前期07「イギリス文化論」(2021/ 4/22) 沙翁(1564-1616)悲劇の名セリフ選

4月23日、けふは何の日?

4月23日は、英本国や英語圏にとどまらず世界で最も重要な劇作家・詩人・元俳優のシェイクスピア(William Shakespeare, 1564-1616)の誕生日・命日である。特に2016年は歿後四百年の記念の年でもあった。

シェイクスピアの生歿年は日本語で「人殺し色々」と覚える。日本では明治期以来、「沙翁(さをう; さおう)」の名で親しまれている。中文文化圏の華人社会でも「莎翁(Shā wēng)」と呼ばれて親しまれているが、これはシェイクスピアを中文繁體字で「莎士比亞」(Shāshìbǐyǎ)、中文簡体字で「莎士比亚」(Shāshìbǐyǎ)と表記するところに由来する。

加えて4月23日は、スペイン本国のみならずスペイン語圏で最も偉大な長篇小説家・詩人・劇作家のセルバンテス(Miguel de Cervantes Saavedra, 1547-1616)の命日でもある。セルバンテスの誕生日は9月29日とされているが、10月説もある。セルバンテスはシェイクスピアと同年同月同日(1616年4月23日)に歿したのであるが、4月22日説もある。22日説はウィキペディア(Wikipedia)の中でも西伊英の各国語版が、23日説は仏独日の各国語版が支持している。

2016年は德川家康(とくがは いへやす; とくがわ いえやす, 1543-1616; 征夷大將軍在任1603-05)の歿後四百周年でもあった。但し、家康の命日は4月23日ではなく、6月1日(和曆元和二年卯月十七日)である。

2016年は夏目漱石(なつめ そうせき, 1867-1916)こと、本名 夏目金之助(なつめ きんのすけ, 1867-1916)の歿後百周年でもあった。漱石の命日は12月9日である。2017年は漱石の生誕百五十周年だったが、漱石の生年月日は1867年2月9日(土)(和曆慶應三年睦月五日)である。

(外部リンク)

毎年4月23日前後の土曜日

無料(事前登録不要)

シェイクスピア祭(Shakespeare Festival)

日本シェイクスピア協会(SSJ: Shakespeare Society of Japan)・日本英文学会(ELSJ: English Literary Society of Japan)共催

https://www.s-sj.org/

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シェイクスピア(William Shakespeare, 1564-1616) による悲劇の中の名セリフ選

なお、喜劇の中の一例については、

06「イギリス文化論」(2017/ 4/18) 春を歌った詩を二編

https://sites.google.com/site/xapaga/home/2springpoems

を参照されたし

a) 『ロミオとジュリエット』第2幕2場(Romeo and Juliet 2:2)

1591-95年頃の執筆; 1595年頃の初演

JULIET

ジュリエット

33 O Romeo, Romeo! Wherefore art thou Romeo?

33 ああ、ロミオ、ロミオ、どうしてあなたはロミオなの?

34 Deny thy father and refuse thy name.

34 お父さまをお父さまと思わず、名前を捨てて。

35 Or, if thou wilt not, be but sworn my love,

35 それが無理なら、私を愛すると誓って。

36 And I’ll no longer be a Capulet.

36 そうすれば私はもうキャピュレットではない。

[中略]

38 ’Tis but thy name that is my enemy.

38 憎い敵は、あなたの名前だけ、

39 Thou art thyself, though not a Montague.

39 モンタギューでなくてもあなたはあなた。

40 What’s [What is] Montague? It is nor hand, nor foot,

40 モンタギューってなに? 手でも足でもない

41 Nor arm, nor face, nor any other part

41 腕でも顔でもない、人の体の

42 Belonging to a man. O, be some other name!

42 どの部分でもない。ああ、何か別の名前にして!

