前期05「イギリス文化論」(2021/ 4/22) 英マスコミによるエイプリルフール悪ふざけ(April Fools’ Day hoax)の数々

イギリスでは毎年4月1日に多くの新聞やテレビやラジオがわざと嘘(うそ)の情報を流すが、その種の悪ふざけを英語で hoax (ホウクス)と呼ぶ。

比較的記憶に新しいところでは、2008年4月1日(火)に英国放送協会(BBC: British Broadcasting Corporation)が放映した「空飛ぶペンギンのコロニー」( https://www.youtube.com/watch?v=9dfWzp7rYR4 )がある。喜劇集団モンティ・パイソン(Monty Python)の一員テリー・ジョーンズ(Terry Jones, b.1942)がプレゼンターを務め、コンピュータグラフィックス(CG: computer graphics)を駆使して制作した「空飛ぶペンギン」の大集団を恰(あたか)も生物学上の大発見であるかのように紹介する。しかもプレゼンター は、「ペンギンたちは南極の厳しい冬を避けて南米の熱帯雨林まで飛んで行って日光浴します。」と、ぶっ飛んだ説明までする。さすがに騙された視聴者は少なかっただろう。

BBCの海外向けラジオ(BBC World Service)が1980年4月1日(火)に流した「英国会議事堂(Houses of Parliament)の有名なランドマークであるビッグ・ベン(Big Ben)のアナログ時計台を、世界的に流行中のデジタル時計に取り換える」という嘘のニュースには世界中の人がまんまと騙され、「デジタル化は許せん!」と する抗議の声が殺到した。「先着4名様限定で時計針を無料進呈」とまで言い切ったが、騙されてBBCに一番乗りで連絡してきたのが、大西洋を航行中の日本人船員だったとのこと( http://hoaxes.org/af_database/permalink/big_ben_goes_digital )。

1976年4月1日(木)には、著名なアマチュア天文学者であるパトリック・ムーア(Sir Patrick Moore, 1923-2012)がBBCラジオ第二放送(BBC Radio 2)で、「本日午前9時47分きっかりに冥王星(Pluto)が木星(Jupiter)の裏を通ることで地球の重力が減少するので、飛び跳ねると奇妙な浮遊感(strange floating sensation)を味わうことができる。」と放送したところ、BBCに数百件の電話がかかってきて、その大半が「確かにその通りだった」という内容だった。或()る女性などは、「部屋で自分と友人たちが宙に浮いてぐるぐる回った。」とも証言した( https://metro.co.uk/2015/04/01/april-fools-day-2015-the-bestworst-april-fools-pranks-ever-played-5119958/ )。本気なのか、電話の内容自体がエイプリルフールなのか定かではない。

今や伝説的な悪ふざけであり、米国のCNNも最高傑作と認める悪ふざけと言えば、1957年4月1日(月)放映のBBCパノラーマ(Panorama)である。スイス南部のイタリア語圏ティチーノ(Ticino)地方でスパゲッティの栽培・収穫が行なわれている映像( https://www.youtube.com/watch?v=tVo_wkxH9dU )を流した。1950年代のイギリスではまだスパゲッティという異国の食べ物が非常に物珍しい存在であり、海外で野菜として栽培されている映像を多くの人が信じてしまった( https://ja.wikipedia.org/wiki/スパゲッティの木 )。その五十七年後の2014年4月1日(火)に当時のことを振り返るBBCの番組が放映された( https://www.youtube.com/watch?v=MEqp0x6ajGE )。

