05「イギリス文化論」(2021/10/12) 作曲家ヴォーン・ウィリアムズとスコット大佐

英国の作曲家レイフ・ヴォーン・ウィリアムズ(Ralph Vaughan Williams OM, 1872-1958)は、苗字がヴォーン・ウィリアムズで、苗字の直後に付いた OM は英連邦メリット勲章(英 Order of Merit; 仏 Ordre du Mérite)の叙勲者(じょくん しゃ)であることを示す。ファッション・ブランドの Ralph Lauren (ラルフ・ローレン)などとは異なり、この作曲家のファーストネーム Ralph は通常のラルフではなく、やや珍しい読みのレイフが正しい。長い名前のため、イギリス人クラシック音楽愛好家の間では VW (ヴィーブリュー)と屡々(しばしば)略される。なお、ドイツ語圏で VW (ファオヴェー)と言えば、Volkswagen (フォルクスヴァーゲン: 「人民車、大衆車」の意; 英語発音 ヴォルクズワーゲン; 日本語発音 フォルクスワーゲン)のことを指す。

http://en.wikipedia.org/wiki/Ralph_Vaughan_Williams

https://ja.wikipedia.org/wiki/レイフ・ヴォーン・ウィリアムズ

https://ja.wikipedia.org/wiki/ロンドン交響曲_(ヴォーン・ウィリアムズ)

https://ja.wikipedia.org/wiki/南極交響曲

ロンドン交響曲(A London Symphony

VWの代表作には、第一次世界大戦(World War I; the First World War; the Great War, 1914-18)の直前に完成していた「ロンドン交響曲」(英 A London Symphony ランドゥン・シンフォニー)、別名 交響曲第2番(英 Symphony No. 2)がある。但し、最終決定版の完成は1936年。

I. Lento - allegro risoluto

第1楽章 レントォ - アッグろ・りゾルートォ

第一楽章 ゆっくりと - 迅速に決然と

夜明け前の英京倫敦(ロンドン)の街にウェストミンスターの鐘(Westminster Quarters)が響く。8月最終月曜日である「晩夏の銀行休業日」(Late Summer Bank Holiday)という名の国民の祝日に、ロンドン北部のハムステッド・ヒース(Hampstead Heath: ハムステッド荒野)という、起伏のある緑の公園を彷彿(ほうふつ)とさせるような展開。

動画(15分21秒)

https://www.youtube.com/watch?v=502iuCmkWR4

II. Lento

第2楽章 レントォ

第二楽章 ゆっくりと

11月の或()る日の午後、英国博物館(British Museum: 漢字文化圏では「大英博物館」)裏手のブルームズベリー広場(Bloomsbury Square)を表すとされるが、「灰色の空と隠れた脇道の牧歌的風景」という解釈や「作曲者がチェルシー地区で聞いたとされるラヴェンダー売りの掛け声と辻馬車の警笛(けいてき)の音」という解釈がある。

動画(10分51秒)

https://www.youtube.com/watch?v=LogrjQyyFZA

III. Scherzo (Nocturne) Allegro vivace

第3楽章 スるツォ(ノクテュふヌ)アッグろ・ヴィヴァーチェ

第三楽章 諧謔(かいぎゃく)(夜想曲)迅速に快活に

作曲者自身が述べているところでは、「聴き手が夜のウェストミンスターのテムズ河岸通り(Westminster Embankment)に立っていると想像し、ストランド街(The Strand)の遠い音に囲まれ、大きな高級ホテル群が片側に、もう片側には向こう岸の新カット(New Cut; 現在の The Cut)地区の賑(にぎ)やかな通りと、ゆらゆらと燃える明かりを心に抱けば、この楽章を聴く際の雰囲気づくりに貢献するだろう(‘If the listener will imagine himself standing on Westminster Embankment at night, surrounded by the distant sounds of The Strand, with its great hotels on one side and the “New Cut” on the other, with its crowded streets and flaring lights, it may serve as a mood in which to listen to this movement.’)」とのこと。