43 What’s in a name? That which we call a rose

43 名前に何があるの? バラと呼ばれる花を

44 By any other word [name] would smell as sweet. [後略]

44 別の名前で呼んでも、甘い香りに変りはない。[後略]

(松岡和子訳, 1996年)

(動画)

ゼフィレッリ(Franco Zeffirelli, b.1923)監督による英伊合作映画 『ロミオとジュリエット』(1968年)の映像(1:42-2:42)

https://www.youtube.com/watch?v=S0qao2xINsE

b) 『ハムレット』第1幕4場(Hamlet 1:4)

1600-02年頃の執筆

MARCELLUS

マーセラス

90 Something is rotten in the state of Denmark.

90 これは何かデンマアク國によくない事があるのです。(久米正雄譯, 1916年)

90 これはデンマークの国に、何かよくないことがあるのだ。(橫山有策譯, 1929 & ’33年)

90 何かデンマークに善くない事があるのでござらう。(坪內逍遙改譯, 1934年)

90 何かが、デンマークの国内で腐つてゐるんだ。(本多顕彰譯, 1952年)

90 この国のどこかが腐りかけているのだ。(福田恆存訳, 1955 & ’59年)

90 どこか腐ってるぞ、現在のデンマークは。(氷川玲二訳, 1967年)

90 どこかが腐っているのだ、このデンマークの。(木下順二訳, 1970年)

90 なにかが腐っているのだ、このデンマークでは。(小田島雄志訳, 1972 & ’73年)

90 デンマークでは何かしらが腐(くさ)っているにちがいない。(大山俊一訳, 1973年)

90 いまのデンマーク、何かが腐っている。(松岡和子訳, 1995 & ’96年)

90 何かが腐っているのだ、デンマークでは。 (河合祥一郎訳, 2003年)

2018年3月28日(水)、2018年の復活祭休暇直前の首相質疑応答 (Prime Minister’s Question Time, days before Easter break 2018)の中で野党「緑の党」所属のキャロライン・ルーカス(Caroline Lucas, b.1960)議員が、米国企業フェイスブック(Facebook)社と英国企業ケイムブリヂ・アナリティカ(Cambridge Analytica)社による個人情報流失とトランプ(Donald Trump, b.1946; 大統領在任2017-)氏による米大統領選勝利の醜聞(しゅうぶん: scandal)について、上記の登場人物マーセラス(Marcellus)の台詞(セリフ)を捩(もじ)って、‘The Cambridge Analytica revelations suggest that there is something rotten in the state of our democracy.’ (ケイムブリヂ・アナリティカ社に関して明らかにされた数々の事実が示唆(しさ)するのは、何かが腐っているのだ、我が国の民主政は、ということです。)と発言。

https://www.youtube.com/watch?v=E4cR_ttL0N8 (32:23-34:02 of 46:02)

【参考】

FBの会員情報を大量流用 選挙コンサル元幹部が警告する「コロナ危機と世論操作」

朝日新聞社 Global+

五十嵐大介(いがらし だいすけ)記者署名記事

2020年5月13日(水)

https://globe.asahi.com/article/13365005

8700万人の個人情報を不正流用 選挙コンサル「ケンブリッジ・アナリティカ」元幹部が告発、「コロナ危機と世論操作」

朝日新聞社 Global+

2020年5月16日(土)

https://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20200516-00010000-globeplus-int (リンク切れ)

ブレグジットとアメリカのトランプ大統領誕生に多大な影響を与えたケンブリッジ・アナリティカ事件の内幕と「行動マイクロターゲティング」の手法【橘玲の日々刻々】

橘玲(たちばな あきら, b.1959)

2020年6月4日(木)

https://diamond.jp/articles/-/239312

https://diamond.jp/articles/-/239312?page=2

https://diamond.jp/articles/-/239312?page=3

https://news.yahoo.co.jp/articles/c2d3acc5f6195c7c1053dd654086f17b777fe220 (リンク切れ)

c) 『ハムレット』第3幕1場(Hamlet 3:1)

