛んになっている。この高まりは、 2つの基本的な動機づけ/情動状態の発達と神経回路に関する研究の進展と並行している。その一つは、脅威(threat)や危険(danger)によってもたらされる恐怖(fear)であり、もう一つは、報酬を積極的に追い求めたり受け取ったりすることで生じる報酬/喜び(reward/ joy)である。この章では、乳児と子どもの情動発達と気質について考える際の伝統的なアプローチをレビューした後、恐怖と報酬の発達に関する神経科学研究について概観する。特に、このような研究および遺伝子と環境の相互作用(gene×environmnet interaction)に関する調査が、パーソナリティと情動発達の研究にいかに影響を与え得るかについて重点的に述べる。
キーワード:情動(emotion),パーソナリティ(personality),気質(temperament),恐れ(fear),報酬(reward),ニューロイメージング(neuroimaging),遺伝子と環境因子(gene×environment),扁桃体(amygdala),側坐核(nucleus accumbens),前頭前皮質(prefrontal cortex)
過去50 年にわたって、情動研究は人間行動科学の中心にあった。
情動研究は、表情や音声、姿勢などを測定するアプローチの発展に支えられてきた。
情動を研究するための測定技術が乳児や子どもも対象に開発されたことで、情動発達研究の進展につながった。
げっ歯類やヒト以外の霊長類を対象として、広く研究されてきた2 つの神経システムには、恐怖と報酬の回路が含まれている。
恐怖(fear)の回路は、動物の恐怖条件付けを調査したり操作したりすることで研究されてきた。そのシステムには、扁桃体(amygdala)、海馬(hippocampus)、および腹外側前頭前野(ventrolateral prefrontal cortex)が含まれている。
報酬(reward)の回路は、ドラッグや食べ物、お金、性交渉などの欲求刺激に対する動物や人間の反応を調べることで研究されてきた。そのシステムに関連するものとして、大脳基底核 (basal ganglia)や線条体(striatum)(尾状核(caudate),被殻(putamen),側坐核(nucleus accumbens)) が挙げられる。
恐怖システムあるいは報酬システムに含まれる遺伝子も特定されており、様々な多型に及ぼす環境の影響について、どちらの神経システムにおいても広く研究されている。
現在まで、神経科学研究において、小動物 (げっ歯類やヒト以外の霊長類)を対象に、恐怖あるいは報酬のシステムの発達研究がなされてきた。
情動発達、情動表出における個人差、およびその根本となる脳基盤の研究を進展させる鍵は、基礎研究から臨床・応用研究の橋渡しとなるトランスレーショナルリサーチ(TR)であり、人間の乳児も動物モデルも対象にする必要がある。
機能的ニューロイメージングや脳波(EEG)による音源定位法などの脳画像化技術の発展は、恐怖と報酬、回避と接近動機システムの基盤となる脳回路の発達を特定することにつながるだろう。アタッチメント理論では、早期の親子関係と継続的な影響について強い関心が向けられてきた。
(発表担当者および発表日:池田慎之介・浜名真以/2015年5月)
(まとめ:伊藤理絵)