ベルリオーズの歌曲集『夏の夜』(1841, ‘43 & ‘56年)から最初の2曲を仏和対訳

フランスの作曲家ベルリオーズ(Hector Berlioz, 1803-69)作曲の歌曲集 『夏の夜[註1](仏原題 Les nuits d’été レニュイ・デテ; 英訳 The Summer Nights

註1: 作曲者の友人で詩人・小説家・劇作家・批評家のゴーティエ(Théophile Gautier, 1811-72)が1838年に出版した詩集 『死の喜劇』(仏原題 La comédie de la mort ラコメディ・ドゥラモーふ; 英訳 The Comedy of Death)から六つの詩に作曲し、1841年に発表。

一曲目: Villanelle ヴィラネル

「牧歌(ヴィラネル)

オッター歌唱、ミンコフスキ指揮、ルーヴル宮の音楽家たち(仏)

フランス語原語歌唱、フランス語字幕付

https://www.youtube.com/watch?v=8TW5UF3bH7s

[歌詞開始]

Quand viendra la saison nouvelle,

クォン・ヴィアンドは・ラセゾヌゥヴェル、

やって来る季節も新たに、[註2]

Quand auront disparu les froids,

クォン・ノほン・ディスパひゅ・レフほワ、

消えてなくなる寒いのも、[註3]

Tous les deux nous irons, ma belle,

トゥーレドゥー・ヌゥジほン・マベル、

二人だけで行こう、愛(いと)しい人よ、

Pour cueillir le muguet aux bois.

プふクェイーふ・ルミュゲ・オボワ。

森へ鈴蘭(スズラン)を集めに。

Sous nos pieds égrenant les perles,

スゥノピェ・エグふノン・レペふル、

僕らの足の下で真珠を摘()んで、

Que l’on voit au matin trembler,

クロンヴォワ・トマタォン・トへンブレ、

朝に震えているのを見かける真珠たちをね、

Nous irons écouter les merles

ヌゥジほンゼクテ・レメふル

黒歌鳥(クロウタドリ)たちの声を聴きに行こうよ

Nous irons écouter les merles

ヌゥジほンゼクテ・レメふル

黒歌鳥たちの声を聴きに行こうよ

Siffler.

シフレ。

囀(さえず)りを。[註4]

註2: ごく常識的な訳では「新たな季節が来たら、」となるが、ここでは敢(あ)えてフランス語の語順を尊重し、尚且(なおか)つ日本語でも歌えるよう心掛けた。

註3: ごく常識的な訳では「寒さが消え入ったら、」となるが、ここでは敢えてフランス語の語順を尊重し、尚且つ日本語でも歌えるよう心掛けた。

註4: ごく常識的な訳では最後の2行を併せて、「黒歌鳥たちが囀るのを聴きに行こうよ。」となるが、ここではフランス語の動詞不定詞 siffler (シフレ: 「囀る」の意)が最後に、それも改行して出て来ることを考慮して訳した。その際のディレンマ(dilemma)として、仏原文にはない「声を」という日本語を前の行で補う羽目になった。

Le printemps est venu, ma belle,

ルプほンタォン・エヴニュ・マベル、

春が来た、愛(いと)しい人よ、

C’est le mois des amants béni;

セルモワ・デザマォンベニ、

今は恋人たちが祝福する月だ。

Et l’oiseau, satinant son aile,

エロワゾォ・サティナォン・ソネル、

そして鳥が羽を嘴(くちばし)で整えながら、

Dit des vers au rebord du nid.

ディデヴェーふ・オふボーふ・デュニ。

巣の端っこで詩を口ずさむ。

Oh! viens donc, sur ce banc de mousse

オォ・ヴィアンドンク・シュふスバォンドゥムース

さあ、おいで、苔(こけ)の生えたこの土手まで

Pour parler de nos beaux amours,

プふパふレ・ドゥノボォザムーふ、

僕らの麗(うるわ)しい愛を語りに、

Et dis-moi de ta voix si douce:

エディモワ・ドゥタヴォワ・シドゥース

そして僕に言っておくれ、君の実に甘い声で

Et dis-moi de ta voix si douce:

エディモワ・ドゥタヴォワ・シドゥース

そして僕に言っておくれ、君の実に甘い声で

“Toujours!”

トゥジューふ!

「いつまでも!」と。

Loin, bien loin, égarant nos courses,

ロワン・ビアンロワン・エガはォン・ノクーふス、

遠く、ずっと遠く、道に迷いながら、

Faisant fuir le lapin caché,

フザォンフュイーふ・ルラパォンカシェ

僕らが脅(おど)かすのは隠れている兎(ウサギ)、

Et le daim au miroir des sources

エルデァン・オミほワーふ・デスゥふス

それに泉に姿を映す牡鹿(おじか)、

Admirant son grand bois penché,

アドミはォン・ソングはォンボワ・パォンシェ、

ちょうどその見事な曲線の角(つの)に見入っているところだけど、

Puis chez nous, tout heureux, tout aises,

ピュイシェヌゥ・トゥーテュふー、トゥーテーズ

そして帰宅、完全に幸せで、完全に寛(くつろ)いで

En panier enlaçant nos doigts,

アォンパニェ・アォンラサォン・ノドワ、

バスケット籠のように僕らの指と指を絡(から)ませて、

Revenons, rapportant des fraises

ふヴノン・はポふタォン・デフへーズ

また行こう、抱(かか)えるのは苺(イチゴ)[註5]

Revenons, rapportant des fraises

ふヴノン・はポふタォン・デフへーズ

また行こう、抱えるのは苺[註5]

Des bois.