1600-02年頃の執筆

世に言う「ハムレットの第三独白(Hamlet’s third soliloquy)」の様々な翻訳例

HAMLET

ハムレット

56 To be, or not to be: that is the question:

56 アリマス、アリマセン、アレハナンデスカ(原典はローマ字 Arimasu, arimasen, arewa nandesuka)

(滞日・在日欧米人向け雑誌 Japan Punch に掲載された譯者不詳 『ハムレツトさん、デンマルクの守(もり)』, 1874年)

56 生くるが增(まし)か死ぬるが增(まし)か、思案をするはこゝぞかし、 (外山正一譯 『新體詩抄』丸屋善七, 1882年)

56 ながらふべきか但し又、ながらふべきに非ずか、爰(こゝ)が思案のしどころぞ (尚今居士こと、矢田部良吉譯 『新体詩抄』丸屋善七, 1882年)

56 第一、生きて居るか、死なうといふ事を考へる(土肥春曙・山岸荷葉翻案 『沙翁悲劇ハムレツト』冨山房, 1903年)

56 定め難きは生死(せうし)の分別(戶澤正保こと戶澤姑射譯 『沙翁全集第一巻 ハムレツト』大日本圖書, 1905年)

56 生か死か、其の一を撰ばんには(山岸荷葉譯 『沙翁悲劇はむれつと』春陽堂, 1907年)

56 存(ながら)ふるか、存へぬか、それが疑問ぢや・・・・・・ (坪內逍遙譯『ハムレツト』本邦初演, 1907年)

56 生くるが增(まし)か死ぬるが增(まし)か、嗚呼(あゝ)どうしたものか、 (外山正一譯・飜案の西洋淨瑠璃 『靈驗皇子の仇討』, 1909年)

56 存(ながら)ふる? 存らへぬ? それが疑問ぢあ・・・・・・ (坪內逍遙譯『沙翁全集』第一編, 1909年)

56 存(ながら)ふる、存らへぬ、其處(そこ)が問題だ (村上靜人譯『ハムレツト』アカギ叢書第二十四篇, 1914年)

56 生か死か・・・・・・それが問題だ。 (久米正雄譯『ハムレツト』新潮文庫, 1915 & ’16年)

56 生きてゐようか、ゐまいか、それが問題だ (坪內士行譯, 帝國劇場, 1918年)

56 生きてゐようか、生きてゐまいか、それが問題だ (髙原延雄譯 『世界文豪代表作全集 第四巻』 世界文豪代表作全集刊行會, 1927年)

56 生きていくか、生きていくまいか、それが問題だ——— (甫木山茂譯 『古典劇体系 第五巻』 近代社, 1927年)

56 存(なが)らふべきか、それとも、存らふべきでないか、問題はそれだ。 (橫山有策譯 『世界文學全集(三) 沙翁傑作集』新潮社, 1929 & ’33年)

56 生きる、生きない、それが問題だ——— (佐藤篤二譯 『世界戯曲全集 第三巻』世界戯曲全集會, 1929年)

56 あるべきか、あるべきでないか、それは疑問だ (本多顕彰譯 『ハムレツト』小山書店, 1933年)

56 世に存(あ)る、世に存らぬ、それが疑問ぢや (坪內逍遙改譯 『新修シェークスピヤ全集二十七巻』中央公論社, 1934年)

56 どつち だらうか。———さあ、そこが 疑問、 (浦口文治譯 『ハムレツト』三省堂, 1934年)

56 生、それとも死。問題は其處(そこ)だ (澤村寅二郎譯 『對譯傍註 ハムレツト』硏究社, 1935年)

56 生き存(なが)らふべきか、死ぬべきか、それが問題である・・・・・・ (鈴木善太郎譯, 『世界名著物語文庫 ハムレツト』新文社 1946年)

