ディケンズ作『二都物語』(1859年)から冒頭部

その時代が良きにつけ悪()しきにつけ、比較の最上級の意味に於いてのみ。

[朗読集]

冒頭のみ

https://www.youtube.com/watch?v=PiZiQ6hIITc

冒頭のみ2019年に英国旧電電公社(BT: British Telecom)=日本で言うNTTグループに相当=のCMで少女が途中まで引用

https://www.bt.com/beyond-limits

https://www.youtube.com/watch?v=3XDMUhyxZfM

Charles Dickens (1812-70), A Tale of Two Cities (1859)

Book the First—Recalled to Life

Chapter I. The Period

https://charles-dickens.org/a-tale-of-two-cities/

https://www.gutenberg.org/files/98/98-h/98-h.htm#link2H_4_0002

https://www.aozora.gr.jp/cards/000914/files/43702_18511.html

It was the best of times, it was the worst of times, it was the age of wisdom, it was the age of foolishness, it was the epoch of belief, it was the epoch of incredulity, it was the season of Light, it was the season of Darkness, it was the spring of hope, it was the winter of despair, we had everything before us, we had nothing before us, we were all going direct to Heaven, we were all going direct the other way—in short, the period was so far like the present period, that some of its noisiest authorities insisted on its being received, for good or for evil, in the superlative degree of comparison only.

それは、~だった、最高、~の中でも、時代(複数)。 それは、~だった、最悪、~の中でも、時代(複数)。 それは、~だった、時期、~の、叡智(えいち)。 それは、~だった、時期、~の、愚かさ。 それは、~だった、時代、~の、信仰。 それは、~だった、時代、~の、疑心暗鬼。 それは、~だった、季節・時節、~の、光。 それは、~だった、季節・時節、~の、闇。 それは、~だった、春、~の、希望。 それは、~だった、冬、~の、絶望。 我々は、有していた、全てを、眼前に。 我々は、有さなかった、何も、眼前に。 我々は、~いた、皆、向かって、直(じか)に、~へと、天国。 我々は、~いた、皆、向かって、直に、反対方向(=地獄)に。 手短に言えば、その時代は、~いた、あまりにも・・・に似て、現代、[ここまでが並列の第一節で、以降が並列の第二節] ので、何人かは、~の、最もうるさい権威者たち、[ここまでが第二節の主語で次が述語動詞] 主張した、~よう、それ(=その時代)が、受け取られる、良きにつけ悪()しきにつけ、~に於いて、最上級、~の、比較(複数)、~のみ。

それは時代の中でも最高の時代だった。それは時代の中でも最悪の時代だった。それは叡智(えいち)の時期だった。それは愚にもつかない時期だった。それは信仰の時代だった。それは疑心暗鬼の時代だった。それは光の時節だった。それは闇の時節だった。それは希望の春だった。それは絶望の冬だった。我々は眼前に全てを有していた。我々は眼前に何も有さなかった。我々はみな直(じか)に天国へと向かっていた。我々はみな直に反対方向の地獄へ向かっていた。手短に言えば、その時代はあまりにも現代に似ていたので、最もうるさい権威者然とした者なんぞは、その時代が良きにつけ悪()しきにつけ、比較の最上級の意味に於いてのみ解釈されるべきであると主張したほどだ。

原田俊明(はらだ としあき, b.1968)試訳(2021年=令和3年)

上記の原文と原田試訳を詩のような形にすると、、、

It was the best of times, それは時代の中でも最高の時代だった。

it was the worst of times, それは時代の中でも最悪の時代だった。

it was the age of wisdom, それは叡智(えいち)の時期だった。

it was the age of foolishness,

それは愚にもつかない時期だった。

it was the epoch of belief,

それは信仰の時代だった。

it was the epoch of incredulity,

それは疑心暗鬼の時代だった。

it was the season of Light,

それは光の時節だった。

it was the season of Darkness,

それは闇の時節だった。

it was the spring of hope,

それは希望の春だった。

it was the winter of despair,

それは絶望の冬だった。

we had everything before us,

我々は眼前に全てを有していた。

we had nothing before us,

我々は眼前に何も有さなかった。

we were all going direct to Heaven,

我々はみな直(じか)に天国へと向かっていた。

we were all going direct the other way—

我々はみな直に反対方向の地獄へ向かっていた。

in short, the period was so far like the present period,

手短に言えば、その時代はあまりにも現代に似ていたので、

that some of its noisiest authorities insisted on its being received,

最もうるさい権威者然とした者なんぞは主張したほどだ、解釈されるべきであると、

for good or for evil, in the superlative degree of comparison only.

