西曆2020年 9月 3日(木) 日本アマゾンのレビュー、『続・英単語の語源図鑑』
清水建二(しみず けんじ, 生年非公開)『続・英単語の語源図鑑』(かんき出版, 2019年9月)
レビュー題字: 偶然なのだろうが2020年のトレンドワードを盛り込む先見の明
投稿者 原田俊明
投稿日 2020/9/3
[レビュータイトル]
偶然なのだろうが2020年のトレンドワードを盛り込む先見の明
[レビュー本文]
2019年9月2日(月)刊行なのに、immune (p.139)や pandemic (p.169)や epidemic (p.169)といった2020年のトレンドワードを盛り込む先見の明には、ちょうど一年後の2020年9月2日(水)に読んでいて心打たれた。偶然なのだろうが偶然だって実力のうちだ。先にこの『続・英単語の語源図鑑』を読んでしまったが、『英単語の語源図鑑』(2018年5月)と『英熟語図鑑』(2020年6月)も併せて是非とも読んでみたい。
語源的にはほぼ同じ意味内容なのに、実際の意味は大きく異なる単語があり、語学の面白さが拡がる。たとえば、
<離れて(dis)+星(aster)>で disaster (災害)=「幸運の星から見放された状態」
があるかと思えば、
<離れて(de)+星(sire)>で desire ((強く)望む、願う、(強い)願望)=「幸運の星が出て来ることを望む」
がある。
同じ「星」つながりだが、せっかくp.153に astronomy (天文学)とastronomer (天文学者)と astronaut (宇宙飛行士)を載せたのだから、cosmonaut ((旧ソ連や東側ブロックでの)宇宙飛行士)や、よく混同されてしまう astrologer (占星術師、星占い師)と astrology (占星術、星占い)も載せてほしかった。まぁ小さな瑕疵に過ぎないが。
誤植や事実誤認をいくつか見つけたので、飽くまでも公益に資するべく報告したい。
p.84 語源メモ
[誤] 「富士山」は通常 Mt. Fuji と表すが、正確には Mount Fuji。
[正] 「富士山」は日本国内限定の英語表記(但し、厳密な意味で和製英語ではない)で通常 Mt. Fuji と表すが、正確には Mount Fuji。
p.114 語源メモ
[誤] 各個人に割り当てられた仕事の量を「ノルマ(norm)」と言うが、これはかつて大工が使った直角の定規に由来し、「標準」や「基準」の意味になった。
[正] 各個人に割り当てられた仕事の量を日本語で「ノルマ」と言うが、これは古代ローマの大工が使った直角の定規を意味するラテン語の女性名詞 norma に由来し、そこから派生したロシア語の女性名詞 norma (ノルマ: ここでは文字化けを警戒してロシア語キリル文字を避ける)が戦後のシベリア抑留を契機に日本語に入った結果である。ラテン語の norma は英語の名詞 norm (規範、基準、標準)にもなったが、日本語で言う「ノルマ」は英語の多くの文脈で quota が正しい。
[修正理由] シベリア抑留という先人の労苦に言及しないことには、語学的のみならず歴史的にも禍根が残る。
p.114 語源メモ
[誤] 日本の求人雑誌が作り出した転職のための「とらばーゆ」はフランス語の travailler (トラヴァイエ)に由来する。
[正] 日本の求人雑誌が作り出した転職のための「とらばーゆ」はフランス語の動詞 travailler (トラヴァイエ)の名詞形である男性名詞 travail (トラヴァユ)に由来する。
p.151 例文
[誤] There are some birds in the horrow tree.
[正] There are some birds in the hollow tree.
