Chapter 7 Sex and Sex Differences.
Melissa Hines
pp.164-201.
この章は、生物学的な性(sex)に焦点が当てられています。社会文化的な性であるジェンダー(gender)に関する章(vol.2. chapter14)と併せて読むことで、自分がこれまで抱いていた「男らしさ/女らしさ」に関するイメージが変わるかもしれません。
女の子は女の子らしいおもちゃを、男の子は男の子らしいおもちゃを好むことや男の子らしく・女の子らしく行動することの一因に、出生前のホルモン環境が影響しているなど興味深い知見が述べられています。
性差を生じさせる要因には、遺伝子、ホルモン、社会化(出生後の社会的環境など)、認知的発達が考えられ、それらが組み合わされて、平均的な男女間での異なる行動およびそれぞれの性別と結びついた行動の違いを生じさせる。
本章では、認知的能力(例:空間的・数学的・言語的能力)、幼少期の性別の行動(例:おもちゃ・活動・遊び仲間の選好)のような要因が、中核的ジェンダーアイデンティティ(core gender identity)および性的指向性(sexual orientation)に及ぼす影響に関するエビデンスをレビューする。
それぞれの要因の重要度は到達点によって異なると思われるが、結論として、少なくとも今日まで研究対象となった集団においては、遺伝も環境も行動上の性差に寄与していることが示されている。例えば、生得的な要因は、男女で異なる典型的なおもちゃへの好みに関して特に重要だと思われる一方で、社会的および文化的要因は数学の成績における性差について大きな役割を果たしているように思われる。
キーワード: 性,ジェンダー,差異,人間,ホルモン,遊び,玩具,認知,性的指向性,ジェンダーアイデンティティ
男性と女性は心理学的および行動の面でほぼ同じであるが、いくつかの領域において平均的な差異がある。これらの違いに大小の差はあれ、身長差に比べると小さいものが多い。もっとも大きな性差は、男性としてまたは女性としての自己意識や性的関心の指向性である。子ども期における遊び行動には、大きな性差が現れるものもある。共感性や攻撃性といった情動領域は、認知能力と同様に、男女差が小さい方の領域である。
心理学的および行動の性差は、次に示す要因が組み合わされて生じる。遺伝情報、初期のホルモン環境、親や仲間および他者による出生後の社会化、ジェンダーについて認知的に理解することおよびジェンダーに適した行動を評価することに関する発達などである。
性差が現れる行動は、様々な要因が組み合わされて生じる。社会的および文化的要因が数学的能力評価尺度の成績について性差をもたらすことにおいて大きな役割を果たしているように思われる一方で、出生前のホルモンは子どものおもちゃ選好の性差において重要な決定要因であるように思われる。
女は空間的・数学的能力テストで良い成績を取れないだろうという信念は、成績不振の原因となる。これは、ステレオタイプ脅威(集団が自分の成績に対してネガティブなステレオタイプを自覚することで生じる現象)と、ある程度関係すると思われる。
性的指向性における変動性と初期のホルモン環境は、ある程度関係すると思われる。社会的および文化的要因も重要であると思われるが、現時点で、性的指向性に影響を及ぼす固有の社会的もしくは文化的要因は特定されていない。
脳構造の性差は、生得性を意味しない。脳構造は経験に反応するため、ニューロンと神経突起は成人期でも変化し得る。
場合によって、男性の脳および女性の脳で異なる機能をしたとしても、行動的または心理学的には同じ結果になるときがある。
(発表担当者および発表日:伊藤理絵 / 2014年1月24日)
(まとめ:伊藤理絵)