56 生きるか、死ぬか、問題はそこだ (森芳介譯, 宮田輝明脚色、帝國劇場上演 『ハムレツト』、1947年)

56 生きてゐるか、生きてゐないか、それが問題だ (竹友藻風訳 『シェイクスピア選集 第四』大阪文庫, 1949年)

56 生きるか、死ぬるか、そこが問題なのだ (市河三喜・松浦嘉一訳 『ハムレツト』岩波書店 岩波文庫, 1949年)

56 生きているのか、生きていないのか。それが疑問だ。 (並河亮訳, 1950年)

56 長らふべきか、死すべきか、それは疑問だ。 (本多顕彰訳 『ハムレット』思索社, 1949 & ’51年; 角川文庫1952年)

56 生きているのか、生きていないのか、それが疑問だ (並河亮訳 『ハムレット』建設社, 1950年)

56 生きる、死ぬ、それが問題だ。 (三神勲訳 『世界文学全集』河出書房, 1951 & ’53年)

56 生か、死か、それが疑問だ (福田恆存訳, 1955年 東横ホール & ’56年 『ハムレット』河出書房)

56 生きるか、死ぬか、心がきまらぬ (鈴木幸夫訳 『世界名作全集 二』平凡社, 1960年)

56 やる、やらぬ、それが問題だ (小津次郎訳 『世界文学全集 十』筑摩書房, 1966年)

56 在()るか、それとも在らぬか、それが問題だ。 (大山俊一訳 『ハムレット』旺文社文庫, 1966 & ’73年)

56 生きるのか、生きないのか、問題はそこだ。 (永川玲二訳 『ハムレット』綜合社, 1969年)

56 生きるべきか、死ぬべきか。それが問題だ。 (訳者不詳ながら、いつの頃か人口に膾炙(かいしゃ)した訳文)

56 このままにあっていいのか、あってはいけないのか、それが知りたいことなのだ。 (木下順二訳, 1970年)

56 生き続ける、生き続けない、それがむずかしいところだ (木下順二訳 『ハムレット』講談社文庫, 1971年)

56 生き続けるか、生き続けないか、それがむずかしいところだ (木下順二訳 『世界文学ライブラリー ハムレット・オセロ・マクベス』講談社, 1971年)

56 このままでいいのか、いけないのか、それが問題だ。 (小田島雄志訳 『ハムレット』白水社, 1972 & ’73年)

56 生か死か、問題はそれだ。(安西徹雄訳 ステージ円, 1983年)

56 このまま生きる、それとも死ぬ、問題はそこだ。(渡邊守章訳 東京グローブ座, 1990年)

56 するか、しないか、それが問題だ。(高橋康也訳 東京グローブ座, 1992年)

56 生きてとどまるか、消えてなくなるか、それが問題だ。 (松岡和子訳『ハムレット』 筑摩書房 ちくま文庫, 1995 & ’96年)

56 これでよいのか、いけないのか、どうしたらよい。 (小菅隼人訳 『ベスト・プレイズ』白凰社, 2000年)

56 生きるか、死ぬか、それが問題だ。 (野島秀勝訳、岩波書店 岩波文庫。中野春夫 『シェイクスピアの英語で学ぶこと一番の決めゼリフ』, 2002年)

56 生か死か、それが問題だ。 (研究社 『新和英中辞典』第5版, 2002年)

56 生きていくべきか死ぬべきか、それが問題だ。 (研究社 『新英和中辞典』第7版, 2003年)

56 生きるべきか、死ぬべきか、それが問題だ。 (河合祥一郎訳『新訳 ハムレット』角川書店 角川文庫, 2003年; 坪內逍遙の子孫である河合氏が上記の人口に膾炙(かいしゃ)した訳文をその儘(まま)流用したことで話題になる)

以下は機械翻訳

56 あるか、ありません:つまり問題: (ヤフー翻訳, 2009年: その後2017年6月29日(木)サービス終了)

