西曆2014年 6月28日(土) 日本アマゾンのレビュー、『ケリー伊藤のプレイン・イングリッシュ講座』

Kelly Itoh著『ケリー伊藤のプレイン・イングリッシュ講座』(研究社, 2014)

http://www.amazon.co.jp/%E3%82%B1%E3%83%AA%E3%83%BC%E4%BC%8A%E8%97%A4%E3%81%AE-%E3%83%97%E3%83%AC%E3%82%A4%E3%83%B3%E3%83%BB%E3%82%A4%E3%83%B3%E3%82%B0%E3%83%AA%E3%83%83%E3%82%B7%E3%83%A5%E8%AC%9B%E5%BA%A7-%E3%82%B1%E3%83%AA%E3%83%BC-%E4%BC%8A%E8%97%A4/dp/4327452653/ref=sr_1_1?s=books&ie=UTF8&qid=1403938434&sr=1-1&keywords=%E3%82%B1%E3%83%AA%E3%83%BC%E4%BC%8A%E8%97%A4%E3%81%AE

レビュー題字: 勉強になるが紛らわしい書き方や誤りがあるのが残念

この本は日本人学習者が陥りやすい誤用例を豊富な文例で示してくれるので、その点は大変勉強になる。しかし紛らわしい書き方や誤りがあるのが残念だ。評価では星を1つ引いて星4つとする。下記には軽いものから深刻なものへと1番から4番まで種別化した。

1.著者が繰り返し出してくる「例」「語例」「使われているの」「人」といった表現は、全て「誤用例」と書くべきである。さもないとそのような誤用をする米人が多いなどと読者は誤読しかねない。

p.3の3行目

(誤)勘違いして用いている例を [後略]

(正)勘違いして用いている誤用例を [後略]

p.23の中央

(誤)a luck とする語例もよく見かけますが、[後略]

(正)a luck とする誤用例もよく見かけますが、[後略]

p.28の3行目

(誤)a research とする語例をよく見かけますが、[後略]

(正)a research とする誤用例をよく見かけますが、[後略]

p.88の中央

(誤)consider の目的語としての to不定詞を持ってくる例を多く見かけますが、[後略]

(正)consider の目的語としての to不定詞を持ってくる誤用例を多く見かけますが、[後略]

p.93の下から2行目

(誤)recommend は、よく次のような形で使われているのを目にしますが、[後略]

(正)recommend は、よく次のような形で使われている誤用例を目にしますが、[後略]

p.100の上部

(誤)suggest のあとに to不定詞を続ける人がいますが、[後略]

(正)suggest のあとに to不定詞を続ける誤用例がありますが、[後略]

2.誤りではないが、説明不足もある。

p.96の中央下

上記のように that 節の中の動詞は原形を用います。

の箇所に

イギリス英語では原形の前に should を挟み込む傾向がありますが、日本の学校では「米では should を省略」というウソを教えています。

の一文を挿むべき。

p.97の中央上

その場合、that 節の中の動詞は原形を用います。

の箇所に

イギリス英語では原形の前に should を挟み込む傾向がありますが、日本の学校では「米では should を省略」というウソを教えています。

の一文を挿むべき。

p.100の中央

その場合、that 節の中の動詞は原形を用います。

の箇所に

イギリス英語では原形の前に should を挟み込む傾向がありますが、日本の学校では「米では should を省略」というウソを教えています。

の一文を挿むべき。

p.55の下部

動詞 get との比較で、動詞 become の説明も欲しい。

p.63の下部

動詞 make の説明の中に、Sorry, I can’t make it tomorrow.の文章が欲しい。せっかくp.80下部にあるのだから。

p.83の下部

3. I saw Jane walk her dog in the park.「ジェーンが公園で犬の散歩をしているのを見た」

の説明に、日本人学習者がよくやる *walk with her dog では、「ジェーンが犬と一緒になって四つん這いになって歩いているのを」または「犬が人間と一緒になって二足歩行しているのを」の意味になってしまうという指摘が欲しかった。

