専門英語(歴文)08(2014/ 7/10) 英国式風景庭園

英国式風景庭園(英 English garden イングリッシュガードゥン または English landscape garden イングリッシュラェンスケイプガードゥン または English landscape park イングリッシュラェンスケイプパーク; 仏 jardin anglais ジャふドンナングレ; 伊 giardino all’inglese ジャるディーノ・アッリングレーゼ; 独 Englischer Garten エングリッシャーふテン または Englischer Landschaftsgarten エングリッシャーラントシャフツふテン)。但し、より厳密には「イングランド式庭園」または「イングランド式風景庭園」と訳すべし。

ヴェネツィア人の建築家パッラーディオ(伊 Andrea Palladio, 1508-80)の影響を受けたパッラーディオ建築(英 Palladian architecture パレイディアン・アーキ テクチャー)という一種の新古典建築(英 Neoclassical architecture)の邸宅がイギリスで流行する。なお、パッラーディオ自身の建築作品はイタリア北部のヴィチェンツァ市を中心に多く残る。新古典 建築に当初は左右対称(英 symmetric または symmetrical)のイタリア式庭園やフランス式庭園を合わせたが、後に英国式庭園に大部分を改装する。英国式は左右が非対称(英 asymmetric)で、より自然に近い要素を持ち合わせる。人工的に掘った池もフランス式のような四角や十字形は避けて、自然の池に見せかけている。 中国庭園(中国古典園林)からの影響もある。代表的な庭園設計者にケイパビリティ(才能)・ブラウン(英 Capability Brown)の綽名(あだな)で知られるランスロット・ブラウン(英 Lancelot Brown, 1716-83)。

例1)イングランドのバッキンガムシャーに在るストウ・ハウス(英 Stowe House)とストウ風景庭園(英 Stowe Landscape Gardens, Buckinghamshire)

城館の本館は1683年頃の完成。

http://www.stowe.co.uk/house/

http://www.nationaltrust.org.uk/stowe/

http://en.wikipedia.org/wiki/Stowe_House

http://www.youtube.com/watch?v=fdJ6wj6vEs4

例2)イングランドのチャッツワース・ハウス(英 Chatsworth House)

既存の屋敷を17世紀末に大幅に改築。

http://www.chatsworth.org/

http://en.wikipedia.org/wiki/Chatsworth_House

http://www.youtube.com/watch?v=oN987SsqSwY

例3)イングランドのオクスフオッド州に在るブレナム宮殿(英 Blenheim Palace ブニム・レス)

軍人ジョン・チャーチル(1650-1722)が、スペイン継承戦争(1701-14)中のブリントハイムの戦い(1704)で立てた戦功の恩賞としてア ン女王(1665-1714; 在位1702-14年)から、「モーブラ(日本では誤ってマールバラ)公爵」の爵位とオックスフォードの領地を与えられた。ブレニム(ブレナム)とは、ド イツの戦地ブリントハイムの英語名。初代モーブラ公はここに建築家ヴァンブラ(Sir John Vanbrugh, 1664-1726)の設計による絢爛豪華なバロック建築の大邸宅を建築した。初代モーブラ公ジョンの子孫で、後の首相ウィンストン・チャーチル (1874-1965; 首相在任1940-45; 195-5)が生まれた場所でもある。1987年にユネスコ世界文化遺産に登録済。

http://www.blenheimpalace.com/

http://www.blenheimpalace.com/home_japanese.html

http://en.wikipedia.org/wiki/Blenheim_Palace

http://ja.wikipedia.org/wiki/ブレナム宮殿

http://in.images.search.yahoo.com/yhs/search?_adv_prop=image&fr=yhs-Babylon-004&va=Blenheim+Palace&hspart=Babylon&hsimp=yhs-004

例4)イングランド北部のヨークシャーに在るハワード城(英 Castle Howard カースル・ワード)