56 あって、以下の通りでない: つまり問題: (Weblio翻訳1, 2014年&2017年 & 2018年)

56 あって、以下の通りでない: それは問題です: (Weblio翻訳2, 2014年&2017年 & 2018年)

56 か、またはしないようにするには:その質問は: (グーグル翻訳, 2009年)

56 であるために、またはではない:それが問題だ。 (グーグル翻訳, 2013年)

56 それが問題だ:なるようにすること、またはしないようにするには: (グーグル翻訳, 2014年)

56 それが問題である:なるようにすること、またはしないようにします: (グーグル翻訳, 2016年)

56 そうするかしないか:それは質問です: (グーグル翻訳, 2017年)

56 またはない: それは質問。(I Love Translation 結果1, 2017年 & 2018年)

56 それが問題だ:すること、そうでないかには:(I Love Translation 結果2, 2017年 & 2018年)

56 そうするかしないか:それは質問です: (グーグル翻訳, 2018年)

56 であるか、またはそうではないために:それは問題である:(エキサイト翻訳, 2018年 & 2019年5月)

56 あるべきであるべきでないこと:それが問題です: (グーグル翻訳, 2019年5月)

56 あって、以下の通りでない:それは、問題です:(インフォシーク翻訳, 2019年5月)

56 あるべきかどうか:それが問題です:(グーグル翻訳, 2019年9月)

56 生きるべきか死ぬべきか、それが問題だ。(みらい翻訳, 2019年9月)

56 生きるべきか、死ぬべきか、それが問題です。(みらい翻訳, 2020年4月)

56 であるべきか否か:それが問題です:(グーグル翻訳, 2020年4月)

56 To be, or not to be: that is the question:

57 Whether ’tis nobler in the mind to suffer

58 The slings and arrows of outrageous fortune,

59 Or to take arms against a sea of troubles,

60 And by opposing end them? To die: to sleep;

61 No more; and by a sleep to say we end

62 The heart-ache and the thousand natural shocks

63 That flesh is heir to, ’tis a consummation

64 Devoutly to be wish’d. [後略]

56 このままでいいのか、いけないのか、それが問題だ。

57 どちらがりっぱな生き方か、このまま心のうちに

58 暴虐な運命の矢弾をじっと耐えしのぶことか、

59 それとも寄せくる怒涛の苦難に敢然と立ちむかい、

60 闘ってそれに終止符をうつことか。死ぬ、眠る、

61 それだけだ。眠ることによって終止符はうてる、

62 心の悩みにも、肉体につきまとう

63 数々の苦しみにも、それこそ願ってもない

64 終わりではないか。[後略]

(小田島雄志訳, 1972 & ’73年)

56 生きてとどまるか、消えてなくなるか、それが問題だ。

57 どちらが雄々しい態度だろう、

58 やみくもな運命の矢弾(やだま)を心の内でひたすら堪え忍ぶか、

59 艱難(かんなん)の海に刃(やいば)を向け

60 それにとどめを刺すか。死ぬ、眠る———

61 それだけのことだ。眠れば

62 心の痛みにも、肉体が受け継ぐ

63 無数の苦しみにもけりがつく。それこそ願ってもない

64 結末だ。[後略]

(松岡和子訳, 1996年)

56 生きるべきか、死ぬべきか、それが問題だ。

57 どちらが気高(けだか)い心にふさわしいのか。非道な運命の矢弾(やだま)を

58 じっと耐え忍ぶか、それとも

59 怒涛(どとう)の苦難に斬りかかり、

60 戦って相果てるか。死ぬことは——眠ること、

61 それだけだ。眠りによって、心の痛みも、

62 肉体(にくたい)が抱える数限りない苦しみも

63 終わりを告げる。それこそ願ってもない

64 最上の結末だ。[後略]

(河合祥一郎訳, 2003年)

(動画集)