p.83の下部

4. Walk, don’t run.「急がば回れ」

の説明に羅典(ラテン)語 Festina lente. / 長音記号つきで Festīnā lentē. からの直訳 Make haste slowly. それに More haste, less speed. をついでに入れて欲しかった。

p.108の上部

(誤)down and out で「落ちぶれる」「食いつめる」という意味の慣用句です。Eric Clapton の歌にもあります。

(正)down and out で「落ちぶれる」「食いつめる」という意味の慣用句です。George Orwell(本名 Eric Blair, 1903-50)にも [イタ]Down and Out in Paris and London (1933) がありますし、Eric Clapton の歌にもありますね。

註: 書名はイタリック体で。

3.細かい誤りも見受けられる。

p.10の中央

(誤)可算名詞の condition が a permanent health problem(慢性疾患)を表す時は、[後略]

(正1)可算名詞の condition が a chronic disease(慢性疾患)を表す時は、[後略]

(正2)可算名詞の condition が a permanent health problem(恒常的健康問題)を表す時は、[後略]

註: 著者の出した英語表現とカッコ内の和訳は意味がズレている。現役の医師に確認済。

p.20の下から2行目

(誤)・My interests; reading, listening to music, audio, golf [後略]

(正)・My interests: reading, listening to music, audio, golf [後略]

註: セミコロンは誤りで、正しくはコロン。和訳ではきちんとコロンになっているので、単なる印刷上の誤記であろう。

p.41の中央

(誤)1. Have some Daikon. [後略]

(正)1. Have some [イタ]daikon. [後略]

註: 小文字化したdaikonをイタリック体で。

p.82の8行目

(誤)しかし英語では The first baby boomers turn 40 this year.(ベビーブーマーの一番手は今年40歳を迎える)[後略]

(正)しかし英語では The first baby boomers turn 68 this year.(ベビーブーマーの一番手は今年68歳を迎える)[後略]

註: この本は2014年に刊行されたのだから「今年40歳」という情報では話が古すぎる。

p.98の1行目

(誤)・I was robbed of my wallet in the city.「私は市内で財布を盗られた」

(正1)・I was robbed of my wallet in the city.「私は市内で財布を強奪された」

(正2)・I was mugged in the street.「私は往来で強奪された」

註: 和訳の誤りを訂正。下はイギリス英語。

p.104の上部

(誤)2. The lake is four miles across.「その湖は直径4マイルだ」

(正)2. The lake is four miles across.「その湖は東西4マイルだ」

註: across が「直径」の意で使えるのは円形の場合のみである。それに直径を厳密に表現すると、~ is four miles in diameter.となる。

p.134の下部

問題5

インターネットのことなら何でもご相談に応じます。

という問題文について

解説にあるようにまず「来てください」という表現が必要です。(p.135の中央上)

この日本文は「客寄せ」のための広告ですから、(p.135の下部)

英語ではまず客に来てもらわなければならないので、(p.135の下部)

したがって、まず来てもらうために(p.135の最下部)

模範解答

Come and see us about the Internet.(p.136の下部)

という著者の指摘と英訳例に私は納得できない。そもそも日本文に「来てください」の意味などなく、著者が思い違いをしているだけだ。私なら We welcome your queries about the Internet.とする。

pp.144-5

×Mr. Ito is on a business trip.

×Mr. Ito is not available because of business trip.

×Ito is out of office now.