カーライル伯爵であるハワード家が代々受け継ぐ城。屋敷の大半は第三代カーライル伯の時代、1699-1712年の建築。設計はブレナム(より正確にはブレニム)宮殿と同じくヴァンブラ(John Vanbrugh, 1664-1726)による。

http://www.castlehoward.co.uk/

http://en.wikipedia.org/wiki/Castle_Howard

https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%82%AB%E3%83%BC%E3%82%B9%E3%83%AB%E3%83%BB%E3%83%8F%E3%83%AF%E3%83%BC%E3%83%89

http://in.images.search.yahoo.com/yhs/search?_adv_prop=image&fr=yhs-Babylon-004&va=Castle+Howard&hspart=Babylon&hsimp=yhs-004

英国庭園にも影響を与えたと言われる中国古典園林の例

http://en.wikipedia.org/wiki/Chinese_garden

http://ja.wikipedia.org/wiki/蘇州古典園林

http://en.wikipedia.org/wiki/Classical_Gardens_of_Suzhou

中華人民共和国江蘇省蘇州(そしゅう)市(英 Suzhou, Jiangsu, China; 中文簡体字表記で「中华人民共和国江苏省苏州市」)に、多くは明(英 Ming Dynasty, 1368-1644)の時代に建設された庭園の総称で、1997年以来ユネスコ世界文化遺産に登録済(英名 Classical Gardens of Suzhou; 仏名 Jardins classiques de Suzhou)。

滄浪亭(英 Canglang Pavilion or Great Wave Pavilion; 中文簡体字表記で「沧浪亭」; ピンイン表記でCāng Làng Tíng)

http://en.wikipedia.org/wiki/Great_Wave_Pavilion

http://www.youtube.com/watch?v=oQNVJ6QFVlQ

http://www.youtube.com/watch?v=XsMvlERSNfE

拙政園(英 Humble Administrator’s Garden; 中文簡体字表記で「拙政园」; ピンイン表記でZhuōzhèng Yuán)

http://en.wikipedia.org/wiki/Humble_Administrator%27s_Garden

http://www.youtube.com/watch?v=bo34CrGHm3Y

留園(英 Lingering Garden; 中文簡体字表記で「留园」; ピンイン表記でLiú Yuán)

https://ja.wikipedia.org/wiki/%E7%95%99%E5%9C%92

http://en.wikipedia.org/wiki/Lingering_Garden

http://www.youtube.com/watch?v=k0Bfs8rmO6o

網師園(英 Master of the Nets Garden; 中文簡体字表記で「网师园」; ピンイン表記でWǎngshī Yuán)

http://en.wikipedia.org/wiki/Master_of_the_Nets_Garden

http://www.youtube.com/watch?v=A3r54QM9mZU

獅子林園(英 Lion Grove Garden; 中文簡体字表記で「狮子林园」; ピンイン表記でShī Zǐ Lín Yuán)

http://en.wikipedia.org/wiki/Lion_Grove_Garden

http://www.youtube.com/watch?v=0Y5KLPRaulk

庭園についての誤った認識(赤川裕『イギリス庭園散策』から一部改変・加筆)

(1) 敷地内を囲う空間に造園したもの。 ⇒ 誤り。庭は敷地内、居宅の周囲に在るとは限らず、湖上の島などの飛び地や、屋上や地下もある。18世紀以降の英国 式風景庭園は、塀で囲う印象を避け、周囲の自然と融合すること、視覚的には「果てしない庭」を目指した。そのため空濠(からぼり; ha-ha)などの仕掛けを用いた。

(2) 花や樹木が植えてある。 ⇒ 誤り。英国式風景庭園では樹木と湖水を囲む芝地が主体であり、花々を育てないものもある。

(3) 人の目を楽しませることを主な目的としている。 ⇒ 半分誤り。視覚のみならず、鳥のさえずりなどの聴覚の楽しみや、薬草園(英 herb garden)から漂う嗅覚の愉しみ、ザクザクと砂利(英 shingles)を靴の裏で踏んだり、柔らかな茂みを手で撫(な)でて歩くときの触覚の愉しみ、それに収穫した果実や野菜で食欲・味覚を満たす喜びも忘 れてはならない。