[修正理由] horrow という英単語は存在しない。日本の出版社にありがちなLとRの混同である。
p.152 語源メモ
[誤] stella は「星の(ような)」「一流の」の意味の形容詞だが、
[正] stella は「(サンゴ状動物の)星型突起体」の意味の名詞で、stellar は「(恒)星の、(恒)星に関する、(恒)星に似た、(恒)星のような」や、米語限定で「輝かしい、一流の」の意味の形容詞だが、
p.168 語源メモ
[誤] 根拠のない、でたらめなうわさ話を「デマ」と言うが、これは demagogue のこと。demagogue とは<人々(dem)を+駆り立てる(ag)+もの(gue)>に由来する。
[正] 根拠のない、でたらめなうわさ話を「デマ」と言うが、これは demagogy のこと。demagogy とは<人々(dem)を+駆り立てる(ag)+こと(gy)>に由来する。
p.170 語源メモ
[誤] イタリアの「幻想曲」は「ファンタジア(fantasia)」。
[正] 「幻想曲」の fantasia はイタリア語で「幻想」を意味する女性名詞 fantasia (ファンタージア)に由来するが、英語の発音は「ファンテイジャ」(ここでは文字化けを警戒して発音記号を避ける)。
p.192 immortal の説明
[誤] 不死の、普及の
[正] 不死の、不朽の
[修正理由] 単純な漢字変換ミス。
p.192 語源メモ
[誤] パリを舞台にしたエドガー・アラン・ポーの推理小説「モルグ街の殺人事件(_The Murders in the Rue Morgue_イタ)」の morgue は「死体安置所」の意味で、ラテン語で死ぬを表す mori に由来するが、
[正] パリを舞台にしたエドガー・アラン・ポーの推理小説「モルグ街の殺人事件(_The Murders in the Rue Morgue_イタ)」の the Morgue (現地のフランス語では la Morgue)とは、セーヌ川から引き上げられた身元不明遺体を安置するための建物に付けられた固有名詞である。普通名詞 morgue は元来「悲しく厳粛な表情」が転じて「(刑務官の)高慢ちきな態度」を表す単語であり、古オック語(古代南仏語)で「とんがった口、鼻口部、(動物の)突き出た鼻」を意味する mor または more に影響された俗ラテン語の動詞現在能動態不定詞形 murricare (口をとんがらせる)が現代フランス語の morgue に転訛した。
[修正理由] よくある誤解。著者のシミケン氏は mortuary という一般名詞と the Morgue (現地のフランス語では la Morgue)という固有名詞を混同している。なお、英語の mortuary (霊安室)は中世ラテン語の中性名詞 mortuarium (霊安室: ここでは文字化けを警戒して長音記号を避けるが第三音節の a は長音)、もっと遡ればラテン語の形容詞 mortuus (死んでいる)、更に遡ればラテン語の動詞現在能動態不定詞形 mori (死ぬ: ここでは文字化けを警戒して長音記号を避けるが第二音節の i は長音)に由来する。
p.198 語源メモ
[コメント] ロゴス(logos: ここでは文字化けを警戒してギリシア文字を避ける)というギリシア語への言及が欲しい。
p.214 語源メモ
[コメント] 西アフリカのリベリア(Liberia)共和国の英語読み「ライビーァリヤ: ここでは文字化けを警戒して発音記号を避ける」への言及が欲しい。
p.215 例文
[誤] His father is liberal. 彼の父は寛大だ。
[正] His father is liberal. 彼の父は(政治的に)リベラル(=反保守)だ。
[修正理由] 現代では「寛大な」の意味で形容詞 liberal を使うことはまずない。
p.250 語源メモ
[誤] 「午前」の a.m. は ante meridiem の短縮形で「正午(meridiem)の前(ante)」に、「午後」の p.m. は post meridiem の短縮形で、「「正午(meridiem)の後(post)」で、それぞれラテン語に由来する。
[正] 「午前」の a.m. は ante meridiem の略語で「正午(meridies)の対格 meridiem の前(ante)」に、「午後」の p.m. は post meridiem の略語で、「正午(meridies)の対格 meridiem の後(post)」で、それぞれラテン語に由来する。
[註] ここでは文字化けを警戒して長音記号を避けるが、主格 meridies の第二音節 i と、対格 meridiem の第二音節 i は共に長母音であり、更には主格 meridies の最終音節 e も長母音である。
p.274 語源メモ
[誤] 同様にイタリア語なら「ボンジョルノ(Buon giorno.)」、スペイン語なら「ブエノスディアス(Buenos dias.)」。
[正] 同様にイタリア語なら「ブォンジョルノ(Buon giorno.)」、スペイン語なら「ブェノスディーアス(Buenos dias.)」。
[註] ここでは文字化けを警戒してスペイン語の鋭アクセント記号を避けるが、dias の第一音節 i には鋭アクセント記号が付いている。また、スペイン語はフランス語やイタリア語と異なり、昼の挨拶は複数形である。
p.278 語源メモ
[誤] 熱帯・亜熱帯で発生する熱病の「マラリア(malaria)」は、ラテン語の<悪い(mal)+空気(aria)>に由来するが、
[正] 熱帯・亜熱帯で発生する熱病の「マラリア(malaria)」は、イタリア語の<悪い(mal)+空気(aria)>に由来するが、
[註] 死語・古代語としてのラテン語と、生きた現代語としてのイタリア語の、よくありがちな混同であるが、ちょっと調べれば区別はつく。また、英語発音「マレァリァ」(ここでは文字化けを警戒して発音記号を避ける)への言及が欲しい。
以上