いつまでそうして座っていたんだろう。
「寒くありませんか」
ふわっと後ろからストールを掛けられて。振り向くとルースさまが微笑んで立っておられた。
「隣、いいですか」
「はい」
私がうなずくと優しく笑って、私の隣に座って下さる。
「今日はありがとう。シシリーを急に誘ってしまってすみません。少し元気がないようだったので、気になって」
「いえ。シシリーと一緒に釣りができて私も楽しかったです」
やっぱりよく見ておられるんだと思って私は嬉しくなった。私にとってもシシリーは大切な人になっていて。海賊の件、上手く片付くといいけれど。
私がそんなことをボンヤリ考えていると、ルースさまは私の腰に手を回して横からぎゅっと抱き寄せるようになさった。あまりされたことのない姿勢なのでちょっと緊張しながら、私はルースさまの肩にもたれかかる。静かな波がザザンザザンと打ち寄せて、他には何の音も聞こえなかった。
「この島の生活はどうですか?」
「とっても落ち着きます。やっぱり海はいいですね」
この島の海は故郷の海に似ていて、私はとても好きだった。
「サーシャは私といて無理をしてはいませんか」
ルースさまがおもむろに仰るので、私は少し困惑しながら答えた。
「いえ、申し訳ないほどリラックスさせて頂いてますが……」
「なら良かった」
ルースさまはホッと胸を撫でおろすようになさると、黄昏の海を見ながら続けられた。
「以前あなたが言った『私を実験台にすればいい』という言葉は私には衝撃でした。それは親が子にするような、わが身を削る献身です。それほどのことを男に許してはいけません。もっと自分を大切にして下さい」
「……はい、すみません」
私は恐縮したが、ルースさまは落ち込む私をそっと抱きしめて下さった。
「怒っているんじゃないんです。あなたのことが心配で……。今までよほどつらいことがあったのですか?」
「えっ?! えと、どうなんでしょう」
私はあまり意識していなかったけれど、そこまで心配されると不安になってしまっていろいろ考えた。母のことは確かにショックだったけれど……。
「サーシャは本当に放っておけない感じがします。もっと私を頼って、甘えて下さい」
ルースさまの体温はあたたかく、胸は広くて。抱きしめられながら私は幸せを感じた。
「心配させちゃってごめんなさい。いきなり海に入ったりして、不躾でしたよね」
「いえ、それは素敵でしたが。無理はしないで下さいね」
もったいないお言葉で、私は涙が出るほど嬉しかった。ルースさまの胸にそっと頬を寄せて。私は手が届く範囲の確かな幸せをしっかり守ろうと思った。