18世紀以前の古典主義(英 Classicism)の整形庭園(英 formal garden)の構成要素(赤川裕『イギリス庭園散策』に基づくも一部修正・加筆)

・中央軸線(英 main axis メイクシス; 英 central axis セントろォクシス)

長方形・正方形など整然とした庭空間の中央をまっすぐに貫く通路。高位の者がそこを通り、支配者が領地を秩序だったものにする。

・庭園装飾(英 garden ornament ガードゥンノーナメント)

樹木や花はこれに含まず、石材や金属や土器や木材や煉瓦(レンガ)や硝子(ガラス)でできた造作物を装飾目的で置いた物。

・古代式骨壺(英 urn オァーン)

元来は古代エジプトで高貴な人のミイラを作った際に内臓を入れた壺を横に並べて葬ったとされる。ギリシア世界に伝わって骨壺となった。イングランドでは装飾的な大型古代式骨壺を野外に立てて庭園装飾とする。壺に土を入れて植物を生やすこともある。

・噴水(英 fountain ファウンテン)

十字軍兵士が遠征先で見たイスラム庭園に影響された。飲み水や清涼感の演出や音響効果という実用的な目的もあったが、低い方へと流れる筈(はず)の水を空に噴き上げることで、自然を支配する権力者の力の誇示という側面もある一種の庭園装飾。

・日時計(英 sundial サンダイヤル)

公園に設置される花時計(英floral clock)よりも古い歴史を持つ。太陽の動きによって移動する針の影で時刻を読む装置。近代に入ると時刻は専(もっぱ)ら時計に任せ、日時計は庭園が大宇宙の運行と連携していることを実感させる象徴的な庭園装飾へと変化。

・天球儀(英 armillary sphere アーミらリ・スフィア)、中国では渾象。

大宇宙の運行に思いを馳(は)せる立体的な庭園装飾。

・愚かさ(英 folly フォリー)、または焦点(英 focal point フォウコゥポイント)

古代遺跡の廃墟に見立てた建造物を大仕掛けな見世物として広大な空間のただ中に配置する。人の目を引くためアイ・キャッチャー(英 eye-catcher)とも呼ばれるカネに糸目をつけない、遊び心旺盛な、一種の庭園装飾。

・東屋(あずまや; 英 gazebo ガズィーボウ)

装飾と実用を兼ね備えた小屋。「眺める」という意味の動詞gaze (ゲイズ)に由来。庭園装飾の意味合いと、そこから庭を眺める意味の両義性がある。東洋風、イスラム風、田舎風などのスタイルがあり、展望小屋、休憩所、 番小屋、茶室、瞑想小屋、道具置場など様々な味付けができる。

・シート(英 seat スィート)

庭のあちこちに置かれた椅子やベンチのこと。庭園装飾の意味合いと、そこから庭を眺める意味の両義性がある。しかし蔦草(つたくさ)や花に埋もれて座れないシートもある。

・木陰の休憩所(英 arbour アーバー)

樹木や蔓性(つるせい)植物などに囲まれたようにしつらえた庭の「あずまや」風の小部屋。羅典(ラテン)語で「樹木」を意味するarbor (アるボる)に由来。休憩目的と視点の提供を兼ねている。また、それ自体が庭園装飾の意味合いもある。

・蔓棚(英 pergola パーゴラ)

トンネル状のあずまや。蔓性(つるせい)植物をまとい付かせ、藤棚のような屋根を持つ休憩所。全部木製や、全部金属製の他に、石組みの上に木の角材を載せ た物もある。渡り廊下のようなつくりや、家の廂(ひさし)のようなつくりも可能。テーブルを持ってきて紅茶を楽しむのが英国流。

・鳩小屋(英 dovecote ダヴコット)

庭の中に独立した鳩小屋を建てたり、別の目的の建物の屋根裏部屋で鳩を飼った。空を飛ぶ鳥は地面を行く動物よりも高位の生き物であるという考えから、西洋上流階級は鳩を食用にしたため屋敷内に鳩の飼育場を設けた。

