陸軍大将の奨学碑

大分県別府市南立石小学校

2023年1月　大分県別府市を訪ねました。南立石小学校に奨学碑が残されています。この碑は、昭和13年(1938)の建立、陸軍大将・南次郎(1874-1955)の書によるものです。南次郎は、大分県豊後高田市出身の軍人で、郷土の英雄でした。日出町にその墓碑もあります。他にも書が残っています。（小学校の建築記念碑/大分県日出町川崎小学校）。学校教育に、軍事色が強まっていく時代を物語る碑と言えます。

関連資料

碑

裏面碑文

南次郎

学校

碑文

奨學碑文

史蹟風光ニ惠マレテ人心自ニ諧和ス洵ニ南立石ハ教學ノ聖地ナリ惜哉地惼シ時到ラズシテ施設未ダ之ニ伴ハズ教育的薫化亦完璧ヲ期シ難キ恨アリ學校後援會深ク之ヲ憂ヘ市ニ陳情スルニ黌ノ改築ヲ以テス余適々市長タリ迺チ其ノ衷情ニ諒トシ之ガ計晝ヲ樹ツ再來數閲月會員並篤志家克ク協力シ校地貮千七百坪工費凡六千圓ヲ募リテ整地完了成ル茲ニ於テ本市亦参万五千余圓ヲ投ジ工事半歳校舎ノ改築ヲ了ル四周扶濶光彩陸離世上稀ニ見ル學園ニシテ眞ニ聖代ノ慶事ト謂フ可シ　今同會發起ノ下ニ校庭ニ奨學ノ碑ヲ建テ此ノ感激ヲ永ク後世ニ傳ヘ以テ後進勸學ノ礎石タラシメントス乃チ題字ハ之ノ郷土出身ノ偉人南大將ノ揮毫セラレシ恵忠烈火ノ如ク清㢘水ノ如ク偉勲赫々タル

大將本来ノ面目宛然トシテ碑面ニ躍如タリ當ニ匹夫ヲシテ悟ラシメ懦夫ヲシテ起タシムベシ　世ノ進學ノ子弟ヨ余ハ諸氏ガ此ノ碑ヲ仰ギツツ朝ニ其ノ心ヲ正シ夕ニ其ノ行ヲ省ミ能ク忠孝ノ根幹ヲ完ウシテ他日必ズヤ皇國有爲ノ良材タル可キヲ信ズ古詩ニ曰ク少年易老學難成ト須ク寸蔭ヲ惜ミ螢雪ヲ積ミ切磋琢磨誓ッテ素志貫徹ニ邁進セラレンコトヲ不肖㢘衷心冀望シテ巳マザル也

昭和拾参年春　別府市長代議士　小野〇撰書

解説

奨学碑文

史蹟風光に恵まれて　人心自に諧和す（※1）　洵（まこと）に南立石は教学の聖地なり

惜哉　地惼（せま）し時到らずして　施設未だ之に伴はず　教育的薫化（※2）亦完璧を期し難き恨あり

学校後援会　深く之を憂へ　市に陳情するに黌（まなびや）の改築を以てす

余　適々（たまたま）市長たり　迺（すなわ）ち其の衷情（※3）に諒とし（※4）之が計画を樹つ　再来数閲月（※5）　会員並篤志家克（よ）く協力し　校地2,700坪　工費凡（およそ）6,000円を募りて整地完了成る

茲（ここ）に於て本市亦35,000余円を投じ　工事半歳（※6）校舎の改築を了（おわ）る

四周（※7）扶濶光彩陸離（※8）世上稀に見る学園にして　真に聖代（※9）の慶事と謂ふ可し

今同会発起の下に　校庭に奨学の碑を建て此の感激を永く後世に伝へ　以て後進勧学（※10）の礎石たらしめんとす

乃ち題字は　之の郷土出身の偉人　南大将の揮毫せられし　恵忠烈火の如く　清廉水の如く　偉勲（※11）赫々（※12）たる

大将本来の面目宛然（※13）として　碑面に躍如（※14）たり　当（まさ）に匹夫（※15）をして悟らしめ　懦夫（※16）をして起たしむべし

世の進学の子弟よ　余は諸氏が此の碑を仰ぎつつ　朝に其の心を正し　夕に其の行を省み　能く忠孝（※17）の根幹を完うして　他日（※18）必ずや皇国有為（※19）の良材たる可きを信ず

古詩に曰く　少年易老学難成（※20）と

須（すべから）く寸蔭（※21）を惜み　蛍雪を積み　切磋琢磨誓って素志貫徹に邁進せられんことを　不肖（※22）　廉衷心（※23）冀望（きぼう）して　巳（や）まざる也

昭和13年（※24）春　別府市長代議士　小野〇撰書

※1かいわす。よく整って調和すること

※2くんか。よい方向に教え導くこと

※3ちゅうじょう。嘘のない本心

※4りょうとし。もっともだと了承すること

※5えつげつ。時が経つこと（閲にはしらべる、数えるなどの意味があるようだ）

※6はんさい。半年のこと

※7ししゅう。周囲。あたり

※8こうさいりくり。まばゆいほどに美しいさま

※9せいだい。優れた天子がおさめる世のこと

※10かんがく。学問をすすめること

※11いくん。手柄

※12かくかく。立派なこと。光り輝くこと

※13えんぜん。そっくりそのままであること

※14やくじょ。いきいきとして目の前でみるように現れるさま

※15ひっぷ。卑しい男。道理がわからない男

※16だふ。いくじなし

※17ちゅうこう。主君に忠義を尽くし、親に孝行をすること

※18たじつ。いつか将来

※19ゆうい。役に立つこと

※20少年老い易く学成り難し

※21すんいん。ほんのわずかな時間

※22ふしょう。へりくだって使う一人称

※23ちゅうしん。まごころ

※24西暦1938年