ハルカの実家は俺の最寄り駅から急行で一時間ほどの隣県にあった。弟君は今年高校に受かったそうで、駅前のカフェチェーンに制服姿で現れた。
「こんにちは!」
ハルカの弟はハルカとあまり似ていなかった。いや、笑うと似てるかな。ホイップクリームを乗せた甘いドリンク片手にさわやかな挨拶をくれる。
「ねーちゃんに彼氏ができるなんて! 驚きました」
「そうなの?」
明るい第一声に、こいつならいろいろしゃべってくれそうだと思った。
「ハルカってさ、男嫌いかな?」
「嫌いって言うか。ねーちゃんがまともにしゃべったことある男なんて、俺と親父くらいじゃないすか?」
スマホに来たメッセージに次々返信しながら、俺の目も見て器用に答える。
「離婚したお父さんとも、まだ繋がりある?」
「年一くらいで会ってますよ」
「その……離婚原因って、わからないよね」
「借金らしいっすよ。親父の実家が潰れて、その借金を被ったとか」
離婚理由をずいぶん詳しく子どもに話すものなんだなと俺は思った。まあ、あのハルカの母親だから……この弟もだが、およそオープンな家系らしい。
「ハルカってさ、友達少ないよね」
「あー、ねーちゃん変わってるから」
「イジメられたりとか、なかった?」
父親からの虐待の線を消した俺は、男子からのイジメについて聞き込みしてみた。
「イジメって感じじゃないんすけど。ねーちゃんって独特の世界を持ってるみたいで。あまり仲いい子とかいなかったっすね」
「君は嫌じゃなかった?」
「えっ?」
弟君が唐突にスマホから目を離して俺を見つめるので、俺は失言を詫びた。
「ごめん。失礼なこと言って」
「いえ。俺はねーちゃんを迷惑に思ったことないっす。それにねーちゃんって、俺らの間では結構人気あったんすよね」
「えっ?!」