ルースさまとの夜はとても気持ちがよくて、私はやっと一つになれたんだとホッとする気がした。ルースさまはやっぱりとてもお優しくて、どんな些細なことも耳元で囁くように確認して下さる。それが色っぽく、ノーなんて言えるわけなくて、私はすっかりメロメロになってしまった。夜のルースさまは言動はお優しいのに眼光だけは冴えて尖っておられるようで、それも私には魅力的だった。よく見ようとして目を細めるからかな?
「精一杯、努力しますね」
ルースさまはいついかなる時も真面目で真剣だった。
「だからどうされるといいか、教えて下さい」
私にそう言って下さるのだけれど、私は細かいことを説明できるほどの余裕は全然なくて。
「えっと、じゃあ、一緒に楽しみましょう? 私たちの、ペースで……」
やっとそれだけ言うとルースさまに抱きついた。私だけを愛して下さるという約束はありがたいのだけれど、責任重大だよなあ。生真面目なルースさまは、私との夜にどんなに不満があってもご自身で立てられた誓いを守られきっと浮気なさらないのだろうと思うと何か申し訳なくて、私が一生懸命頑張って満足させて差し上げないと、と妙な使命感がわいてくる。でも頑張るってどうすればいいんだろう? 全然わからないんだけれど……。
「どう、したらいいですか? 私にも教えて下さい」
私はルースさまの御手にキスしながら言った。私はこの宿で生まれて初めて、昼も夜もないような自堕落な日々を過ごした。
◇◇◇
帰るのが惜しいようだけれど、それでも日常に戻らないといけなくて、私たちは帰路についた。帰りの馬車の中でも私たちは無言で。互いに身を寄せ合い、ホッとため息をつく。満足しているようでまだ足りないような、微熱を帯びた不思議な感覚だった。お邸に戻った後もその感覚は続いていて。ルースさまは休日の前夜になると私の部屋へ来て下さるようになった。
「ルースさま、怒ってますか?」
私はある夜、ずっと気になっていたことをおずおず尋ねた。
「怒ってますよ」
ルースさまはあの尖った瞳で、私をまっすぐ見てお答えになる。
「私を忘れないでってどういう意味ですか? どこかに行ってしまうのですか?」
私は答えに窮してただルースさまを見つめていた。
「どこにも行かないで。長生きして下さい」
「はい……ごめんなさい」
ルースさまは私の返答をきくと、少し笑って私を愛して下さる。
私たちは私の部屋で二人の時間を楽しむようになった。ルースさまは用事があってお部屋をノックされることも多いけれど、私に用がある人はいないので。ルースさまは優しい笑顔はもちろん、飾らない姿も見せて下さるようになって私は嬉しかった。
「会うたびにあなたのことが好きになります、サーシャ。もっとよく顔を見せて」
そう言われると恥ずかしくてつい目をつぶってしまうけれど。ルースさまは何度もキスをして下さるので、私も嬉しくてたくさんお返しをした。お互いすればするほどもっと欲しくなって、時間を忘れて求めあって、こんな幸せがこの世にあるのかと私は思った。こんな、尽きない泉のように湧き上がる幸せが。
「ルースさま、大好き……」
私は周囲がどう思うかなんてことはもう完全に忘れてしまって、ただこの方を愛した。私自身知らなかった面まで引き出される気がして、私はルースさまに深く溺れていた。