1957年のナレーションの全文を訳すと以下のようになる。

「今年の春の訪れが皆を驚かせたのは、なにも英国だけではありませんでした。ここスイスでイタリアと国境を接するティチーノ(Ticino)地方では、ルガーノ湖(Lake Lugano)を望む斜面に花々が既に開花しています。少なくとも例年より二週間(a fortnight)は早い開花でした。蜜蜂(ミツバチ)や花々が喜ばしくも早々とやって来てくれたことと、食べ物との間に何の関連性があるのかと皆さんは訝(いぶか)しく思われるかも知れません。今回越した冬は現地で存命中の人々が覚えている限りでは有数の温暖な冬だったのですが、その他の面でも影響を及ぼしました。中でもとりわけ重要なのが、スパゲッティ作物の過去に例を見ないほどの大豊作です。三月の最後の二週間(The last two weeks of March)は、スパゲッティ農家にとってヤキモキする時期です。季節外れの霜に覆われる可能性も残されていて、それは作物そのものを絶やしてしまう程ではないにしても、全体的な味を劣化させ、世界市場にて最高値で取引されることを難しくしてしまいます。しかしこうした危険は去りました。そして今やスパゲッティの収穫が進められています。ここスイスに於けるスパゲッティ栽培の規模はもちろんイタリアの巨大スパゲッティ産業とは比較の対象になりません。皆さんの多くは(イタリアの)ポー川流域地帯(Po Valley)の広大なスパゲッティ農園を写真でご覧になったことがあるでしょう。しかしスイスではどちらかと言えば家族経営の産業です。今年(=1957年)がひょっとすると大豊作の年になりえるのは、スパゲッティ象虫(ゾウムシ)が殆(ほとん)ど消えてくれたからという理由があります。その小さな害虫は嘗(かつ)ては農家の心配の種でした。手で摘んだ後、これらのスパゲッティは広げられ、温暖なアルプスの日光で乾燥します。多くの人はスパゲッティがあのように均一化された長さで生産されていることに当惑します。しかしこれは植物の品種改良家たちが長年に亘(わた)ってコツコツと努力してきた結果なのです。彼ら(=品種改良家たち)は完璧なスパゲッティを作ることに成功しました。さて、(スパゲッティの)収穫は伝統的な食事で際立ったものとなります。収穫されたばかりの作物への乾杯が宣言され、これら「ポカリーノ」という器(うつわ)で飲みます。そして給仕人たちが儀式用の料理を抱(かか)えてやって来ます。それはもちろんスパゲッティです。その日の早くに収穫し、日光で乾燥したので、庭園から食卓へと最高の状態で運ばれてきました。この料理(=スパゲッティ)が大好きな人にとって、真の家庭栽培スパゲッティに勝(まさ)る物はありません。」(原田俊明訳)

地方の民放も負けていない。英国放送史上最高傑作の悪ふざけと多くの人が認めるのは、イングランド東部のアングリア・テレビ(Anglia TV)が1977年6月20日(月)に放映した『第三の選択』(Alternative 3)というドキュメンタリー番組風ドラマ(documentary ならぬ mocumentary)である( https://ja.wikipedia.org/wiki/第三の選択 )。人口急増と気候変動により将来的に地球に人類が住めなくなる問題を解決するため、科学者たちが3つの選択肢を考え、その可能性を探る。成層圏で核爆弾を爆発させて汚染を宇宙へと逃がす第一の選択(Alternative 1)は却下され、地下都市を築いて人類をそこに住まわせるという第二の選択(Alternative 2)も却下され、結局は選ばれた一部の人間だけを月(the moon)経由で最終的に火星(Mars)へ移住させるという第三の選択(Alternative 3)が採択され、米ソ両国政府によって秘密裡(ひみつり)に実行に移されつつあるという内容だった。演技派の俳優たちを巧みに使った、あまりにも良く出来た番組で、しかも本来は1977年4月1日(金)にエイプリルフール番組として放映しようと計画しながら諸般の事情で同年(1977年)6月20日(月)に放送延期されてしまったことから、多くの人が番組の内容を本気で信じてしまい、今でも物騒な陰謀論(conspiracy theory)を唱えている人は多い。かつてはユーチューブ(YouTube)に日本語吹替版があったが、版権の問題で削除され、今ではオランダ語字幕付の原語=英語版( https://www.youtube.com/watch?v=WE4e-Fp1UZE )のみ視聴できる、、、と書いたが、2020年11月に日本語吹替版がユーチューブに再登場した( https://www.youtube.com/watch?v=48-CtEuMeRA )。

新聞では左派系のガーディアン紙(The Guardian)が1977年4月1日(金)にインド洋の架空の島国、「サンセリフェ島(San Serriffe Island)」、通称「セミコロン島(Semi-colon Island)」を7ページにも及ぶ偽特集記事で紹介し( http://hoaxes.org/archive/permalink/san_serriffe )、次の休暇旅行先にしようかと検討した読者からの問い合わせが殺到した話が有名である( https://www.theguardian.com/gnmeducationcentre/archive-educational-resource-april-2012 )。

【比較対象】

虚構新聞

https://kyoko-np.net/

https://ja.wikipedia.org/wiki/虚構新聞

「虚構新聞」が16年間ウソのニュースを発信し続ける理由

なんと掲載記事はすべて創作 悪意あるフェイクニュースが巷に溢れる中、 くすっと笑える自作記事を16 年間執筆

講談社 Friday (フライデー)デジタル

2020年11月19日(金)

https://friday.kodansha.co.jp/article/144902

https://news.yahoo.co.jp/articles/e8947728f058f219b384b16c32fcb800e20deba8 (リンク切れ)