の伊藤氏は Ito の綴りだが、

p.145の中央のみ Mr. Itoh となっていて、首尾一貫性がない。ちなみにこの本の著者名は Kelly Itoh であるが、世界的に有名な伊藤博文(いとう ひろぶみ, 1841-1909)は英語圏では Prince Ito であり、伊藤忠商事は1992年までは C. Itoh & Co.であったが、1992年以降は Itochu Corporation である。長音に h を挿むと南アジアや西アジアなどで「ホ」と発音されてしまい、「イトホ」にされてしまうことは、半世紀以上前に大宅壮一(おおや そういち, 1900-70)が失敗談をまじえて書いていた。個人的な好みの問題だが私なら Ito の綴りの方が良いと思う。

pp.181-2

問題38

ビンのふたが開かないときは、熱湯をかけると開くようになる。(p.181の上部)

の模範解答が

If the cap of a bottle is too tight, pour hot water over it. And it will loosen.(p.182の上部)

とあるが、和文の「熱湯」の英訳を hot water としている箇所が腑に落ちない。boiling water とすべきである。確かにアメリカの飲食店で珈琲や紅茶を注文すると、ぬるいのが供される。こうしたアメリカ的感覚では hot water でも充分に熱いのかも知れないが、日本や欧州ではそれでは失格である。

【語法】 hot water は単に温度が高いというだけで, 必ずしも熱湯の意にはならない.

と研究社『ルミナス和英辞典』にある。

p.197の3から4行目

(誤)たとえば、High School education in the U.S. is going down the drain.(アメリカの高等教育は地に落ちんばかりだ)[後略]

(正1)たとえば、High School education in the U.S. is going down the drain.(アメリカのハイスクールの教育は地に落ちんばかりだ)[後略]

(正2)たとえば、Higher education in the U.S. is going down the drain.(アメリカの高等教育は地に落ちんばかりだ)[後略]

註: 著者はご存じないようだが、中学・高校の教育は中等教育(secondary education)である。そして大学・短大・大学院の教育こそが高等教育(higher education)なのである。英語の high と higher は似て非なるものである。これらを取り違えるとは、この手の本の著者にしてはお粗末である。

4.重大な学問的誤りもある。

p.40の中央下

(誤)これらの英語の核と言うべき単語は、人間の基本動作を表す短いアングロ・サクソン系の動詞です。

(正)これらの英語の核と言うべき動詞52語のうち、人間の基本動作を表す短い固有語(アングロ・サクソン系)の動詞が34語を占めています。

註: 私が調べたところ、これら52語のうちアングロ・サクソン系の率は65.38%、つまり34語に過ぎないことが判明した。他はヴァイキング系が9語、その他のゲルマン系が2語、そしてプレイン・イングリッシュ運動家が(ギリシア語系・ラテン語系とともに)目の敵にするロマンス語系の動詞が7語も入り込んでいる。細かく分けると下記のようになる。

1.古英語、別名アングロ・サクソン語(Old English or Anglo-Saxon): have, bear, blow, break, bring, come, do, draw, drive, drop, fall, give, go, hang, hold, lay, let, look, make, pull, run, set, shake, show, stand, stick, strike, talk, tear, tie, turn, walk, wear, workの34語。

2a・ヴァイキングのもたらした古ノース語(Old Norse): call (c.1200), cast (c.1200), get (c.1200), skip (c.1300), takeの5語。

2b.ヴァイキングの影響後の後期古英語(Late Old English): cut (c.1300), keep, put (c.1200), throwの4語。

3a.中期低地ドイツ語(Middle Low German)及び中期オランダ語(Middle Dutch): slip (c.1325)の1語。

3b.中期オランダ語(Middle Dutch): split (1590-91)の1語。

4a.古ノルマン・フランス語(Old Norman French): catch (c.1200)の1語。

4b.古フランス語(Old French): push (c.1225), touch (c.1300)の2語。

4c.古英語(Old English)と古フランス語(Old French)の混成: pick (c.1200)の1語。

4d.アングロ・フランス語(Anglo-French): move (c.1275), carry (c.1338), stay (c.1440)の3語。

著者は学者ではないので、英単語の語源について誤解するのも無理はない。しかしせっかく同じ研究社から『新英和大辞典 第六版』という立派な辞典が出ているのだから、編集部は一語一語確認すべきだったと思う。著者の知識の足りない部分を編集部で補ってほしかった。