全文をイギリス英語で(但し、第二巻第十八章「九日間」の途中 ~ 第三巻第七章「ドアへのノック」の途中の4時間05分42秒は別音源のアメリカ英語)

オーディオ録音第1面

https://www.youtube.com/watch?v=gmKLpo4SW6g (小説冒頭部から第一巻第五章「ワインショップ」「酒店」の途中 Madame Defarge knitted with nimble fingers and steady eyebrows, and saw nothing. まで / 新潮文庫2014年版ではp.13の小説冒頭部から、p.64終わりからp.65冒頭「ドファルジュ夫人は眉ひとつ動かさずにせっせと編み物を続け、そちらには見向きもしなかった。」まで)

オーディオ録音第2面

https://www.youtube.com/watch?v=kJsvfG7DTkE (第一巻第五章「ワインショップ」「酒店」の途中 Mr. Jarvis Lorry and Miss Manette, emerging from the wine-shop thus, joined Monsieur Defarge in the doorway to which he had directed his own company just before. から第二巻第三章「失望」「期待はずれ」途中 The wigged gentleman sitting opposite, still looking at the ceiling of the court. まで / 新潮文庫2014年版ではp.65の2~3行目「かくして酒店から出てきたジャーヴィス・ローリー氏とマネット嬢は、ドファルジュ氏が先ほど三人の客を案内した階段室の入口のまえに立っているところに加わった。」からp.118の10行目「対面にいるかつらの紳士は依然として法廷の天井を見上げていた。」まで)

オーディオ録音第3面

https://www.youtube.com/watch?v=_gxHH69tSss (第二巻第三章「失望」「期待はずれ」の途中 Had he ever been a spy himself? から第二巻第六章「何百もの人々」「何百という人々」の途中 “No, my dear, not ill. There are large drops of rain falling, and they made me start. We had better go in.” まで / 新潮文庫2014年版ではp.118の11行目「あなた自身はスパイだったことがありますか?」からp.179の13~14行目「「いや、なんでもない。大丈夫だ。大きな雨粒が落ちてきたので驚いたのだ。なかへ入ったほうがよさそうだな。」」まで)

オーディオ録音第4面

https://www.youtube.com/watch?v=73gtkVmOyXM (第二巻第六章「何百もの人々」「何百という人々」の途中 He recovered himself almost instantly. から第二巻第十章「二つの約束」「ふたつの約束」の途中 His chin dropped upon his hand, and his white hair overshadowed his face:まで / 新潮文庫2014年版ではp.179の15行目「医師はすぐに落ち着きを取り戻した。」から、p.231終わりからp.232冒頭「片手に顎(あご)をのせ、垂れた白髪で顔が隠れていた。」まで)

オーディオ録音第5面

https://www.youtube.com/watch?v=BBDAgFlPfc0 (第二巻第十章「二つの約束」「ふたつの約束」の途中 “Have you spoken to Lucie?” から第二巻第十五章「編み物」の途中 Thus, Saint Antoine in this vinous feature of his, until midday. まで / 新潮文庫2014年版ではp.232の2行目「ルーシーには話したのかな?」からp.290の13行目「サンタントワーヌのドファルジュ氏の酒店は、午前中はこんな調子だった。」まで)

