ゼオラさんはベッドに腰掛けられると、まだ痛そうに後頭部をさすられました。
「本体、しっかりして下さい! リテのこと忘れてしまったのですか」
「何だお前かあ」
分身さんのことはご存知のご様子で、うるさそうに眉をひそめられます。
「今いくつかわかりますか」
「いくつって……二十歳くらいだろ?」
ゼオラさんのお心は少し若返ってしまわれたようです。私は涙がこぼれて。自分がこれまでどれほど多くの悲しみをお二人に与えてきてしまったのかを、やっと少し実感しました。
「そんなわけないでしょう。もう二十四ですよ」
「そんなわけねえだろ。だってこんな可愛い子が……」
ゼオラさんはそう仰って私の方を振り向かれると
「……泣いてんの?」
驚いて私の涙を拭って下さいました。
「ごめんごめん、泣かないで。俺何かしちゃっ……」
ゼオラさんはとても慌てられたご様子でしたが、ふと動きを止められると
「リテ!!」
突然大きなお声を出されて、私をギュッと抱きしめて下さいました。
「思い出した! ごめん、大事な記憶ぶっ飛んでた」
「頭でも打ったんですか?」
分身さんは幾分ほっとなさったご様子でお尋ねになります。
「昨日あいつとやりあったんだよ。挨拶代わりにさ」
「あいつって、バルト・アルマンですか」
「うん。てかお前見てねえの?」
「何かしているなとは思っていましたが、先に寝ました。私はリテしか見てませんから。本体の行動には一切興味ありません」
「お前さあ」
ゼオラさんは呆れたご様子で分身さんを御覧になりましたが、み腕の中の私を撫でて下さるとお話を続けられました。
「一度デカい津波みたいなの食らって頭打ったんだよ。そんときは夢中で反撃して気にならなかったんだけど」
「どっちが勝ったんですか」
「海上だからあいつに花持たせてやったさ。帰ったら確かに頭痛かったんだけど、疲れたからシャワー浴びてそのまま寝ちゃって」
「治療されなくて平気ですか」
「じゃ、お願いしようかな」
私が不安そうに尋ねますと、ゼオラさんはニヤリと笑って下さいました。私の腰の下辺りにすっと御手をおかれて。
「リテは俺の頭を両手で包むみたいにして」
私はゼオラさんに抱っこして頂きながら後頭部をそっと抱き寄せさせて頂きます。どうか治りますように……。私は目を閉じて強く願いました。
「やば。幸せ……」
ゼオラさんは私の胸に頬を擦り寄せて下さいながら微笑んでそう仰って。私たちはしばらく、一つに繋がった感覚に満たされていました。
◇◇◇
「リテを泣かせるようなことは控えて下さい」
「ごめんごめん」
ゼオラさんは後頭部の痛みもだいぶ引かれたのか、お元気そうに笑っておられたので私はひとまずホッと致しました。
「リテもごめんね」
「いえ」
私にも謝って下さるので、私はゆっくりかぶりを振って。また目に涙がにじみます。
「私の力はもう、弱ったかもしれません……」
私は震える声でお伝えして。怖くて仕方ありませんでした。
「記憶が三日以上もっているような気がします」
「うそ? 今何日目?」
「わからなくて……」
以前のように綺麗さっぱり忘れてしまう感じではありませんでした。お二人に慣れたので、怖く感じることが減ったせいかもしれませんが……。忘れたときの感覚が、今までと違う気がします。
「私には、もう何の取り柄も……」
私は捨てられてしまうのが怖くて。少し前から気づいていたのに、今まで言わなかった自分を恥じました。
「そんなの気にすること無いよ。俺さっきので治ったと思うよ? いい匂いもしてるし」
「ええ。長く記憶できるようになったのは良いことですよ」
お二人はそう仰ると、私を真ん中に挟んで座って下さいます。
「リテ、食欲もあまりないのではないですか」
「はい……」
私は温かい食べ物の匂いが苦手で。野菜や果物だけを口にすることが多くなっていました。
「もしかして、妊娠したんじゃないか」
ゼオラさんが不意にそう仰って。
「すぐ診察を受けましょう」
分身さんも急いでそう仰います。私は怖くて。静かにうなずきました。ゼオラさんは懇意のお医者様がおられるとのことで、すぐに連絡なさると私の身支度を待って、一瞬で連れて行って下さいました。