Chapter 27 The History of Intelligence: New Spectacles for Developmental Psychology
James R. Flynn and Clancy Bair
pp.765-790.
本章の著書の一人であるジェイムス・フリン氏は、人類の知能指数(IQ)の得点が過去100年に渡って上昇し続けているという「フリン効果」を提唱した人物として広く知られています。
古くから知能研究では、一卵性双生児の知能の相関が非常に高いという研究結果から遺伝の影響が非常に強いと言われてきました。これに対して、フリンは遺伝子と環境の適合であると主張しています。
例えば、知能が高いことで、後の学業成績の有利さを強め、さらにトップクラスに入ることにより学習環境を向上させて、よい大学環境に入る機会を得るなどがあります(「個人的増幅器」)。バスケットボールを例にあげれば、背が高く俊敏な遺伝子を持つ双生児が、より良いバスケットの訓練を受ける機会を得て上達していくこともあります。また、テレビの出現によって、一世代前のバスケットボールの平均的な技術レベルよりも現代のレベルが総じて上がっていることなどは「社会的増幅器」と呼ばれています。このように、個人の行動に影響は与えるのは遺伝と環境の適合であるとフリンは主張しています。
本章では、知能に関するさまざまなデータを用いて、人種差別などの偏見によって、人々が元々持って生まれたIQが低下してしまうリスクがあることなど、環境の及ぼす影響について様々な角度から言及しています。
心理測定学と発達的手法はどこが共通しているか不明瞭である。つまり、その発現の全てにおいて人類の知能を理解することの共通点があいまいなのである。それぞれの手法は普遍的に関連のある理論的構造をもつ傾向がある。20世紀の認知的な歴史は、時代とともに著しいIQ上昇を示している。Speaman派の人々は、IQが世代を通して不変の要因でなければ、IQ上昇を信用しない。例えば、彼らは一般因子gの増加を示している。発達的手法は、時代と共に変化してきた認知を説明することができる。なぜなら、発達的手法は、人の性格と彼らが存在する環境との間の相互作用に重点を置いているからである。我々は認知的スキルの歴史を再構成するためにIQ上昇を用いる。すなわち、我々は、認知能力の歴史を再構成するためにIQ上昇を使う。さらに、我々は歴史学と発達心理学と心理測定を統合するために、心の習慣、筋肉としての心、認知的優先のような概念を導入する。我々は、教育と介入、人生を通して認知能力を最大限にすること、遺伝と環境、集団の差異の間の含蓄する意味を明らかにする。
キーワード:知能(intelligene)、安定したIQ上昇(secular IQ gains)、発達心理学(developmental psychology)、ピアジェ(Piaget)、心理測定学(psychometrics)、スピアマン(Spearman)、性質/養育(nature/nurture)、介入(interventions)、教育(education)、集団の差異(group differences)
発達的手法(ある年齢からある年齢の間に達成される認知レベル)も心理測定的手法(個人差を測定するのに一般因子gを用いる)も20世紀の大量なIQ上昇を明らかにはしていない。しかしながら、発達的手法は多くの概念を与えてはくれる。
IQ上昇は、我々に認知的な歴史について言及することを許す歴史的な人工の産物である。人々は科学と産業化が私たちの心の習慣や社会の認知的な優先順位を変容させたので、科学的な視点によって実用的な視点を埋め合わせてきた。
科学的視点は、世界を理解する前提条件として世界を分類したり、仮説を分析するのにロジックを用いる際に心の習慣を促進した。そのため、得点上昇は、WISC(分類)やレーヴン漸進的マトリックス(未完成の関連ある図形にロジックを用いるもの)の「類似」下位検査のようなある認知的スキルの測定において並外れて大きいのである。得点上昇のパターンは、ピアジェ派の発達段階またはさまざまな検査のg負荷量または下位検査のいずれかを繰り返すべきことにはあたらない。
認知の歴史は、いかに発達的手法と心理統計的手法か統合されるべきなのかを示している。それが示唆しているのは脳というのは筋肉のようなものであるということである。筋肉というのはそれが作用を及ぼす対象をもつような用い方の影響を示すものである。すべての人々の脳は年齢と共に変化しており、頭のよい人と鈍い人の脳は、個人差を示しており、今日の脳は過去と比較して差異があることを示している。
IQは、個人差と同様に個人の社会的環境を測定する。私たちの祖先が私たちと同じくらいの知能だったかどうかは、4つの比較に分かれる。つまり、①脳は概念化において悪いというわけではなかった、②祖先は毎日の生活で認知的問題を解決するくらいには能力があった、③祖先は世界を抽象的に分類するかまたは仮説にロジックを用いるほどの能力はなかった、④祖先の発達した脳は使用に応じて私たちの脳とは異なるだろう(特別なマッピングをしなければならないタクシーの運転手は拡張された海馬を発達させる)。
コホート内のIQ分散は、強力な増幅器のコントロールをうまく利用して個人差を反映する。これは遺伝的な差異に強い影響力をもつ環境要因を吸収させる。年代ごとのIQ上昇は、大きい影響力をもたらす社会的増幅器を誘発する環境的要因を示すだろう。環境が脆弱であることを示す親族研究と環境が強い影響力をもつことを示すIQ上昇は、うまく折り合いをつけられるはずである(Dickens/Flynn理論)。
ディケンズ・フリン理論(Dickens/Flynn)は、集団のIQ差を説明するための新しい研究手法である。それは、2つのグループが享受する環境の質が下位文化の利用できる環境の視点に関して大きな差異があることを示している。
アイファース(Eyferth)は、黒人と白人の間のIQ格差の説明が外顕的な差別に依存することを支持しており、文化的な差異を無視するべきではないということを示している。
一時的な環境または教育的介入は、長期的なIQではなく、有益な非認知的特性を向上させるかもしれない。十分な認知的可能性を実現させるためには、誰かが一連の豊かな環境を享受するか、またはその人が生涯に渡って認知的チャレンジを追究するかのどちらかである。
年代ごとのIQ上昇は、因子分析によって与えられるスキル間の相関が機能的な関係性を示すのかどうかを検証することができる。それゆえ、相関は一つの認知的スキルを教育することが他のスキルを本当に向上させるのかどうかを示唆することができる。
(発表担当者および発表日:白川佳子/2015年7月)
(まとめ:白川佳子)