デボワ。

森の苺ね。

註5: ごく常識的な訳では「また行こう、苺を抱えながら」となるが、ここでは敢えてフランス語の語順を尊重した。残念ながら日本語では歌えない。

二曲目: Le spectre de la rose ルスペクトゥふ・ドゥラほォズ

「薔薇(バラ)の霊魂」

ベイカー歌唱、バルビローリ指揮、新フィルハーモニア管(英)

フランス語原語歌唱、字幕なし

https://www.youtube.com/watch?v=wMHo1HSsSwA

[歌詞開始]

Soulève ta paupière close

スゥレーヴ・タポピェーふ・クローズ

君のその閉じた瞼(まぶた)を開きなさい

Q’effleure un songe virginal!

ケフルェーふ・アォンソンジュ・ヴィふジナル!

乙女らしい夢にそっと触れる瞼を!

Je suis le spectre d’une rose

ジュスィ・ルスペクトゥふ・デュヌほォズ

僕は一輪(いちりん)の薔薇(バラ)の霊魂

Que tu portais hier au bal.

クテュポふテ・イェー・オバル。

君が昨日の舞踏会で付けていた薔薇のね。

Tu me pris, encore emperlée

テュムプひ・アォンコーふ・アォンペふレ

君は僕を摘()み取った、まだ真珠のような露(つゆ)がついていた僕を

Des pleurs d’argent, de l’arrosoir,

デプルェーふ・ダふジャォン・ドゥロほソワーふ、

銀の涙の真珠、如雨露(ジョウロ)の真珠、

Et, parmi la fête étoilée,

エ・パふミ・ラフェーテトワレ、

そして星に満ちたお祭り[註6]の間じゅう、

Tu me promenas

テュムプほムナ

君は僕を身に着けていた

Tu me promenas

テュムプほムナ

君は僕を身に着けていた

Tout le soir.

トゥールソワーふ。

その晩ずぅっと。

註6: 「星に満ちたお祭り」とは、舞踏会のことを指す。

O toi qui de ma mort fu cause,

オォ・トワ・キドゥマモーふ・フュコーズ、

ああ、僕の死を齎(もたら)した君、

Sans que tu puisses le chasser,

サォンクチュピュイッス・ルシャセー、

君は追い払うこともできず、

Toute les nuits mon spectre rose

トゥートゥレニュイ・モンスペクトゥふ・ほォズ

毎晩我がバラ色の霊魂は

A ton chevet viendra danser.

アトンシュヴェ・ヴィアンドは・ダォンセ。

君の枕元まで踊りに来るよ。

Mais ne crains rien, je ne réclame

メ・ヌクはンひァン・ジュヌへクラム

でも何も怖がることはない、僕は要求するわけではない

Ni messe ni De Profundis,

ニメッス・ニデプほフンディス

ミサも『深きところより』[註7]もね、

Ce léger parfum est mon âme,

スレジェーパふファン・エモナーム、

この仄(ほの)かな香りは僕の魂(たましい)、

Ce léger parfum est mon âme,

スレジェーパふファン・エモナーム、

この仄かな香りは僕の魂、

Et j’arrive

エジャひーヴ

そして僕がここに至るのは

J’arrive

ジャひーヴ

そして僕がここに至るのは

Du paradis.

デュパはディ。

天国からだ。

J’arrive

ジャひーヴ

そして僕がここに至るのは

J’arrive

ジャひーヴ

そして僕がここに至るのは

Du paradis.

デュパはディ。

天国からだ。

註7: 『深きところより』とは、羅典(ラテン)語で歌う鎮魂歌のこと。

Mon destin fut digne d’envie,

モンデスタン・フュディーニュ・ダォンヴィ、

僕の運命は羨望(せんぼう)されるだけの価値があり、

Et pour avoir un sort si beau

エプふはヴォワーふ・アンソーふ・シボォ

そして斯()くも麗(うるわ)しき定めを持つためには

Plus d’un aurait donné sa vie;

プリュ・ダォノへドンネ・サヴィ、

ひとりならず喜んで命を捧げたことだろう、

Car sur ton sein j’ai mon tombeau,

カふシュふトンサェン・ジェモントンボォ、

というもの君の胸に僕は我が墓を持つのだから、

Et sur l’albâtre où je repose

エシュふラルバットふ・ウジュふポーズ

そして僕が永眠する縞大理石(アラバスター)[註8]

Un poet avec un baiser

アォンポエッタヴェッカォンベゼー

ひとりの詩人が接吻(せっぷん)して

Ecrivit: “Ci-git une rose,

エクひヴィ・シジユンヌほォズ、

こう書いた。「ここにひとりの薔薇が眠る、

Que tous les rois vont jalouser.”

クトゥーレほワ・ヴォンジャルゥゼー。

いかなる王も羨(うらや)むだろう薔薇が。」と。

Vont jalouser.”

ヴォンジャルゥゼー。

羨むだろう薔薇が。」と。

註8: 「縞大理石(アラバスター)」とは、墓石を表す。

(原田俊明訳)

全六曲をまとめて

ベイカー歌唱、ヒコックス指揮、シティ・オヴ・ロンドン室内管(英)

フランス語原語歌唱、字幕なし

https://www.youtube.com/watch?v=14URNw20N0o

[三曲目から六曲目(最終曲)までの歌詞は割愛]