20「イギリス文化論」(2021/12/14) モンティ・パイソン「ベッドを買う」

BBC, Monty Python’s Flying Circus (1969-74)

英BBC放映「モンティ・パイソンの空飛ぶサーカス」

邦題「空飛ぶモンティ・パイソン」

https://en.wikipedia.org/wiki/Monty_python

https://en.wikipedia.org/wiki/Monty_Python's_Flying_Circus

https://ja.wikipedia.org/wiki/空飛ぶモンティ・パイソン

https://en.wikipedia.org/wiki/List_of_Monty_Python's_Flying_Circus_episodes

https://en.wikipedia.org/wiki/List_of_Monty_Python's_Flying_Circus_episodes#8._Full_Frontal_Nudity

聖歌「エルサレム」(1916年)

1804年頃に書かれたブレイクの預言詩『ミルトン』の序詞に1916年に曲をつけたもの、イングランドの愛国歌・賛美歌として教会の結婚式で歌われる。

https://en.wikipedia.org/wiki/Jerusalem_(hymn)

https://ja.wikipedia.org/wiki/エルサレム_(聖歌)

上記の歌の歌詞(ローマ数字のiii番)

https://sites.google.com/site/xapaga/home/secondnationalanthems

2011年4月29日(金)、ロンドンのウェストミンスター寺院に於けるウィリアム王子とキャサリン・ミドルトン嬢の結婚式

https://www.youtube.com/watch?v=schQZY3QjCw (1:47:36から1:50:08まで聖歌「エルサレム」)

“Buying a Bed” from Series 1, Episode 8 aired on Sunday 7th December 1969

1969年12月7日(日)放映の「モンティ・パイソンの空飛ぶサーカス」シリーズ1・エピソード8から「ベッドを買う」のスキット

[台本]

https://www.ibras.dk/montypython/episode08.htm#4

[動画]

https://www.dailymotion.com/video/xckk3j (イタリア語字幕付き)

スキットの全文と日本語訳

Groom: We want to buy a bed, please.

花婿: ベッドを買いたいんですが。

Lambert: Oh, certainly, I’ll, I’ll get someone to attend to you. (calling off) Mr Verity!

ランバート: ああ、かしこまりました。てん、店員を一人お付け致します。(大声で呼んで)おーい、ヴェリティー君!

Verity: Can I help you, sir?

ヴェリティー: 何かお探しものでも?

Groom: Er yes. We’d like to buy a bed … a double bed … about fifty pounds?

花婿: ええ。ベッドを買いたいんです。ダブルベッドで5万円[訳註1]くらいのを。

訳註1: 原文では50ポンド。この番組が放映される少し前、1949-67年という長期に亘(わた)って、1英ポンド=1,008円の固定レートだったので、原文の fifty pounds =「50ポンド」を便宜的に「5万円」と訳した。しかしながら、1969年12月7日(日)にこの番組が放映された時点での為替レートは改正固定レート(1967-71年)であり、1英ポンド=864円だったため、厳密な計算では43,200円である。

Verity: Oh no, I am afraid not, sir. Our cheapest bed is eight hundred pounds, sir.

ヴェリティー: ああ、恐縮ですが、当店は一番安いベッドが80万円[訳註2]でございます。

訳註2: 原文では800ポンド

Groom: Eight hundred pounds?!

花婿: 80万円[訳註3]だって?!

訳註3: 原文では800ポンド

Lambert: Oh, er, perhaps I should have explained. Mr Verity does tend to exaggerate, so every figure he gives you will be ten times too high. Otherwise he’s perfectly all right, perfectly ha, ha, ha.

ランバート: ああ、前もって説明しておくべきでした。ヴェリティー君は大げさな言い方をする癖がありまして。だから数字はどれも十倍なんです。その他の点では完全にマトモな人なんですけどね。完全に。は、は、は。

Groom: Oh I see, I see. (to Verity) So your cheapest bed is eighty pounds?

花婿: ああ、そうですか。そうですか。(ヴェリティーに向かって)それじゃあ、この店で一番安いベッドは8万円[訳註4]なんですね。

訳註4: 原文では80ポンド

Verity: Eight hundred pounds, yes sir.

ヴェリティー: そうです。80万円[訳註5]でございます。

訳註5: 原文では800ポンド

Groom: And how wide is it?

花婿: それで幅は何センチ[訳註6]ですか。

訳註6: 原文では「それでどのくらいの幅ですか。」

Verity: Er, the width is, er, sixty feet wide.

ヴェリティー: えー、幅は18メートル[訳註7]です。

訳註7: 原文では60フィート。1フィートは厳密には30.48センチなので、18.3メートルと訳した方が実態に近いが、訳文ではキリの良い数字とした

Groom: Oh … (laughing politely he mutters to wife) six foot wide, eh. And the length?

