ジャン・ブルトニエール他「パリの空の下」対訳

フランス映画『パリの空の下』(1951年)=邦題『巴里の空の下セーヌは流れる』挿入歌

« Sous le ciel de Paris » (1951)

「パリの空の下」(1951年)

Lyrics: Jean Dréjac (1921-2003)

ジャン・ドゥレジャック作詞

Music: Hubert Giraud (1920-2016)

ユベール・ジロー作曲

【動画1】

映画のひとこま ジャン・ブルトニエール(Jean Bretonnière, 1924-2001)歌唱「パリの空の下」

https://www.youtube.com/watch?v=07jwdr68pho

【動画2】

映画の同年(1951年)に出たジュリエット・グレコ(Juliette Gréco, 1927-2020)歌唱「パリの空の下」(動画は1960年頃)

https://www.youtube.com/watch?v=utOEvlXehHk

【動画3】

イヴ・モンタン(Yves Montand, 1921-91)歌唱「パリの空の下」(動画はアラン・ドロンとの共演映画 Le Cercle rouge =『赤い輪』(1970年)=邦題『仁義』)

https://www.youtube.com/watch?v=t51mzqnAG1Q

【動画4】

エディット・ピアフ(Édith Piaf, 1915-63)歌唱「パリの空の下」(2015年リリースの生誕百年記念CDより)

https://www.youtube.com/watch?v=SC06NyI6KKU

【動画5】

ザズ(Zaz)こと、イザベル・ジェフロワ(Isabelle Geffroy, b.1980)が原文のフランス語で歌いながら、部分的にスペイン語版で歌ってしまうスペイン人男性歌手パブロ・アルボラン(Pablo Alborán, b.1989)と共演する「パリの空の下」(2014年リリースのアルバムから公式PV)

https://www.youtube.com/watch?v=XxGeJILz3bQ

[歌詞開始]

1.

Sous le ciel de Paris

パリの空の下

S’envole une chanson

湧()き上がるのは一つの歌(シャンソン)

Hum hum

ンーン

Elle est née d’aujourd’hui

その歌は生まれた、今日にも

Dans le cœur d’un garçon

歌を胸の内に抱いたひとりの少年(ギャルソン) [1]

訳者註1: 本来なら「その歌は今日にも生まれた / ひとりの少年(ギャルソン)の心の中に」と訳すべきだが、二行目の chanson (シャンソン)と最後の garçon (ギャふソン)で脚韻を踏んでいるため、敢()えて意味を犠牲にする。

2.

Sous le ciel de Paris

パリの空の下

Marchent des amoureux

歩くのは恋人たち

Hum hum

ンーン

Leur bonheur se construit

彼らの幸せは構築される

Sur un air fait pour eux

調べに乗って、彼らのために作られた調べに

3.

Sous le pont de Bercy

ベルシー橋の下に

Un philosophe assis

ひとり哲学者が座り

Deux musiciens quelques badauds

二人の楽師(ミュジシャン)、幾人かの野次馬ども

Puis les gens par milliers

そのうちに人が群がって

4.

Sous le pont de Paris

パリの橋の下

Jusqu’au soir vont chanter

夕刻まで歌うことになる

Hum hum

ンーン

L’hymne d’un peuple épris

魅()せられた人々の讃歌を

De sa vieille cité

自分らの古き都に魅せられた

5.

Près de Notre-Dame

聖母(ノートルダム)寺院へ近づけば、[2]

Parfois couve un drame

往々にしてドラマが燻(くすぶ)れば、[2]

Oui mais à Paname

そう、でもここ古き巴里(パリ)にては [2]

Tout peut s’arranger

全てが丸く収まりうる

訳者註2: 原文の脚韻 Notre-Dame (ノートゥふダーム)、drame (ドゥはーム)、Paname (パナーム)=パリの古い愛称形=の雰囲気を日本語で醸(かも)し出すため、意味は多少犠牲にしている。ヘタに直訳すれば「聖母(ノートルダム)寺院の近くで / 往々にしてドラマが燻(くすぶ)る / そう、でもパナームにては / (後略)」となる。

6.

Quelques rayons du ciel d’été

いくらかの日の光、夏の空から、

L’accordéon d’un marinier

アコーデオンをひとり艀(はしけ)の船頭が奏(かな)で、

L’espoir fleurit

希望が花開く

Au ciel de Paris

パリの空に

7.

Sous le ciel de Paris

パリの空の下

Coule un fleuve joyeux

流れるは楽し気な川

Hum hum

ンーン

Il endort dans la nuit

川は眠らせてくれる、夜ともなれば、

Les clochards et les gueux

浮浪者や乞食(こじき)どもを [3]

訳者註3: 平成・令和期日本の言語感覚では差別語とされるが、日本の常識は世界の非常識であり、原文の持つ言語感覚と時代性を尊重して「乞食(こじき)ども」の訳語を採用する。

8.

Sous le ciel de Paris

パリの空の下

Les oiseaux du Bon Dieu

鳥たちが良き神様に遣(つか)わされ

Hum hum

ンーン

Viennent du monde entier

やって来るのも世界中から

Pour bavarder entre eux

互いにお喋(しゃべ)りすべく

9.

Et le ciel de Paris

そしてパリの空が

A son secret pour lui

秘めるのは自分だけの秘密

Depuis vingt siècles il est épris

二千年も前から魅()せられている

De notre Île Saint-Louis

うちらのサンルイ島にね

10.

Quand elle lui sourit

サンルイ島がパリの空に微笑(ほほえ)めば [4]

Il met son habit bleu

パリの空は青い衣(ころも)を纏(まと)う

Hum hum

ンーン

Quand il pleut sur Paris

パリに雨が降れば

C’est qu’il est malheureux

パリの空が悲しんでるってこと

訳者註4: 原文通りに訳せば、「彼女が彼に微笑むとき / 彼は青い衣を纏う」となるが、フランス語では「島(しま)」が女性名詞であるため、サンルイ島も自動的に擬人化されて女性扱いになる。そして「空(そら)」は男性名詞であり、やはり擬人化されている。「青い衣を纏う」とは空が自らを青くして(=青空にして)見せることを意味する。

11.

Quand il est trop jaloux

パリの空があまりにも嫉妬(しっと)したときには

De ses millions d’amants

数百万の恋人たちに焼いてしまい

Hum hum

ンーン

Il fait gronder sur nous

うちらの上に轟(とどろ)かせる

Son tonnerre éclatant

鳴り響く雷鳴を

12.

Mais le ciel de Paris

でもパリの空は

N’est pas longtemps cruel

長いこと厳しいわけでもない

Hum hum

ンーン

Pour se faire pardonner

お詫()びの印とばかりに

Il offre un arc-en-ciel

空に懸()けてくれるのが虹 [5]

訳者註5: 「虹」はフランス語で arc-en-ciel (アふクォンシエル)なので、直訳すれば「空のアーチ」。この「虹」に相当する熟語(日本語では単語)は原文の聞き手には最後に聞こえる部分であるため、間違っても日本の統語法(syntax)に直して「パリの空は虹を懸けてくれる。」などとヘタに直訳しないことが肝要である。

日本語訳: 原田俊明(はらだ としあき, b.1968)