・花壇(英 flower bed フラワベッド; 英 raised-bed gardening れイズドベッド・ガーデニング)

煉瓦などで四角その他の形に区切り、地表面から数十センチ盛り上げる。鑑賞の便宜のためと規則的な立体感を出すため。

・絨毯(じゅうたん)花壇、毛氈(もうせん)花壇(英 carpet bedding カーペットディング)

整形的な空間に背の低い葉物や花の背丈を揃えて密植し、絨毯の模様のような効果をあげた。花時計(英 floral clock)も一種の絨毯花壇。

・パルテール(仏 parterre の綴りで仏式発音は「パふテーふ」、英式発音は「パーテァ」)

仏語で「地に在って」「地面から足を離さず」の意味。花や低灌木(ていかんぼく)の規則的な植栽法。地表面や低い盛り土の上に、花や葉物で様々な図形を描 く。母屋の近くに、窓から見下ろす位置に作られることが多い。最盛期の花を植えて、盛りが終われば、すぐに別の花に取り換える。フランスで流行した。

・結び目庭園(英 knot garden ノッガードゥン)

低いツゲなどの刈り込みを用いて、まるでリボンの結び目のような模様を描く技法。16世紀以降イングランドで流行した。

・トピアリー(英 topiary トウピアり)

語源的には羅典(ラテン)語で「(風景庭園の)庭師」を意味するtopiarius (トピアーりウス)から転じた「庭師の物」の意味から。ツゲやイチイなどの遅育性の樹木を刈り込んで、熊や鳥などの動物、家や船の形、当家の紋章、球形、 円錐形などの形を描く。庭師の腕の見せどころで、長い年月かけて針金を使って誘引するなど盆栽に似た技能も伴う。自然を人間の我が儘(まま)に従属させ る。四角く刈り込んだ生垣もトピアリーの一種と言える。

・迷路(英 maze メイズ)

当て字としての訳語に 「迷図(めいず)」もある。庭園の一隅に人の背丈より高い生垣で入り組んだ通路をつくり、簡単には中心の到達点に辿り着けなかったり、出口が見つけにくい ように巧妙に設計してある。遊び心に満ちた仕掛け。上記トピアリーの非常に手の込んだ物と言える。

・格子垣(英 trellis トリス)

家屋から離れた庭の造作物として庭園植栽の選択に応じて後から取り付けられた塀のこと。四角形や菱形の網目が空くように組んである。蔓性(つるせい)植物を這(は)わせ、空間を直線的に区切る。庭に整然とした印象を与える。壁などと異なり光と空気を通す。

・果樹垣(仏 espalier エスパリエ)

「果樹檣(かじゅしょう)」とも訳す。美観のため、壁に平行に伸びた枝だけを残して、枝ぶりを躾(しつ)ける。平面的な絵画のような樹木で、なおかつ左右 対称にすることが多い。人間が植物を支配する思想が背景にあり。石壁や煉瓦(レンガ)塀の表面に果樹を垂直に寄り添わせて育てる場合もある。その場合は果 樹垣が吸収した太陽熱を日没後も効率よく果樹に与えることができる。

・菜園(仏 potager ポタジェ; 英 kitchen garden チェンガードゥン)

整形庭園の陰に設けられた自給用の野菜畑のこと。フランス語の「ポタジェ」は語源的には英仏両言語で「壺」を意味するpotや、同じく両言語で「飲用に適した」を意味するpotableや、「野菜等の煮込み汁」を意味するpotage (ポタージュ)と同根。

18世紀の古典主義(英 Classicism)の整形庭園(英 formal garden)から風景庭園(英 landscape garden)への移行期・過渡期に見られる構成要素(赤川裕『イギリス庭園散策』によるが一部改変)

・洞穴(伊 grotto グろットォ)

