家に着いて灯りをつけて。俺たちは何もしゃべらなかった。ただ、靴を脱いで上がっていいのか困るらしく、
「お邪魔します……」
ハルカは遠慮がちにつぶやくと、俺の背を見ながら玄関で突っ立っている。
俺は荷物を放ってソファに座りこむと、しばらく黙っていた。連れて、来てしまった。よく考えたら俺もこいつのこと何も知らねえわ。一人暮らしの男の部屋に何の疑いもなくすんなりついてくる女、普通に考えてヤバいのでは? と今更ながら思った。何も知らない危なっかしい女なのではなく、実はすごいやり手の美人局か何かじゃないか? つか俺、こいつに惚れてんのか? 少なくとも他の男には抱かせたくないと思った。特にあのサークルにたむろするチャラい奴らには絶対やらせたくない。なんて俺が思うのも変だよな。こいつに男がいるのかどうか、こいつの過去も今も、俺は何も知らないんだから。
「あがれよ」
頭ん中がぐるぐるして、いつも以上にイライラした。居酒屋の酒や揚げ物のにおいが体に染みついているのも嫌だった。でもそれ以上に、ハルカを手放したくない気持ちが勝っていた。今ここで手を離したら。こいつは間違いなく他の男に持っていかれる。こいつが何か拒否するのを俺は見たことがなかった。来るもの拒まずって感じで、いつも流されて。それが俺をむしょうにイライラさせる。
「お前、彼氏とかいるの」
「ううん」
ハルカは俺の座るソファではなく、隣のフローリングに横座りをした。ゆるく首をふる仕草が妙にエロくて。俺は酒なんて飲んでないのに俺自身の思考に酔っていた。今すぐこいつを押し倒してキスがしたい。服を脱がせてベッドに沈めて、怯えてひるむ姿が見たい。快楽に喘ぐ声をききたい。身じろぎもせずソファに座りながら頭の中では完全に犯していた。
「じゃあ俺と付き合って。今すぐ」
「えっ……?」
戸惑う姿にイラっとした。お前はなんでも拒まないんだろ? 俺の何が気に入らないんだよ。俺のことなんて何も知らないくせに。俺は俺自身の容姿がブサ寄りでないことを知っていた。女がいたこともある。うぬぼれやのつまらない女だったけど。
「嫌なの?」
「夜男の家に来るって、そういうことだろ」
俺は畳みかけるように冷たく言った。彼女がフローリングを蹴るように立ち上がってこのまま帰ってもいいと思っていた。もうこりごりなんだ、お前の言動に振り回されるのは。嫌なら嫌とハッキリ言ってくれ。俺は振られたくなかった。一方で振られたい気もした。彼女の口からノーが聞きたかった。彼女の初めてのノーになりたかった。お前自身の意志を示せよ。本音のお前が見たいんだよ。