オーディオ録音第6面

https://www.youtube.com/watch?v=ue0R5ddGYf0 (第二巻第十五章「編み物」の段落途中の第二文 It was high noontide, when two dusty men passed through his streets and under his swinging lamps: of whom, one was Monsieur Defarge: the other a mender of roads in a blue cap. から第二巻第十八章「九日間」の途中 He remained, therefore, in his seat near the window, reading and writing, and expressing in as many pleasant and natural ways as he could think of, that it was a free place. まで / 新潮文庫2014年版ではp.290の13~15行目「ちょうど午(ひる)に、埃(ほこり)まみれの男がふたり、街灯の揺れる通りを歩いてきた。ひとりはドファルジュ氏、もうひとりは青い帽子をかぶった道路工夫だった。」からp.345の6~7行目「窓辺の席で本を読んだり、何か書いたりして、ここは自由にふるまっていい場所だということを、できるだけ何度も、気持ちよく自然に示した。」まで)

オーディオ録音第7面~第9面は同シリーズではネット未公開のため別音源(アメリカ英語)

https://www.youtube.com/watch?v=_MNyBPmmans&t=32s (7:48:11-11:53:45 of 15:29:28)

(第二巻第十八章「九日間」の途中 Doctor Manette took what was given him to eat and drink, and worked on, that first day, until it was too dark to see—worked on, half an hour after Mr. Lorry could not have seen, for his life, to read or write. から第三巻第七章「ドアへのノック」「ドアを叩(たた)く音」の途中 “Well, my sweet,” said Miss Pross, nodding her head emphatically, “the short and the long of it is, that I am a subject of His Most Gracious Majesty King George the Third;” Miss Pross curtseyed at the name; “and as such, my maxim is, Confound their politics, Frustrate their knavish tricks, On him our hopes we fix, God save the King!” までイギリス英語版では音声なしのため妥協してアメリカ英語に依存 / 新潮文庫2014年版ではp.345の8行目「最初の日、マネット医師は出されたものを飲み食いし、暗くなって手元が見えなくなるまで働きつづけた。ローリー氏がどうがんばっても読んだり書いたりできなくなったあとも三十分ほど働いていたが、」からp.505の7~11行目「「わたしの愛しいかた」ミス・プロスは強調するようにうなずきながら言った。「早い話が、わたしは恵み深い国王陛下、ジョージ三世の臣民です」王の名前を口にしながら、膝(ひざ)をついて敬意を表した。「ですので座右の銘は、彼らの策略を惑わせたまえ、彼らの奸計(かんけい)をくじきたまえ、われらの望みは陛下にあり。神よ、国王を守りたまえ(訳注 イギリス国歌より)、なのです」」まで)

オーディオ録音第10面

https://www.youtube.com/watch?v=YnWDLhEO7nc (第三巻第七章「ドアへのノック」「ドアを叩(たた)く音」の途中 Mr. Cruncher, in an access of loyalty, growlingly repeated the words after Miss Pross, like somebody at church. から第三巻第十章「影の実態」「影の正体」の途中 Where I make the broken marks that follow here, I leave off for the time, and put my paper in its hiding-place. まで / 新潮文庫2014年版ではp.505の12~13行目「クランチャー氏もにわかに忠誠心が湧いたのか、教会にいる信徒のようにしわがれ声でミス・プロスのことばをくり返した。」からp.560の9~10行目「しばらく作業から離れ、手記を隠し場所に入れておくには、次のような区切りを入れる。」まで)

オーディオ録音第11面

https://www.youtube.com/watch?v=F8eCB_ioIVM (第三巻第十章「影の実態」「影の正体」の途中 “The carriage left the streets behind, passed the North Barrier, and emerged upon the country road. から第三巻第十三章「五十二人」の途中 Twelve gone for ever. まで / 新潮文庫2014年版ではp.560の11行目「馬車は街の通りをあとにして、北の門を通過し、田舎道に入った。」からp.612の9行目「十二人が永遠に去った。」まで)

オーディオ録音第12面

https://www.youtube.com/watch?v=h-11kVELm9w (第三巻第十三章「五十二人」の途中 He had been apprised that the final hour was Three, and he knew he would be summoned some time earlier, inasmuch as the tumbrils jolted heavily and slowly through the streets. から大団円=第三巻第十五章「足跡は永遠に消え去る」「足音が永遠に消える」の “It is a far, far better thing that I do, than I have ever done; it is a far, far better rest that I go to than I have ever known.” まで / 新潮文庫2014年版ではp.612の10行目「処刑は三時と告げられていた。護送馬車が通りをゆっくりガタゴトと進んでいく時間があるから、呼び出されるのはその少しまえだ。」から小説大団円p.659の4~6行目「いましていることは、いままでにしたどんなことより、はるかにいいことだ。これから行くところは、いままで知っているどんなところより、はるかにすばらしい安らぎの地だ」」まで)

既刊の代表的な和訳本四種(文庫本のみ)

1.

