「おめでとう、ヒュー、サラ!」
陛下は私たちの結婚を大変喜んで下さいました。
「盛大な祝賀の宴を開きたいところだけど。二人きりの時間を邪魔しないほうがいいよね!」
私たちの噂が町にまで広まっていることを考慮して、陛下がお気遣い下さいます。
「大叔父様の所領でヒューのお父上が継がれなかった分があるから、ヒューに返しておくね!」
陛下は非常にあっさりしたご様子で、ヒューに新たな爵位と領地を与えて下さいました。
「あと、二人の結婚を祝福する王令を国じゅうに出しておくよ。サラももちろん、何の罪にも問われないからね!」
陛下は寛大な措置で私をお許し下さると、この夜は来客として私たちをお城に泊めて下さいました。
◇◇◇
「まだ夢みたい……」
二人してベッドに腰掛けながら、私は以前ヒューに買ってもらった右手の指輪を眺めて不思議な気持ちでつぶやきました。その指輪をスッと抜いて、ヒューが私の左手の薬指にはめ直してくれます。
「僕はこうなると思ってたよ」
嬉しそうにフフフと笑うので、私は深いため息をつきました。慧眼、と言えばいいのでしょうか。この人は本当に、何という人でしょう。
「陛下は過去の罪で人を裁くようなことはなさらない方だよ。大叔父様だから、謹慎くらいはあるかもと思ったけど。どんな罰が下ろうと、僕は姉さまと共に受けようと思ってた。僕は姉さまと一緒にいられたらどこでもいいんだから」
私は有難いような恐れ多いような気がしてしまって、ただヒューを見つめました。
「僕の願いは最初から姉さまを自分のものにすること、それだけだったんだ。姉さまにどんな男がいても必ず奪い取るつもりだった。まあ、どんな男もいなかったようだけど」
「なんか、ごめんなさい……」
「いいんだよ。僕が最初の男である方がよっぽど嬉しいわけだし」
ヒューは私の微妙な顔がよほど可笑しかったのか、私を抱き寄せて頬を指でつつきました。
「父は僕に長い手紙を残して、昔のこと、忘れたわけじゃないんだけど。僕四歳からこの家にいるでしょ? 姉さまは可愛くて優しくて頼りなくて、僕は一目見て好きになった。もっと嫌な人なら恨みもしたんだろうけど……。何も知らない姉さまの優しさは、償いとかそういう悲しいものじゃなく、いつも本心からの真心で、僕は本当に癒された。憎むなんてムリだったよ」
私の涙があふれてくると、ヒューはいつも指で拭ってくれました。
「この気持ちが愛か復讐か、未だにわからないんだけど。物心ついた頃から、僕は姉さまが欲しくて仕方なかったんだ。姉さまは無防備だし、チャンスなんていくらでもあったけど。僕の気持ちに気づかない姉さまに腹も立ったし、ちょっと意地悪したくなったのさ。姉さまは困った顔も可愛いし、体もいいし、もっと前から彼女にしとけばよかったってイライラした」
「そう……」
私は何と言ったらいいかわからず、恥ずかしくなって下を向いてしまいました。ヒューが喜んでくれてるなら嬉しい、かな。
「僕は噂なんてどうでもよかったんだ。誰に何を言われようと姉さまは僕だけのもので、絶対誰にも渡さないつもりだったから。まあ陛下が王令を出して容認してくれたから、悪い噂も下火になるかもしれないね」
「ヒューって、強いんだね」
私は尊敬の気持ちを込めて言いました。
「違う違う、こういうのは執・念・深・い・って言うんだよ」
ヒューはヒラヒラ手を振ると、機嫌よく笑ってくれます。
ヒューがいなかったら今頃どうなっていたかしらと私は考えこんでしまいました。国を追われ、町の人達に笑われて、見世物になって……。もっと危険な目にも遭っていたかもしれません。私はヒューにいくら感謝してもしきれないと思いました。
「ありがとう、ヒュー。私を助けてくれて」
「お安い御用だよ」
ヒューは私の鼻と自分の鼻を軽く触れ合わせながら、何度もキスをしてくれました。
「僕が好き? 姉さま」
「うん、好き」
私はヒューに抱きついて目を閉じると、小さく尋ねました。
「私、どうしたらいいかな……? やっぱり何かお詫びと、お返しがしたいの」
このまま自分だけ幸せになるのはどうしても申し訳ない気がして。父祖の罪ではありますが、その罪がなければ私は生まれなかったでしょうから……。
「姉さまは本当にいい子だね」
ヒューは長い腕を巻きつかせるようにして強く私を抱きしめると、耳元で熱く囁きました。
「何をしたらいいかは、僕が教えてあげる」
そうして私をベッドに沈めて長い長いキスをくれます。私はだんだん気が遠くなってしまって。
「一生愛し合おうね」
揺らめく灯りを背に、全て思惑通りといった顔でヒューはにっこり笑いました。私は静かに目を閉じて。ヒューの幸せと恩返しということだけをただ願っていました。