ローレンス・オリヴィエ(Lawrence Olivier, 1907-89)主演・監督による英米合作映画 『ハムレット』(1948年)

https://www.youtube.com/watch?v=5ks-NbCHUns (1:01-1:58)

チャップリン(Charlie Chaplin, 1889-1977)主演・監督によるイギリス映画 『ニューヨークの王様』(1957年)の中の劇中劇「ハムレットの第三独白」の場面

https://www.youtube.com/watch?v=BQxZyHm6abU (0:38-1:01)

後援者の金満婦人アン・ケイ: 淑女と紳士の皆さん、私たちは今から歴史的瞬間を目撃する特権を得ました。シャードフ国王陛下がご親切にもハムレットの「生きるべきか、死ぬべきか」を演じることに同意してくださいました。

シャードフ国王: ハムレットの独白を演じるにも色々なやり方がありまして、青白い物憂げな貧血症の王子、狂っていて仰々(ぎょうぎょう)しいのもあります。どちらが宜しいですかな。

男性ゲスト: 貧血症以外なら何でもいいです。

シャードフ国王: 生きるべきか、死ぬべきか、それが問題だ。(後略)

ケネス・ブラナー(Kenneth Branagh, b.1960)主演・監督による英米合作映画 『ハムレット』(1996年)

https://www.youtube.com/watch?v=-JD6gOrARk4 (0:00-0:41)

d) 『マクベス』第1幕1場(Macbeth 1:1)

1603-07年頃の執筆; 1611年初演

FIRST WITCH

第一の魔女

1 When shall we three meet again?

1 今度はいつ逢ふことにしようかねえ。 (森鷗外譯, 1913年)

1 いつ又三人が一しよにならう、(坪內逍遙譯, 1935年)

1 いつまた会おう、三人で? (松岡和子訳, 1996年)

1 いつまた三人で会うのかのう、 (大場建治訳, 2004年)

1 いつまた三人、会おうかね? (河合祥一郎訳, 2009年)

1 我ら三人、次はいつ会おうぞ。 (原田俊明試訳, 2017年)

2 In thunder, lightning, or in rain?

2 神鳴、稲妻、雨の中で。 (森鷗外譯, 1913年)

2 鳴る時か、光る時か、降る時かに? (坪內逍遙譯, 1935年)

2 雷、稲妻、雨の中? (松岡和子訳, 1996年)

2 かみなり、稲妻、雨の中かのう (大場建治訳, 2004年)

2 雷、稲妻、雨の中? (河合祥一郎訳, 2009年)

2 雷鳴か、稲妻か、果ては雨にするか。 (原田俊明試訳, 2017年)

SECOND WITCH

第二の魔女

3 When the hurlyburly’s done,

3 どうせどたばたが濟んでからだね。 (森鷗外譯, 1913年)

3 騷動(ごたくさ)が終()んだ時分に、(坪內逍遙譯, 1935年)

3 てんやわんやがおさまって(松岡和子訳, 1996年)

3 騒ぎが終わったそのときに(河合祥一郎訳, 2009年)

3 どんちゃん騒ぎが終わったらさ。 (原田俊明試訳, 2017年)

4 When the battle’s lost and won.

4 軍(いくさ)の勝負が附いてからだね。 (森鷗外譯, 1913年)

4 勝敗(かちまけ)の決(きま)つた時分に。(坪內逍遙譯, 1935年)

4 闘い、負けて勝ったとき。(松岡和子訳, 1996年)

4 戦(いくさ)に負けて勝ったとき。(河合祥一郎訳, 2009年)

4 いくさに負けて勝ったらさ。 (原田俊明試訳, 2017年)

[中略]

ALL

一同

11 Fair is foul, and foul is fair:

11 綺麗とはきたない事で、きたないとは綺麗な事さ。 (森鷗外譯, 1913年)

11 清美(きれい)は醜穢(きたない)、醜穢は清美。 (坪內逍遙譯, 1935年)