花婿: ああ。(忍び笑いして妻にささやく)180センチ[訳註8]だね。それで長さは?

訳註8: 原文では6フィート。1フィートは厳密には30.48センチなので、183センチと訳した方が実態に近いが、訳文ではキリの良い数字とした。

Verity: The length is … er … (calls off) Lambert! What is the length of the Comfydown Majorette?

ヴェリティー: 長さは、えーと。(大声で呼ぶ)ランバート! 「高級ふかふか羽毛ベッド」の長さは?

Lambert: Er, two foot long.

ランバート: えーと、60センチ[訳註9]だ。

訳註9: 原文では2フィート。1フィートは厳密には30.48センチなので、61センチと訳した方が実態に近いが、訳文ではキリの良い数字とした

Groom: Two foot long?

花婿: 60センチ[訳註10]だって?

訳註10: 原文では2フィート。1フィートは厳密には30.48センチなので、61センチと訳した方が実態に近いが、訳文ではキリの良い数字とした

Verity: Ah yes, you have to, ah, remember of course, to multiply everything Mr Lambert says by three. Er, it’s nothing he can help, you understand. Apart from that he’s perfectly all right.

ヴェリティー: ああ、そうそう。ランバート君が言う数字は、あー、何でも三倍に直さなけきゃなりません。あー、こればっかりはどうにもなりません。その他の点では完全にマトモな人なんですけどね。

Groom: I see, I’m sorry.

花婿: そうですか。すいませんね。

Verity: But it does mean that when he says a bed is two foot wide it is, in fact, sixty feet wide.

ヴェリティー: それはつまり、ランバート君がベッドは60センチ[訳註11]だと言えば、実際には18メートル[訳註12]なんです。

訳註11: 原文では2フィート。1フィートは厳密には30.48センチなので、61センチと訳した方が実態に近いが、訳文ではキリの良い数字とした

訳註12: 原文では60フィート。1フィートは厳密には30.48センチなので、183センチと訳した方が実態に近いが、訳文ではキリの良い数字とした

Groom: Oh, yes I see …

花婿: あ、そうですか。

Verity: And that’s not counting the mattress.

ヴェリティー: それでマットレスはまだ計算に入れてませんね。

Groom: Oh, how much is that?

花婿: ああ、おいくらですか。

Verity: Er, Lambert will be able to help you there. (calls) Lambert! Will you show these twenty good people the, er, dog kennel please?

ヴェリティー: えー、ランバートがお手伝いしますよ。(呼ぶ)ランバート! こちらにいらっしゃる20人のお客様に、えーと、犬小屋をお見せしてくれないか。

Lambert: Hmm? Certainly.

ランバート: ふむ、もちろんだとも。

Groom: Dog kennel? No, no, no, mattresses, mattresses.

花婿: 犬小屋だって?! 違う、違う、違う。マットレスです。マットレスですよ。

Verity: Oh, no, no, you have to say dog kennel to Mr Lambert because if you say mattress he puts a bag over his head. I should have explained. Apart from that he’s really all right.

ヴェリティー: ランバート君には犬小屋と言わなきゃいけないんです。それと言うのも「マットレス」という言葉を聞くとランバート君、紙袋[訳註13]をかぶってしまうんです。前もって説明しておくべきでした。その他の点では完全にマトモなんですけどね。

訳註13: 原文では「袋」のところを「紙袋」と訳したのは、1969年の放映当時は日英ともに店が買い物客に渡したのがビニール袋ではなく紙袋だったため。

(They go to Lambert.)

(一同、ランバートのところへ行く)

Bride: Ah, ha ha ha ha!

花嫁: あはははは!

Groom: Ah, hum, er we’d like to see the dog kennels please.

花婿: あー、えーと、犬小屋が見たいのですが。

Lambert: Dog kennels?

ランバート: 犬小屋ですと。

Groom: Yes, we want to see the dog kennels.

花婿: そうです。犬小屋が見たいんです。

Lambert: Ah, yes, well that’s the pets department. Second floor.