ディケンズ(Charles Dickens, 1812-70)『二都物語』(1859年)

佐々木 直次郎(さゝき なほじらう; ささき なおじろう, 1901-43)譯

岩波書店 岩波文庫(1936年=昭和11年)

第一卷 甦(よみがへ)る

第一章 時代

それはすべての時世の中で最もよい時世でもあれば、すべての時世の中で最も惡い時世でもあつた。叡智の時代でもあれば、痴愚の時代でもあつた。信仰の時期でもあれば、懐疑の時期でもあつた。光明の時節でもあれば、暗黑の時節でもあった。希望の春でもあれば、絕望の冬でもあつた。人々の前にはあらゆるものがあるのでもあれば、人々の前には何一つないのでもあつた。人々は皆眞直に天国へ行きつゝあるのでもあれば、人々は皆眞直にその反對の道を行きつゝあるのでもあつた。——要するに、その時代は、當時の最も口やかましい權威者たちの或る者が、善かれ惡しかれ最大級の比較法でのみ解さるべき時代であると主張したほど、現代と似てゐたのであつた。

2.

ディケンズ(Charles Dickens, 1812-70)『二都物語』(1859年)

中野好夫(なかの よしお, 1903-85)訳

新潮社 新潮文庫(1967年=昭和42年)

第一巻 よみがえった

第一章 時代

それはおよそ善き時代でもあれば、およそ悪()しき時代でもあった。知恵の時代であるとともに、愚痴の時代でもあった。信念の時代でもあれば、不信の時代でもあった。光明の時でもあれば、暗黒の時でもあった。希望の春でもあれば、絶望の冬でもあった。前途はすべて洋々たる希望にあふれているようでもあれば、また前途はいっさい暗黒、虚無とも見えた。人々は真一文字に天国を指しているかのようでもあれば、また一路その逆を歩んでいるかのようにも見えた——要するに、すべてはあまりにも現代に似ていたのだ。すなわち、最も口やかましい権威者のある者によれば、善きにせよ、悪しきにせよ、とにかく最大級の形容詞においてのみ理解さるべき時代だというのだった。

3.

ディケンズ(Charles Dickens, 1812-70)『二都物語』(1859年)

加賀山卓朗(かがやま たくろう, b.1962)訳

新潮社 新潮文庫(2014年=平成26年)

第一部 人生に甦(よみがえ)る

第一章 時代

あれは最良の時代であり、最悪の時代だった。叡智(えいち)の時代にして、大愚の時代だった。新たな信頼の時代であり、不信の時代でもあった。光の季節であり、闇(やみ)の季節だった。希望の春であり、絶望の冬だった。

人々のまえにはすべてがあり、同時に何もなかった。みな天国に召されそうで、逆の方向に進みそうでもあった。要するに、いまとよく似て、もっとも声高な一部の権威者が、良きにつけ悪しきにつけ最上級の形容詞でしか理解することができないと言い張るような時代だった。

4.

ディケンズ(Charles Dickens, 1812-70)『二都物語』(1859年)

池央耿(いけ ひろあき, b.1940)訳

光文社古典新訳文庫(2016年=平成28年)

第一巻 生還

第一章 時代

最良の時代にして、最悪の時代だった。知恵の時代であって、愚昧の時代だった。確信の時代ながら、懐疑の時代だった。清明の季節でありつつも雲霧の季節、希望の春にして絶望の冬だった。先行きは満ち足りて何一つ欠けることなく、しかもなお空漠は果てしなかった。人はみなまっすぐ天国に向かい、それでいて正反対を指していた。つまるところ、当節といかにもよく似た世の中で、口やかましい一部の識者は、この時代を理解するには良きにつけ悪しきにつけ、最上級の言葉の対比に照らすほかはないと説いた。