11 きれいは汚い、汚いはきれい。(松岡和子訳, 1996年)

11 きれいは きたない、きたないは きれい (安西徹雄訳初校)

11 晴々しいなら 禍々(まがまが)しい、禍々しいなら 晴々しい (安西徹雄訳最終稿, 2008年)

11 きれいは汚い、汚いはきれい。(河合祥一郎訳, 2009年)

11 きれいなら汚い、汚いならきれい。(原田俊明試訳, 2017年)

12 Hover through the fog and filthy air.

12 霧やきたない烟(けむ)の中を飛んで行かうね。 (森鷗外譯, 1913年)

12 狭霧(さぎり)や穢い空氣ン中を翔(と)ばう。(坪內逍遙譯, 1935年)

12 飛んで行こう、よどんだ空気と霧の中。(松岡和子訳, 1996年)

12 飛んで行こうよ、霧と穢(けが)れた空の中。(河合祥一郎訳, 2009年)

12 うろつき飛ぶのじゃ、霧時雨(きりしぐれ)と淀(よど)んだ空気の中を。 (原田俊明試訳, 2019年)

Exeunt.

全員退場。

(動画: 過去の映画を一挙に比較)

ポランスキー(Roman Polanski, b.1933)監督による英米合作映画 『マクベス』(1971年)と、

ライト(Geoffrey Wright, b.1959)監督による豪州映画 『マクベス』(2006年)と、

グールド(Rupert Goold, b.1972)監督によるBBC第4チャンネル(BBC Four)のTV映画 『マクベス』(2010年)

https://www.youtube.com/watch?v=clG8ha2D26g

e) 『マクベス』第5幕5場(Macbeth 5:5)

MACBETH

マクベス

19 To-morrow, and to-morrow, and to-morrow,

20 Creeps in this petty pace from day to day,

21 To the last syllable of recorded time;

22 And all our yesterdays have lighted fools

23 The way to dusty death. Out, out, brief candle!

24 Life’s but a walking shadow, a poor player,

25 That struts and frets his hour upon the stage,

26 And then is heard no more. It is a tale

27 Told by an idiot, full of sound and fury,

28 Signifying nothing.

19 あすが來る。あすが來る。又あすが來る。

20 「時」は一日一日と刻足にゐざつて行つて、

21 記錄の最終の一句まで行き着いて見ると、

22 その幾つかの「きのふ」は、悉く阿房を塵泥(ちりひち)なす

23 死滅に導いた紙燭(しそく)の火に過ぎぬ。消えろ。短い蝋燭。

24 人生はよろめく影だ。氣の毒な俳優が

25 約束の時間丈舞臺で息張(いば)つて跳ね廻つたところで、

26 それが濟めば誰も耳を傾けるものは無い。馬鹿の口で

27 話す話が、仰山に物騒がしうても、

28 何の意義も無いのだ。

(森鷗外譯, 1913年)

19 明日が來り、明日が去り、又來り、又去つて、

20 「時」は忍び足に、小刻みに、

21 記錄に殘る最後の一分まで經過してしまふ。

22 總て昨日といふ日は、阿呆共が死んで土になりに行く

23 道を照らしたのだ。・・・消えろ/\、束の間の燭火(ともしび)!

24 人生は歩いてゐる影たるに過ぎん、

25 只一時、舞臺の上で、ぎっくりばったりをやって、

26 やがて最早(もう)噂もされなくなる慘めな俳優だ、白痴(ばか)が話す話だ、

27 騷ぎも意氣込みも甚(えら)いが、

28 たわいもないものだ。

(坪內逍遙譯, 1935年)

19 明日も、明日も、また明日も、

20 とぼとぼと小刻みにその日の歩みを進め、

21 歴史の記述の最後の一言にたどり着く。

22 すべての昨日は、愚かな人間が土に還る

23 死への道を照らしてきた。消えろ、消えろ、束の間の灯火(ともしび)!