ランバート: ああ、そうですか。ペット売り場ですね。三階[訳註14]でございます。

訳註14: 原文では2番目のフロア。イギリスをはじめ欧州諸国では地面と同じ階をゼロ階、つまり地階とする。イギリス英語で ground floor (グらウンドゥローァ)なので、エレベーター(英 lift; 米 elevator)内の階数表示は G である。ドイツ語で Erdgeschoss (エァトゥショス)または Erdgeschoß (エァトゥショス)なので、エレベーター(独 Aufzug または Fahrstuhl または Lift)内の階数表示は E である。フランス語で rez-de-chaussée (へドゥショセ)または rez de chaussée (へドゥショセ)なので、エレベーター(仏 ascenseur)内の階数表示は RC である。イタリア語で pianterreno (ピャンテゥれーノ)または単に「下の階」を意味する piano sotto (ピャーソットォ)であり、エレベーター(伊 ascensore)内の階数表示は「下の~」を意味する sotto (ソットォ)の頭文字を採用して S となる。ところが国内に複数の公用語を抱えるベルギー王国やスイス連邦では言語間の混乱を避けるため、エレベーターの階数表示は数字の 0 である。イギリスを含む欧州では、1つ上がると1階とするため、エレベーターの階数表示は 1 である。イギリス英語で 1st floor (フアトゥローァ)または first floor (フアトゥローァ)、ドイツ語で 1. Etage (エァステエタージュ)または erste Etage (エァステエタージュ)または 1. Stock (エァスターシュトック)または erster Stock (エァスターシュトック)、フランス語で 1er étage (プほミェへタージュ)または premier étage (プほミェへタージュ)、イタリア語で 1° piano (プりモピャーノ)または primo piano (プりモピャーノ) となる。これらに対し、日米では「ゼロ階」の概念がなく、地面と同じ階が1階なので、1つ上がると2階である。そうした次第で原文のイギリス英語 ‘Second floor.’ が「三階でございます。」と訳されるのである。

Groom: Oh, no, no, we want to see the dog kennels.

花婿: 違う、違う。イ・ヌ・ゴ・ヤが見たいんです。

Lambert: Yes, pets department second floor.

ランバート: ええ、三階[訳註15]のペット売り場です。

訳註15: 原文では2番目のフロア

Groom: No, no, no, we don’t really want to see dog kennels. Only your colleague said we ought to…

花婿: 違う、違う、違う。本当に見たいのは犬小屋なんかじゃない。あなたの同僚の店員さんからこう言うように言われたから、、、

Lambert: Oh dear, what’s he been telling you now?

ランバート: あれまあ、ヴェリティー君は何と申しましたか。

Groom: Well he said we should say dog kennels to you, instead of mattress.

花婿: うん、あなたには犬小屋と言いなさいと教えられました。マットレスと言う代わりに。

(Lambert puts bag over head.)

(ランバート、紙袋をかぶる)

Groom: (looking round) Oh dear, hello?

花婿:辺りを見回して)あれまあ、どうしましたか。

Verity: Did you say mattress?

ヴェリティー: お客さん「マットレス」って言いましたか。

Groom: Well, a little, yes.

花婿: ええ、まあちょっとだけ。

Verity: I did ask you not to say mattress, didn’t I? Now I’ve got to stand in the tea chest. (he gets in the chest and sings) ‘And did those feet in ancient times[訳註16], / Walk upon England’s mountains green?’

ヴェリティー: 「マットレス」って言わないようにお願いしましたよね。こうなると私は紅茶用の木箱の中に立たなきゃなりません。(ヴェリティー、木箱の中に入って聖歌「エルサレム」を歌う)「そして其足(そのあし)は古(いにしへ)の時、イングランドの綠(みどり)なす山々を歩いたか。」。

訳註16: 歌詞中、ancient time の箇所を誤って ancient times と複数形で憶えてしまっている英国人が多く、ヴェリティーもその例外ではない。

(The manager enters.)

(店長登場)

Manager: Did somebody say mattress to Mr Lambert?

店長: 誰かランバート君に「マットレス」と言ったか。

(Manager and Verity continue to sing. Lambert takes bag off head, manager exits after pointing a warning finger at bride and groom.)

(店長とヴェリティー、歌いつづける。ランバート紙袋を脱ぐ。店長、新郎新婦に人差し指で警告を発して退場)

Verity & Manager: ‘And was the holy Lamb of God, / On England’s pleasant ...’

ヴェリティーと店長: 「そして天主樣の聖なる子羊はその姿をイングランドの心地良き、、、」

Verity: (getting out of chest) He should be all right now but don’t, you know … just don’t. (exits)

ヴェリティー:木箱から出ながら)今はもう大丈夫な筈(はず)ですが、もうやめてくださいね。やめてください。(退場

Groom: Ah, no, no. No, no, no.[訳註17]

花婿: ああ、はい、はい。はい、はい、はい。

訳註17: 否定の命令文に対する no なので、日本語では「はい」となる。

Groom: (To Lambert) Ha ha. Er, we’d like to see the dog kennels, please.

花婿:ランバートに向かって)ハハ。えーと、見たいのは犬小屋なんです。

Lambert: Yes, second floor.

ランバート: ええ、3階[訳註18]です。

訳註18: 原文では2番目のフロア。

Groom: No, no, no. Look these (pointing) dog kennels here, see?