動画(8分38秒)

https://www.youtube.com/watch?v=w51xQW6I90k

IV. Finale: Andante con moto - maestoso alla marcia (quasi lento) - allegro - maestoso alla marcia - Epilogue: Andante sostenuto

第4楽章 フィナーレ: アンダンテ・コントォ - マェストーゾ・アッラ・るチヤ(クアージ・レントォ) - アッグろ - マェストーゾ・アッラ・るチヤ - ピローグ: アンダンテ・ソステヌートォ

第四楽章 大詰め: 歩く速度で活力をもって - 堂々と行進曲風に(ほぼゆっくりめに) - 迅速に - 堂々と行進曲風に - 終曲: 歩く速度で持続して

当初厳(おごそ)かに始まった行進曲が熱を帯()びてきて、第一楽章の騒音や熱狂が抑えられた形で戻ってきたかと思うと、ウェストミンスターの鐘 (Westminster Quarters)が再び響く。終曲(エピローグ)ではフルートとヴァイオリンとヴィオラがテムズ川のさざ波を表現し、その終結部(コーダ)は、H. G.ウェル ズ(H. G. Welles, 1866-1946)の半自伝的小説 『トーノ・バンゲイ』(Tono-Bungay, 1909)の第四巻第三章(Book the Fourth: Chapter the Third)=全体としては第十四章(Chapter 14)にして最終章(the last chapter)の中の全四部(4 parts)中の第二部(Part II)の文章「そんな風にテムズ川を駆け足で下っていくのは、このイングランドという本のページを端から端まで手で捲(めく)っていくことなのだ。[中略] 河は過ぎ行く。ロンドンは過ぎ行く。イングランドは過ぎ行く、、、(To run down the Thames so is to run one’s hand over the pages in the book of England from end to end. [...] The river passes—London passes, England passes...)」( http://www.gutenberg.org/files/718/718-h/718-h.htm#link2HCH0014 / http://www.online-literature.com/wellshg/tonobungay/14/ )から霊感(インスピレーション)を受けて楽譜が書かれたという。

動画(13分30秒)

https://www.youtube.com/watch?v=cJNgyTQ9CGw

全四楽章を通しで

https://www.youtube.com/watch?v=0Uv4lJsu0Jw (45:50 of 45:51)

https://www.youtube.com/watch?v=q9YoEETzYsE (1:43-41:03 of 43:43)

南極交響曲(Sinfonia antartica

VWによる第二次世界大戦(World War II; the Second World War, 1939-45)以降の作品では、英国海軍(Royal Navy)のスコット大佐(Captain Robert Falcon Scott, 1868-1912)率いる南極探検隊(Antarctic expedition)の悲劇的な最期(=遭難死)を描いた「南極交響曲」(伊 Sinfonia antartica シンフォーニア・アンるティカ; 英訳名 Antarctic Symphony アンタークティック・シンフォニー)、別名 交響曲第7番(英 Symphony No. 7)が有名である。なお、キャプテン(Captain)という階級(rank)は、海軍では大佐(自衛隊の一等海佐に相当)、陸軍では大尉(自衛隊の一等陸尉に相当)、そして空軍でも大尉(自衛隊の一等空尉に相当)、また軍隊以外の船長を表す。VW自身が作曲したイギリス映画 『南極のスコット』(Scott of the Antarctic, 1947)用の映画音楽に基づき、1949-52年に作曲、1953年1月(つまりロンドン大スモッグ事件の翌月)に初演。

I. Prelude: Andante maestoso

第1楽章 プリュード: アンダンテ・マェストー

第一楽章 前奏曲: 歩く速度で堂々と

動画(10分23秒)

https://www.youtube.com/watch?v=aLeOl0yj0-A

3分以降の女声高音(soprano)の響きが聴く者に恐怖を齎(もたら)すが、8分台後半から9分台の楽章最終部では南極点(South Pole)到達の偉業を讃えるような堂々たる明るい曲調になっている。

この録音では第一楽章が鳴り止()んだ後(10:00-10:15)、歿後回収されたスコット大佐遺品日誌の1912年3月29日(金)の項目、つまり遭難死の直前に綴(つづ)られた部分の朗読が入る。このレコーディングに限らず、英語圏ではこの曲の演奏会で屡々(しばしば)俳優によるスコット日誌の朗読が挿入される。

