Chapter 29 Moral Development: The Social Domain Theory View.
Judith G. Smetana.
pp.832-863.
この章では、道徳性の発達について社会的領域理論からまとめています。著者のSmetanaは社会的領域理論の著名な研究者です。
社会的領域理論では、道徳的な判断や行動の基盤となる社会的認知の領域を「道徳(場面例:いじめ,殺人,緊急場面での援助)」「慣習(場面例:挨拶,宗教儀式,マナー,校則)」「心理(個人/自己管理)(場面例:趣味,遊びや友人の選択)」という3つの領域に分けて考えます。
近年では、道徳判断と心の理論に関する研究も進められています。また、Vol.2のChapter5では、認知神経科学的立場から社会的領域理論について批判的に述べられています。
本章では、道徳判断の発達について、社会的領域理論の視点から、関連する実証研究の概観も含めて述べている。正義、福祉、権利に関する個人の概念である道徳性は、社会的慣習や個人的問題の概念とは独立して発達し、組織化された社会的知識の領域という独特のシステムであると考えられる。これらの概念は、子どもの様々な社会的相互作用および社会的経験から形成される。
子どもは、社会をどのように理解し、解釈しているのであろうか。そして、それは乳児期から青年期にかけて、どのように変化するのであろうか。様々な出来事は感情に影響を及ぼし、その結果、情報的仮定(事実についての想定; informational assumption)や規則性の知識が与えられるように、社会生活の複雑さと多様性には、道徳的概念の検討が伴うものである。本章では、さらに、その他の社会的知識の領域との共存や調整についても考察している。
キーワード:道徳性(morality),道徳判断(moral judgments),道徳性発達(moral development),権利(rights),社会的慣習(social conventions),個人的選択(personal choices),自律性(autonomy),文化(culture)
あらゆる文化において、子どもの社会に関する思考は分化しており、道徳的、社会慣習的、個人的概念が共存している。
道徳的、慣習的、個人的概念は、社会的知識の個別の領域や発達システムを形成する。
それぞれの領域を含む概念は、異なる発達曲線を示す。
子ども期初期において、道徳的概念は主として、明らかな身体的な危害および福祉への関心に焦点づけられる。公平性の概念は、子ども期中期の平等(equality)および対等な扱い(equal treatment)から青年期初期の公平(equity)の概念へと発達していく。
子どもや青年は、道徳的、慣習的、個人的概念を区別してはいるものの、出来事や状況を評価する際には、各領域が互いに葛藤、または共存するため、異なる領域の概念が重複して判断される。
道徳評価における明らかな差異は、子どもの現実の本質に関する記述的な理解の違い(=子どもの情報的仮定(事実についての想定; informational assumption))によって生じているのかもしれない。
子どもは、道徳判断をする際に、道徳的および事実的信念の両方を考慮する。
感情の知識と状況に対する感情反応は、道徳および社会的判断の発達に不可欠であり、影響している。
道徳的、慣習的、個人的概念は、社会環境における様々に異なる子どもの社会的経験と規則性によって構成される。
判断する際に、個人が道徳的および非道徳的な考慮について、いかに重みづけし調整するかは、文脈や文化、発達により異なるであろう。
(発表担当者および発表日:長谷川真理/2014年6月)
(まとめ:伊藤理絵)