花婿: いえ、いえ、いえ。これ見てください。(指し示しながら)この犬小屋です。お分かりですか。

Lambert: Mattresses?

ランバート: マットレスですか。

Groom: Oh (jumps) … yes.

花婿: あー。(飛び上がって)そうです。

Lambert: Well, if you meant mattresses, why didn’t you say a mattress. I mean it’s very confusing for me, if you go and say dog kennels, when you mean mattress. Why not just say mattress? Ha ha ha ha!

ランバート: ふむ、マットレスと言いたいのなら、なぜ「マットレス」と言わなかったんですか。と言うか混乱しますよ。本当はマットレスが欲しいのに「犬小屋」って言い張るなんて。「マットレス」ってはっきり言ったらどうですか。ハハハハ!

Groom: Well, I mean you put a bag over your head last time I said mattress.

花婿: ふむ、さっきは紙袋かぶっちゃったでしょ。僕が「マットレス」って、、、

(Bag goes on. Groom looks around guiltily. Verity walks in. Verity heaves a sigh, jumps in box. Manager comes in and joins him, they sing ‘Jerusalem’ Another assistant comes in.)

(またしても紙袋。花婿、罪悪感を感じて辺りを見回す。ヴェリティー登場。ため息を漏らし、飛び跳ねて木箱に入る。店長登場。一緒になって一同が聖歌「エルサレム」歌う。別の店員登場)

Verity: ‘Bring me my Bow of burning gold: / Bring me my Arrows of desire: / Bring me my Spear: O clouds unfold! Bring me my Chariot of fire!’

ヴェリティー: 「我に與(あた)へよ、我が燃ゆる黃金(こがね)なる弓を。我に與へよ、我が欲望の矢を。我に與へよ、我が槍(やり)を。嗚呼(あゝ)、雲よ散れ! 我に與へよ、我が炎の戰鬪用輕二輪馬車(チャリオット)を!」

Assistant: Did somebody say mattress to Mr Lambert?

店員: 誰かランバート君に「マットレス」って言ったのか?

Verity: Twice.

ヴェリティー: 二度もだよ。

Assistant: Hey, everybody, somebody said mattress to Mr Lambert, twice!

店員: おい、みんな。誰かランバート君に「マットレス」って言ったんだぜ。それも二度もだよ。

(Assistant, groom and bride join in the therapy.)

(店員と新郎新婦、ランバートの治療に加わる)

Verity, Manager, Assistant,Groom and Bride: ‘I shall[訳註19] not cease from Mental Fight, / Nor shall my Sword sleep in my hand,’

ヴェリティーと店長と店員と花婿と花嫁: 「我は一歩も引くものか、精神の鬪(たゝか)ひから。それに我が劍(つるぎ)を手中に眠らせて措()く氣もない、」

訳註19: 歌詞中、I will not cease の箇所を誤って I shall not cease と憶えている英国人が多く、ここでも例外ではない。

Verity: It’s not working. We need more.

ヴェリティー: 効き目がないぞ。もっと必要だ。

(Cut to crowd in St Peter’s Square singing ‘Jerusalem’.)

(ヴァティカン市国の聖ペテロ広場(ピアッツァ・サン・ピエトロ)で群集が聖歌「エルサレム」を歌う場面へ切り替え)

Verity, Manager, Assistant,Groom and Bride: ‘Till we have built Jerusalem, / On[訳註20] England’s green and pleasant ...’

ヴェリティーと店長と店員と花婿と花嫁: 「我らがエルサレムを築き上げるまでは、 / イングランドの綠(みどり)なす心地よき、、、」

訳註20: 歌詞中、In England’s green and pleasant Land の箇所を誤って On England’s green and pleasant Land と憶えている英国人が多く、ここでも例外ではない。

(Cut to department store. Lambert takes the bag off his head and looks at groom and bride.)

(デパートの場面へ切り替え。ランバート、紙袋を脱ぎ、新郎新婦を見る)

Lambert: Now, er, can I help you?

ランバート: さて、えー、いかが致しましょう。

Bride: We want a mattress.

花嫁: マットレスが欲しいんです。

(Lambert immediately puts bag back on head.)

(ランバート、即座に紙袋をかぶり直す)

All: Oh. What did you say that for? What did you say that for?

一同: あーあ。なんでそれを言ったんだ。なんでそれを言ったんだ。

Bride: (weeping) Well, it’s my only line.

花嫁:泣きながら)私の唯一のセリフなんですもの。

All: Well, you didn’t have to say it.

一同: ふん、それを言うこたぁなかったのに。

(They all hop off. She howls.)

(一同飛び跳ねて退場。花嫁、泣き喚(わめ)く)

(日本語訳: 原田俊明)