但し、この朗読はウィキクォート(Wikiquote: https://en.wikiquote.org/wiki/Robert_Falcon_Scott )及びグーテンベルク計画(Project Gutenberg http://www.gutenberg.org/cache/epub/11579/pg11579-images.html )によれば、

We are weak, writing is difficult, but for my own sake I do not regret this journey, which has shown that Englishmen can endure hardships, help one another, and meet death with as great a fortitude as ever in the past. We took risks, we knew we took them; things have come out against us, and therefore we have no cause for complaint, but bow to the will of Providence, determined still to do our best to the last.

(我々は弱っていて、書くことは困難だが、私自身としては今回の旅を悔いてはいない。この旅によってイングランド人男子が苦難に耐え、互いに助け合い、過去に例を見ないような不屈の精神を以(もっ)て死に直面することができるのだと示されたのだから。我々は数々の危険を冒したし、危険を冒したことを自覚していた。物事は我々にとって不利に作用したのだから、文句を言う理由も無く、全宇宙の摂理=神のご意志に頭(こうべ)を垂れ、最後まで最善を尽くすべく決意を固めるばかりだ。)の中から

I do not regret this journey. We took risks, we knew we took them; things have come out against us, and therefore we have no cause for complaint.

(私は今回の旅を悔いてはいない。我々は数々の危険を冒したし、危険を冒したことを自覚していた。物事は我々にとって不利に作用したのだから、文句を言う理由も無い。)

に縮めた版を朗読したに過ぎない。

彼の日誌は Scott’s Last Expedition. The Personal Journals of Captain Scott, etc. (『スコットの最終冒険: スコット大佐の個人日誌ほか』)と題されて大佐の遭難死から十一年後の1923年にまずはジョン・マリー(John Murray)社によって刊行され、二十一世紀に入ると2005年に Journals: Captain Scott’s Last Expedition (『日誌: スコット大佐の最終冒険』)と題されて牛津大学出版局(OUP: Oxford University Press)から牛津世界古典(Oxford World’s Classics)の一巻として第一級の文学作品の扱いで刊行され( https://global.oup.com/academic/product/journals-9780199536801 )、今でも読み継がれている( https://www.amazon.co.uk/Journals-Captain-Scotts-Expedition-Classics/product-reviews/0199536805/ref=cm_cr_dp_d_show_all_top?ie=UTF8&reviewerType=all_reviews )。

スコット大佐は1912年3月29日(金)または同30日(土)辺りにおそらく歿したものと考えられているが、早くも同年(1912)11月12日(火)には捜索隊(a search party)によってスコット隊の遺体は発見・回収されている。1911年のほぼ丸々一年をかけて英国海軍のスコット大佐と南極点(the South Pole)への人類初到達を競い、同年(1911年)12月14日(木)に遂に勝者となったのはノルウェー王国の探検家、ロアール・アムンセン(Roald Amundsen, 1872-1928)だった。アムンセンは犬橇(イヌぞり)の犬の肉を非常時に食べたことで命を繋(つな)ぐことができたが、英国人のスコット隊は犬肉(狗肉)や馬肉を絶対に食さないイギリス文化の犠牲となったと言われている。なお、アムンセンは栄光の南極点到達から約十六半年後の1928年6月18日(月)辺りに今度は北極(the Arctic)を飛行機で探検中に行方不明となり、現在に至るも、飛行機の機体もアムンセンの遺体も発見されていない。

II. Scherzo: Moderato

第2楽章 スるツォ: モデらートォ

第二楽章 諧謔(かいぎゃく): 中庸(ちゅうよう)に

動画(5分51秒)

https://www.youtube.com/watch?v=oHiBUHIH_6A

III. Landscape: Lento

第3楽章 ランドスケイプ: レントォ

第三楽章 風景: ゆっくりと

動画(12分14秒)

https://www.youtube.com/watch?v=lHpWBuuESls

IV. Intermezzo: Andante sostenuto

第4楽章 インテるメッツォ: アンダンテ・ソステヌートォ

第四楽章 間奏曲: 歩く速度で持続して

動画(6分11秒)

https://www.youtube.com/watch?v=dwRyK5SsZV4

V. Epilogue: Alla marcia, moderato (non troppo allegro)

第5楽章 ピローグ: アッラ・るチヤ、モデらートォ(ノン・トろッポ・アッグろ)

