聞き捨てならないと思って、俺は思わず椅子から身を乗り出した。年下にモテるのか? 年下キラーなのか?
「ねーちゃんって不思議な感じだけど、話しかけると優しいし、勉強教えてくれるし。俺の友達よく家に来てました」
「そいつ、今でもハルカと連絡取ってたりする?」
俺は急いで脳内にハルカのスマホの連絡先を表示した。男っぽい名前は、この弟と父親以外なかった気がするが。偽名で登録してるのかもしれない。
「まさか。俺らが小学生の時の話っすから」
弟は屈託なく笑うと、カバンを持って席を立った。
「すいません、俺これから中学時代の友達と遊ぶ約束があって」
「そうか、忙しいのにごめんね。いろいろ聞かせてくれてありがとう」
「ID交換してもいいっすか?」
「ああ」
弟君から言ってくれたので気が楽になって、俺も自分のスマホを取り出した。
「ねーちゃんに彼氏ができたってきいたら、親父もお袋も喜ぶだろうな~」
あざーす! と言って軽く頭を下げながら、ハルカの弟は機嫌よく去っていった。
なんだろう、この感じ……まあ、明るそうな弟で良かったと思った。俺の味方になってくれそうだし。親が喜ぶって、ハルカはそれほど片付かない問題児なんだろうか? 今まで俺が知るところ、浪費癖も借金癖もないようだった。浮気癖もない。後はなんだろう、精神疾患持ちとか……? 確かにあの男嫌いは、精神的なものかもしれない。俺、汚くも臭くもないよな? 乱暴でもないつもりだし……。
とにかく、ハルカの弟に会ったおかげで今後のハルカへの対応が決められそうに思った。俺はやっぱり、ハルカと寝たい。でも無理強いは嫌だ。ハルカにその気になってもらえるよう、仕向けるしかない。カップルカウンセリングに行ってもいいと思った。俺はハルカと寝たい。もう我慢できない。今すぐ同棲したい。そのことをもっと真剣に伝えてみよう。俺はいろんな段取りを考えながら帰りの急行に乗った。