元来はイタリアの断層(英 dislocation; fault)にできた自然の洞穴を意味したが、転じて建物内外の壁面を利用した人工的で装飾的な仕掛けを指すようになった。平面的な庭に変化を与え、陰影 と奥行きを演出し、自然の奥深さを暗示する。そこで描かれる装飾が「グロット的」という意味で「グロテスク(grotesque)」という言葉が生まれ、 大正時代や昭和戦前期日本語の「エロ、グロ、ナンセンス」という表現が生まれ、平成日本語の「グロい」という形容詞ができた。

・オベリスク(英 obelisk ベリスク)

古代エジプト式尖塔のこと。異国情緒の漂う物にアイ・キャッチャー(英 eye-catcher)や陸標(英 landmark)としての役割を持たせた。

・築山(つきやま)(英 mound マウンド; 英 mount マウント)

日本庭園の築山とは異なり、山岳信仰の要素はない。庭に立体感を与える目的と、実際に登って眺めを楽しむ目的とがある。

・段々滝(英 cascade スケイド)

イタリアの自然の断層を流れ落ちる連鎖上の滝をイギリスに人工的に再現した。当初は規則的な石組みの上に水を流したが、次第に自然のように不規則な断層を 模倣するようになった。古典主義の噴水が自然に逆らって水を上に噴き上げるのに対して、カスケイドは低い方へ低い方へと流れる水の特徴を取り入れた。

・オレンジ栽培用温室(仏 orangerie オほァンジェひ; 英 orangery オーれンジェりー)

オレンジの木を栽培するための温室。オレンジは16世紀にイングランドに入ってきた。王侯貴族は南国の芳(かぐ)しい香りをした、見た目も美しいオレンジに憧れた。やがて他の南国や熱帯の植物にも応用されて、イギリスが植物王国になる下地ができた。

・ヘルメス神柱像(英 herm ハーム)

ギリシア神話で旅と交通の守護神であるヘルメス神を祀(まつ)った像。角型の石柱にヘルメスの頭部を載せた形の物が、庭の通路の分岐点などに置かれる。日本の道祖神(どうそじん)と発想が近い。

自然主義的(naturalistic)な風景庭園(英 landscape garden)の構成要素(赤川裕『イギリス庭園散策』によるが一部改変)

・空濠(からぼり)(英 ha-ha ハーハー)

「隠れ垣」の訳語もある。英語で sunk fence とも言うので、その場合は「沈め垣」と訳す。「ハーハー」 の原義は驚きや感心の声とされる。18世紀中盤、イングランド各地の庭園が風景式庭園に改造されたり、新たに造園されたりした際に、塀や垣根が取り壊さ れ、外側の自然の風景との融合が図(はか)られた。代わって深さ2メートルほどの空濠が掘られた。空濠の両側の地平面は同じ高さにしたため、視線と意識は 遥か彼方に延びて解放感を味わった。外側で放牧されている家畜は、空濠を越えて屋敷まで達することはできないばかりか、庭園を荒らす心配もない。実によく できた構造である。

・湖水(英 lake レイク)やアヒル池(英 duck pond ダッポンド)

整形庭園の水面は水路(英 canal カナール)の名で長方形や十字型などの規則的な人工性を強調していたが、自然主義の風景庭園では不規則(英 irregular イッレギュラー)な湖岸線が入り組み、人造湖であることを感じさせない。「自然は直線を嫌う」なる考えで造営されている。

・遊歩道(英 walk ウォーク)や小径(英 path パース)

古典主義の整形庭園では道も花壇も、宮殿のバルコニーなどからの支配者(絶対的な権力者)の視点を中心につくられたが、自然主義の風景庭園では国王も貴族 も客も庭を自由に歩き回って、自分の好きな視点から庭を眺めるようになった。視点の一極集中主義から多元的な移動空間へと変化したわけである。多くの味わ い深い曲線の遊歩道をそぞろ歩く楽しみがある。

・木立(こだち)、樹塊(じゅかい)(英 clump クランプ)