第五楽章 終曲: 行進曲風に、中庸に(速すぎることなく)

動画(9分35秒)

https://www.youtube.com/watch?v=hoXeG_ziBdo

全五楽章を通しで(41分38秒)

https://www.youtube.com/watch?v=Mv6YBg7PLag

1st Movement (0:00-)

2nd Movement (10:13-)

3rd Movement (16:42-)

leading directly into the 4th movement without a pause (休止なしで持続して第四楽章へ)

4th Movement (27:41-)

5th Movement (33:27-41:38)

[スコット大佐に関する参考書]

ツヴァイク(Stefan Zweig, 1881-1942) 『人類の星の時間』(みすず書房 みすずライブラリー、1996年、2,750円、ISBN9784622050063)

https://www.amazon.co.jp/人類の星の時間-みすずライブラリー-シュテファン-ツヴァイク/product-reviews/4622050064/ref=cm_cr_dp_d_show_all_btm?ie=UTF8&reviewerType=all_reviews

*ドイツ語原題 Sternstunden der Menschheitシュるンシュトゥンデン・デアメンシュハイトゥ)は、片山敏彦(かたやま としひこ, 1898-1961)法政大学教授訳の邦題とほぼ同じ意味の『人類の星時間たち』。原著は1927年刊行。現在ドイツで刊行されている最新版では全14章中5章目が南極のスコット大佐の遭難について。英訳は The Tide of Fortune: Twelve Historical Miniatures (直訳 『運勢の潮目 十二の歴史的細密画たち』)という題名で1940年刊行。最新版の英訳は Decisive Moments in History (直訳 『歴史上の決定的瞬間たち』)という題名で1999年と2007年刊行。1996年刊行の邦訳は1979年刊行のみすず書房の同書の復刻版。邦訳版では全12章中11章目が南極のスコット大佐の遭難について。

島地勝彦(しまじ かつひこ, b.1941) 『そして怪物たちは旅立った。 時代を創った100人への手紙』(CCCメディアハウス、2019年、2,160円、ISBN9784484192116)

https://www.amazon.co.jp/Pen-Books-そして怪物たちは旅立った。時代を創った100人への手紙-島地-勝彦/product-reviews/448419211X/ref=cm_cr_dp_d_show_all_btm?ie=UTF8&reviewerType=all_reviews

黒柳徹子が明かす45周年「徹子の部屋」秘話 唯一「カットしたシーン」とは

デイリー新潮

『週刊新潮』 2021年2月11日(木・祝)号掲載

特別インタビュー「『週刊新潮』65周年にエール『黒柳徹子』知力・体力・気力で『徹子の部屋』45年間『病欠ゼロ』の秘訣」より

2021年2月12日(金)

https://www.dailyshincho.jp/article/2021/02120800/?all=1&page=2

https://news.yahoo.co.jp/articles/dbf9efbdfd4a5afc3d2cf58ba63f2a521f487185?page=4

(前略・改行)

緊急事態宣言が出て表に出られなかった時は、本を読んだり、ビデオで映画を見たり、お友達に手紙を書いたりして過ごしました。でも、とても充実した時間でしたよ。私、シュテファン・ツヴァイクっていう、オーストリアの作家が大好きなの。若い時にほとんど読んだんですけど、全集の中で読んでないのが1~2冊あったんです。これは良い機会だと思いました。彼は人物を描くのが本当に上手いんです。全集の中に『人類の星の時間』という作品があるんですが、作曲家のヘンデルのこととか、南極探検のスコット大佐のこととかを描いてある。ヘンデルがどうやって「メサイア」って曲を作曲したのかを詳しく読んで、銀座の楽器屋さんに連絡して「メサイア」のCDを送ってもらい、聞いたりしていました。

(改行・後略)