翌朝目を覚ますと、奥のソファでルースタッド殿下がスヤスヤ眠っておられて。私はこの立派なベッドはたぶん殿下のもので、昨夜は殿下のベッドを占領してしまったんだと気づいた。どうしよう、悪いことをしちゃった……。薄い毛布があったので、今更だけどそっとお掛けする。
どうしてこんなに優しくして下さるんだろう? 私は不思議で仕方なかった。叱られるのはわかるけれど。私はソファの端に座って、しばらくじっとこの優しい人の寝顔を見つめていた。スヤスヤ心地よさそうで、素敵な寝顔だと思った。
「……サーシャ様?」
ソファにもたれて二度寝してしまって、昨日の薬はまだ効いているのかもしれない。私は寝顔を見ていたはずのルースタッド殿下に起こされて目が覚めた。殿下はいつも心配そうに私に触れて下さる。
「お加減は?」
「大丈夫です。本当にお世話になりました」
私はペコリと頭を下げながら、酷い格好だなと思った。ドレスのまま寝てしまった……。どうやって着替えて帰ればいいだろう。
「朝食を召し上がっていかれませんか。昨日からお酒だけですから」
「はい……でも着替えが」
「すぐ用意させましょう」
殿下は素早くドアまで歩くと、執事にいろいろ注文を出した。やはりご自分のお部屋なのか、家具の位置なども全て把握なさっていて、ぶつかったりしない。広いお部屋なせいもあるだろうけれど。
部屋にはすぐメイドたちがやってきて、昨日私が着ていたものより軽くて美しい絹のドレスを着せてくれた。考えてみれば、昨夜は殿下のお部屋で二人きりで夜を明かしてしまったんだと思うと、私はこのメイドたちにも恥ずかしいような申し訳ないような気持ちになって、よく顔も見られなかった。
「ごめんなさい、私、泊めて頂いてしまって」
「いいんですよ。私がそうお願いしたのですから」
殿下は昨夜の厳しい調子ではなく、いつもの優しい感じに戻ってそう仰った。やがて軽い朝食が運ばれてきて。温かいお茶を頂くとホッとする。
「よく眠れましたか?」
「はい、おかげさまで。夢も見ないでぐっすりでした」
「それは良かった」
殿下はにこっと笑って下さると、高そうなカップでお茶を飲まれた。食べる姿もお綺麗で。手が届く範囲のものは正確に捉えられるみたい。私はあまり食欲もなかったのでスープだけ頂きながら、ルースタッド殿下がお食べになるところを見ていた。
「この朝食は、お気に召さなかったですか?」
「いえ。美味しくて、お腹いっぱいです」
殿下を見ているだけで幸せになれる気がして。でもあまりじっと見つめ過ぎたかなと反省して、私は少し下を向いた。