更地あるいは古典主義の整形庭園を壊した土地に近景・遠景のバランスを考慮しつつ、まばらに自然に植樹した木々のこと。ケイパビリティ(才能)・ブラウン (英 Capability Brown)の綽名(あだな)で知られるランスロット・ブラウン(英 Lancelot Brown, 1716-83)が得意としていた。程良い間隔で植樹されると隙間から遠景が見渡せて、風景はさらに大きく見える。

・渓流(けいりゅう)、疎水(そすい)(英 rill ル)

うねうねと曲がって流れるごく小さな小川のこと。子供でも容易に跨(また)ぐことが可能。

・境栽花壇(英 border ボーダー)

19世紀末以降の中産階級の小さな庭に見られる。庭園の塀際や壁際や通路脇などに沿った細長い空間をたくみに活用して、芝地や通路面と殆(ほとん)ど同じ高さの路地にしたもの。

・宿根草境栽花壇(英 herbaceous border ハベイシャスボーダー)

20世紀の造園法で、ボーダーに多年草(英 perennial ペニォル)を植えることで、季節ごとの植え替えの手間を省き、自然本来の生命力を生かした。

・岩庭園(英 rockery ろッケりー; 英 rock garden ろッガードゥン)

日本の禅寺に見られるに石庭(せきてい)や枯山水(かれさんすい)(英ではともに rock garden)の外面的な影響を受けるが、イギリスの庭園に宗教性や哲学性はない。イギリスでは石を積んで深く砂利(英 shingles)を入れるので、植えられた植物は深く根を下ろし、水やり不要となる。植物の生命力を感じいる庭園である。

英国式風景庭園風の市民公園

例1)ロンドンの公園。ハイド公園(英 Hyde Park ハイパーク)、ケンジントン庭園(Kensington Gardens ケンジントンガードゥンズ)、緑公園(Green Park グりーパーク)、聖ジェイムズの公園(St James’s Park セントジェイムズィーズパーク)等。

例2)ロンドン郊外(現在は大ロンドン市内)に在る王立キュー植物園(英 Royal Botanic Gardens, Kew; 通称 Kew Gardens)。

例3)1960年代に郊外に創立された国立キャンパス大学の校庭。ランカスター大学(英 University of Lancaster; 通称 Lancaster Uni)、エセックス大学(英 University of Essex)等。

イギリス国外にもある英国式風景庭園

例1)旧バイエルン王国首都で、現在のドイツ連邦共和国バイエルン州の州都ミュンヘン市にある英国庭園(独 Englischer Garten エングリッシャーふテン)。庭園内に中国の塔(独 Chinesischer Turm ヒネージッシャートゥふム)と日本茶室(独 Japanisches Teehaus ヤパーニッシェス・テーハウス)がある。

例2)旧バイエルン王国、現在のドイツ連邦共和国バイエルン州に在るカトリック教会によるバロック建築都市ノイブルク・アン・デア・ドーナウ(「ドナウ川に面した新城」の意味)の町はずれにある人工的な木立の名が、英国庭園(独 Englischer Garten エングリッシャーふテン)。

例3)スイス連邦のフランス語圏に於ける最大の都市ジュネーヴ市の湖岸にある小さな公園の名が、英国庭園(仏 Jardin anglais ジャふドンナングレ)。

例4)日本の首都東京都心部に在る新宿御苑の中央部に、日本に於ける最も本格的な英国庭園あり。しかし池や滝などの仕掛けはない。東端にはフランス式風景庭園もどきもあり。

【参考文献】

赤川裕 『イギリス庭園散策』(岩波書店 岩波アクティブ新書No.110, 2004年)

ハリソン(Lorraine Harrison)『庭園の謎を解く』(ガイアブックス, 2011年)

小林章夫 『図説 英国庭園物語』(河出書房新社 ふくろうの本, 1998年)

中山理 『イギリス庭園の文化史 夢の楽園と癒しの楽園』(大修館書店, 2003年)

安藤聡 『英国庭園を読む 庭をめぐる文学と文化史』(彩流社, 2011年)