24 人生はたかが歩く影、哀れな役者だ、

25 出場のあいだは舞台で大見得を切っても

26 袖へ入ればそれきりだ。

27 白痴のしゃべる物語、たけり狂うわめき声ばかり、

28 筋の通った意味などない。

(松岡和子訳, 1996年)

19 明日(あした)、また明日、そしてまた明日と、

20 記録される人生最後の瞬間を目指して、

21 時はとぼとぼと毎日歩みを刻んで行く。

22 そして昨日という日々は、阿呆(あほう)どもが死に至る塵(ちり)の道を

23 照らし出したにすぎぬ。消えろ、消えろ、束の間の灯火(ともしび)!

24 人生は歩く影法師、哀れな役者だ。

25 出番のあいだは大見得(おおみえ)切って騒ぎ立てるが、

26 そのあとは、ぱったり沙汰(さた)止()み、音もない。

27 白痴(はくち)の語る物語。何やら喚(わめ)きたててはいるが、

28 何の意味もありはしない。

(河合祥一郎訳, 2009年)

19 あした、そしてあした、そしてあしたが

20 這()いつくばって来るわ、こんなとろいペースで日に日に、

21 記録に残る最後の一句までな。

22 そして過去は道化(どうけ)どもを照らしてきた、

23 死して塵(ちり)となる道ゆきをだ。失()せろ、失せろ、線香花火め!

24 人生とは是(これ)歩く影、ヘボ役者に過ぎぬ。

25 そ奴は舞台で自分の持ち場を飾りたてるが、

26 その後は声を聞くこともない。その話は、

27 阿呆(あほう)が語り、満ちるのは響きと怒りで、

28 意味するところは無い。

(原田俊明試訳, 2019年)

(動画集)

トレヴァー・ナン(Trevor Nunn, b.1940)監督による王立シェイクスピア劇団(RSC: Royal Shakespeare Company)の戯曲 『マクベス』(1976年)上演の様子

https://www.youtube.com/watch?v=4LDdyafsR7g (0:21-1:38end)

グールド(Rupert Goold, b.1972)監督によるBBC第4チャンネル(BBC Four)のTV映画 『マクベス』(2010年)

https://www.youtube.com/watch?v=qNDWBWFrpjM (0:46-1:58)

[関連動画]

William Shakespeare’s IMPACT on the English Language

(英語に対するシェイクスピアの強い影響)

Langfocus

2020年5月13日(水)

https://www.youtube.com/watch?v=ny-G1ijEcSo

[関連コラム]

「暴君」はなぜ生まれるのか、シェイクスピアが教えてくれること

現代ビジネス

前半 髙山裕二(たかやま ゆうじ, 生年非公開)明治大学准教授 「「暴君」とは何者か? シェイクスピア研究の大家が解き明かす」

後半 北村紗衣(きたむら さえ, b.1983)武蔵大学准教授 「トランプはシェイクスピアを真似ている? スティーヴン・グリーンブラット『暴君――シェイクスピアの政治学』」

スティーブン・グリーンブラット(Stephen Greenblatt, b.1943)ハーヴァード大学教授著、河合祥一郎(かわい しょういちろう, b.1960)東京大学教授訳 『暴君―シェイクスピアの政治学』(岩波書店 岩波新書 No.1846, 2020年9月)の宣伝

2020年9月27日(日)

https://gendai.ismedia.jp/articles/-/75914

https://gendai.ismedia.jp/articles/-/75914?page=2

https://gendai.ismedia.jp/articles/-/75914?page=3

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https://gendai.ismedia.jp/articles/-/75914?page=6

https://gendai.ismedia.jp/articles/-/75914?page=7

https://news.yahoo.co.jp/articles/4ba94d56ae978df5cce88ef6f2dd540ff693615c (リンク切れ)