西曆2016年 3月 2日(水) 日本アマゾンのレビュー、『黒い輪―権力・金・クスリ オリンピックの内幕』にコメント

ヴィヴ シムソン (著), アンドリュー ジェニングズ (著), Vyv Simson (原著), & 2 その他

『黒い輪―権力・金・クスリ オリンピックの内幕』(光文社, 1992年)

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5つ星のうち 5.0

変節と首輪 1

投稿者 本が大好きです

投稿日 2005/1/15

形式: 単行本

本書は、解説に大変な含蓄がある。

アディダスのダスラー、IOC会長サマランチを揶揄した原題"The Lords of the Rings (五輪の貴族たち)"の Lord(卿)とは、いわゆる公侯伯子男の中で、最下位の男爵を呼ぶときにだけ用いられる称号であり、商売などで大成功を収めた新参者に与えられる爵位にすぎないため、原著者が身を置くヨーロッパ上流社会では、成り上がりという意味で、軽蔑の表象でもあるのだと指摘したうえで、広瀬氏は、では、より高位の由緒正しき貴族に問題は無いのか?と問い、否、由緒正しき貴族にこそ、より根本的な問題があると絵解きしてくれる。

広瀬氏によれば、IOC最大の癌は、決算報告書を出した例がない「IOC財務委員会」である。IOC理事会を事実上支配しているのは、オリンピック最大の収入源であるテレビ放映権を差配するIOC財務委員会であり、IOC財務委員会委員長を永らく勤め上げたジャン・ド・ボーモン伯爵(Count Jean de Beaumont)を、原著者の限界(いかにも目立つサマランチの腐敗とは対照的に、原著者が触れないヨーロッパ世襲貴族の蓄財の術)を示す好例として縷々説明している。

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1 コメント

原田俊明

投稿日 2016/3/2

有用なレビューであると思うが、そもそも監訳者広瀬氏の認識に誤りがあるので、ここで正しておきたい。

>(前略)Lord(卿)とは、いわゆる公侯伯子男の中で、最下位の男爵を呼ぶときにだけ用いられる称号であり、商売などで大成功を収めた新参者に与えられる爵位にすぎないため、原著者が身を置くヨーロッパ上流社会では、成り上がりという意味で、軽蔑の表象でもあるのだと(広瀬氏は)指摘した(後略)

否、正しくは、英国二等級貴族の侯爵(Marquess)、三等級貴族の伯爵(Earl)、四等級貴族の子爵(Viscount)、五等級貴族の男爵(Baron)にはLord(卿)が付く。「最下位の男爵を呼ぶときにだけ用いられる称号」という認識は事実誤認である。確かにヴィクトリア時代(1837-1901年)以降に男爵(Baron)に叙された者に成り上がり者が多いのは事実だが、私の知り合いには十四世紀初頭にイングランド王エドワード一世の軍勢に抗して戦ったスコットランド貴族の直系で、現在も男爵(Baron)を名乗っている人がいる。ちなみに最上級の公爵(Duke)及びその爵位を継ぐ予定の長男だけはLord(卿)が付かない。話が少々ややこしくなるが、公爵の爵位を継ぐ予定のない公爵家の次男及びそれ以下の男子(三男・四男等)にはLord(卿)が付く。二等級貴族の侯爵(Marquess)家も同様である。対してそれより下に位置する三等級貴族の伯爵(Earl)、四等級貴族の子爵(Viscount)、五等級貴族の男爵(Baron)の家では、当主存命中息子たちにLord(卿)が付くことはなく、当主が死んだ時点で自動的に家督を継いだ長男にのみLord(卿)が付くようになる。なお、Lord(卿)は貴族男子に限る称号(title)であるため、貴族女子についてここでは言及しない。