俺には春宮の他に娘が四人いた。例の予言書によると、俺が娘について何かしてしまって柏木くんの命が危うくなるらしい。どの子なんだろう……。
俺がまだ春宮だった時代から入内なさった方で、俺が帝でいた間に女の子を出産なさったけれど院になる頃には亡くなられてしまった方がいた。入道宮さまの異母妹で藤壺に住まわれ、源氏宮と呼ばれた。
若く未熟な俺を助け、癒してくれた方だった。譲位した後他の娘たちは母親と里へ帰ったが、この方との間にできた娘だけは帰る家がないので院に連れて来ていた。
「三宮なのかな……」
琴《きん》の好きな子で、乳母から教わったのかとても上手く奏でた。小さな手で弦を押さえながら弾く姿がとても可愛い。俺に似たのか小柄なのが少し気になるけれど。
「三宮、今いくつになったかな?」
「七つです、お父様」
娘の歳をお忘れになるなんて、と彼女は少し怒った。
「ごめんごめん」
俺は謝りながら正直女の子は苦手なんだよなと思った。春宮を見るのは楽なんだけれど。女の子を育てるなんて俺にはとても無理で、乳母や女房たちにだいぶ任せていた。俺はどうしても甘やかしてしまいがちなので、手や口を出さず見守るほうが賢く育つ気がするし……。奥様を育てた光《ひかる》って凄い。何をどうやって育てたんだろう。
「お母さんを長生きさせてあげられなくて、ごめんね」
俺のせいではないかもしれないがそのことだけが申し訳なくて、俺はこの子にいつも謝った。帝時代には娘を産んでくれた女性たちに加え麗景殿さん、承香殿さん、母が入れてきた朧月夜さんがいて、俺には負担が大きかった。
「お母様はお父様のこと、とってもお好きだったって皆が話していましたよ。素敵なご夫婦だったって」
三宮の母である源氏宮さんはそれほど出産を急ぐ人ではなかったので、俺たちはふれあいながらゆっくり話したりして過ごすことが多かった。たおやかな人で。入内するくらいだからもちろん美人だ。
「幸せになろうね。お母さんのぶんまで」
俺一人ではそれをしてあげられるのか自信がなかった。未来を読んだ皆に助けてくれるよう頼んでおいたし、何とかなるだろうか。
今更だけれど葵さんが入内されなくて俺にとってはよかったのかもしれないと思う。俺、葵さんと出会ってしまっていたら。父上と同じように一人の女性だけを愛して、他の人たちをもっと泣かせていたかもしれない。皆同じだけ好きになるなんて、誰も好きにならないのと同じで。俺には難しかった。
「お父様、箏は上手くなられましたか」
「どうかなあ。一緒に弾いてくれる?」
三宮にも合わせてもらって俺は箏の練習を続けた。朧月夜さんの指導のおかげで主要な調べはおおかた弾けるようになっていた。
「行幸は来年の二月二十日に決まりました。」
「承りました。」
「日時をお知らせせず飛び込みで伺うことも考えたんですけどね。」
「やめて下さいお願いします。」
冷泉さんは使いに文を持たせて下さったが、当日の流れまで教えて下さるので安心できた。優秀だなあ。夕霧くんは官位が六位から始まったことにも腐らず、頑張って大学寮で勉強しているらしい。偉いなあ。息子さんが二人ともすくすく育っていて、光って親としても優秀なんだなと思った。