少年が去ってしまうと木立にはまた涼しい風が吹いて。辺りは静かな湖畔に戻ったようでした。不思議な夢から覚めたような気持ちで私がぼんやり立ち尽くしていると、ヒューは私に歩み寄り、頭から抱きしめて長いキスをくれました。
「あいつ今は子供でも、五年もしたら立派な大人になるよ」
ヒューはキスの合間に、ため息をつくように言います。
「僕はあいつが今にも姉さまにキスするんじゃないかと思って、嫌だった」
ヒューはキスも上手で、私は体の芯から力を抜かれていくような気がしました。
「姉さまは無防備過ぎるよ。浮気、しないで」
私を支えて木陰に座らせてくれると、ヒューは私の首や胸元に跡が残るほど強いキスをしました。力が強くて、怒っているのがわかります。
「ごめん、なさい……」
私はやっとの思いでそれだけつぶやくと、
「もう、日が暮れちゃうよ」
夕暮れの残光を頬に受けながら、少し焦って言いました。この辺りは夜真っ暗になって、獣も出てきてしまいます。秋の日は短いし……。
ヒューは名残惜しそうでしたが、私を立ち上がらせると、手を繋いで別荘まで帰ってくれました。静かに乾杯してディナーは頂いたのですが、楽団の生演奏はキャンセルしてしまって。お互い言葉少なに、今日のことを思い出します。
「もう、寝ようか」
今夜のヒューはだいぶ疲れているように私には見えました。
「少し飲もう」
ベッドに座り澄んだグラスに赤ワインを注ぐと、私に勧めてくれます。私は少し口を付けましたが、飲み切れずにしばらく持っていました。ヒューは私の手からグラスを取ると、残りを一息に飲み干してくれました。
「僕、姉さまのことオモチャにしてた?」
ベッドに入り、私の胸に顔をうずめながら、ヒューは静かにききました。
「そんなこと、ないよ……」
私も静かに答えます。
「姉さまはオモチャじゃないよ」
ヒューは私に強く抱きつくと、確かめるように言いました。
「オモチャをこんなに好きになるわけ、ない……」
私の胸に熱い涙がこぼれて。ヒューが泣くのを見るのは初めての気がして、私は何と言ったらいいかわからず、胸が痛く、苦しくなりました。
「愛してるよ、ヒュー」
私がヒューの髪を撫でると、ヒューもキスをしてくれて。私たちは抱き合いながら、長い夜を静かに慰めあいました。