ある晴れた朝のことだった。私はルースさまと朝食を済ませると広いお庭に出て、やっぱり馬たちを撫でていると、
「サーシャ、おはよう!」
元気よく後ろから声をかけられた。このお声は……。私が振り向くと国王陛下が、ニコッと笑って立っておられる。
「サーシャ、綺麗になりましたね! 叔父上は本当にサーシャのことが好きなんだろうね。愛し合う二人か、いいなあ……」
「はい……おはようございます」
私は唐突に言われたのでびっくりしたけれど、何とかお辞儀して陛下にご挨拶申し上げた。
「叔父上はおられますか?」
「ルースさまでしたら、おそらくお部屋に」
「ありがとう!」
陛下は私に手を振られるとタタタッと行ってしまわれた。本当に明るくて爽やかな方だなあ。私は駆けていく陛下の後ろ姿を見送りながら、耳まで真っ赤になるのがわかった。
今日はルースさまの休日で、つまりその、私たちは昨夜も愛し合っていたので……。私は自分の髪や服がおかしくないか急いで確認してしまった。こういうことって一目でバレてしまうものかな?? 陛下にお褒め頂けたのは嬉しいけれど。綺麗になったというのはお世辞だよね、きっと……。
私はかなり恥ずかしかったけれど、陛下がいらっしゃったのに馬たちと戯れているわけにもいかないと思ってお邸に戻った。玄関に入りかけるとちょうど陛下がお帰りになるところで、私はルースさまと一緒に礼をしてお見送りした。
「すみません、遅れてしまって」
「いえ、陛下もお急ぎだったようですから」
ルースさまはいつもの優しい笑顔で私をお許し下さった。
「陛下が私たちを船旅へ連れて行って下さるそうなのですが、サーシャも行きますか?」
「船旅ですか?」
「ええ。王家の避暑地のようになっている離島があって、夏はよくバカンスを楽しんでいるのです。何もない島ですから、のんびりするだけですが」
「いいですね!」
私は水辺が好きなので二つ返事で同意した。ルースさまは私の即決に安心したご様子で微笑まれると、
「良かった。では行くという返事を出しておきますね」
私ににこっと笑って下さった。夏のバカンスかあ、王家は凄いなあ。私も小さな島出身だから、毎日バカンスのようにのんびり暮らしていたのだけれど。
◇◇◇
お仕事の日はお手伝いに行って、お休みの日は乗馬やピアノを教えてもらって、私はいつもルースさまと一緒に居られて幸せだった。新鮮味がなくなって、恋人としては良くなかったのかもしれないけれど……。
その日も聖堂を掃除したりお花を飾ったりして、私はルースさまのお仕事を少しお手伝いした。それから一緒にお祈りして、ルースさまのオルガンに合わせて歌って。明後日はお休みだなあ。やっぱりお休みの前の日が一番嬉しい。
「このような生活は退屈ではありませんか?」
この日のお仕事帰り、馬車の中でルースさまは静かに問われた。
「いいえ。ルースさまのオルガンが聴けるし、一緒にいられるので嬉しいです!」
私は張り切って答えた。ルースさま、ちょっと元気ないかな……?
「サーシャはいい子ですね」
ルースさまは私を優しく見つめられると、また頭をナデナデして下さった。
「ルースさまは退屈なのですか?」
「いいえ。私もこの静かな生活が気に入っているのですが、あまりにも地味なので、若いご令嬢は嫌がるかと思いまして」
「私はちっともご令嬢じゃないですよ。地元では船を出して魚を捕ったりして遊んでました」
「船が操れるのですか!」
ルースさまは少し感動したご様子で私を見つめられた。私は照れてしまって、
「小さな帆船ですけど」
恥ずかしそうに付け加える。たぶんルースさまのイメージする船じゃないと思うなあ。
「凄いですね! 今度乗せて下さい」
「はい、喜んで」
今度バカンスで行く島にも船があれば乗せられるかもなあなんて思いながら私は笑った。ルースさまも笑って下さって。ルースさま、船がお好きなのかな? 私も海が好きなので嬉しいな。ルースさまが喜んで下さることなら何でもしたいなと思いながら、私は船旅の日を楽しみに待った。