その年の暮れ、朱雀院で三宮の裳着を行った。生前母が住んでいた東北の対の西面に場所を設える。光《ひかる》が準備を手伝ってくれたおかげでかなり立派な式になった。腰結は太政大臣さんに頼んだが、柏木くんが三宮と交際していることを知ってくれているのか快く引き受けてくれた。
左右の大臣、納言たちまでが忙しい年末の予定をやりくりして来てくれたのはありがたかった。春宮や冷泉さんからもたくさん御祝いが届く。六條院からも使者が何度も訪問し、禄や引き出物をくれた。
「わあ、懐かしい……」
中宮さまは昔斎宮として伊勢へ下られる際俺が贈った御櫛の箱を、原形を留めつつより雅に作り改めて三宮へ贈って下さった。俺が帝だった時代だから十五年以上前の物だけれど、全然古く見えない。物持ちいいなあ。今まで大切に持っていて下さったことも俺には嬉しかった。
「本日はお集まり頂きありがとうございました」
俺は皆へ丁寧に礼をして。こんな大きな行事をするのもこれが最後かなと思っていた。三宮は緊張していたが、どこか晴れやかでほっとした顔にも見えて。今十三歳かな。女の子はしっかりしているなと思った。
◇◇◇
裳着の片付けと同時に新年を迎える準備をして、年が明けた。光四十歳、冷泉さんは二十二歳になられる。光がいよいよ四十ということは、今年はいろんな宴が目白押しなんだろうな。夕霧くんは十九歳か。雲居雁さんと結婚して、鋭い視線は変わらないけれど物腰がとても落ち着いたように見えた。
「朱雀さん! あけましておめでとうございます」
新年早々挨拶に来てくれたのは柏木くんだった。
「雁に子どもがうまれました!」
ニコニコの笑顔で教えてくれる。
「おめでとう! 良かったね」
俺も嬉しくてついニコニコした。夕霧くんもついにお父さんかあ。葵さんが祖母になったなんて信じられない。
「雁さんは元気?」
「はい。ピンピンしてます」
「よかった。産養お贈りするね」
お母さんがお元気なのが何よりだなと思った。夕霧くんも大変だろうな。今頃赤ちゃんを抱っこして一生懸命あやしているだろうか。
「今日は六條院から文を預かってきました」
柏木くんはそう言って、光から預かった文を俺に渡してくれた。
「ありがとう。ごめんね、柏木くんを使いにして」
「いえ」
光からの文はやっぱりいい匂いのする紙に優美な字で書いてあった。昔からだけれど、光は事務的な連絡に関しても徹底しておしゃれだから感心する。
「一月二十三日に、玉ちゃんが極秘で俺のために若菜の宴を開いてくれます。兄貴も暇なら来てもいいよ。」
極秘の宴の開催を知っているのも面白いなと思って俺は苦笑した。
「若菜の宴かあ。風流だけど、光の邸なら大臣たちもいっぱいくるよね」
「そうですね」
「でも夕霧くんに会えるなら行こうかな……」
光の邸は広いので、奥の方にこっそりいればバレないかなと思いつつ俺はつぶやいた。光が院と同等に扱われているので俺も気が楽だし。
「朱雀さん、あの」
柏木くんは俺の前に座って少し言いづらそうにしていたが、やがて意を決したように口を開いた。
「三宮様から降嫁のお許しを頂けた、と思います」
「そっか……ありがとう」
俺は柏木くんを見つめると感謝して頭を下げた。
「ごめんね、時間をかけさせて」
「いえ、こちらこそありがとうございました」
柏木くんは照れたように笑うと、少し恥ずかしそうに顔を伏せる。
「降嫁の日取りはいつにしようか」
「俺ならいつでも……。院にもご相談頂けますか」
「うん、わかった」
降嫁の日にも予言があるのかな。今年は良いことが続くなと思いながら俺はうなずいた。
「お酒でも飲んでいく?」
「いえ、あの……」
柏木くんが言いよどんでいるので、今日は三宮と会うために来たんだなと鈍い俺はやっと気づいた。
「ごめん、邪魔したね。文をありがとう」
「はい」
俺が感謝すると、柏木くんは少し急いで去っていった。三宮の対へ行くのかな。
「素敵なお誘いをありがとう。目立たない所があれば置いて下さい。夕霧くんにお子さんが生まれたそうでおめでとうございます。あと三宮が柏木くんと結婚できそうなので、日取りの相談をしてもいいかな。」
俺は光への返信を書いて使いの人に持っていってもらった。夕霧くんにお子さんということは、光も祖父になったんだな。なんだか信じられない。でもとても嬉しかった。