同居しているとはいえ、ルースさまはお邸でもとても折り目正しい感じなので、私にそんな思いを抱いて下さっているとはつゆ知らず、私は嬉しいのに恥ずかしいような妙な気持ちになった。つゆ知らずっていうのもおかしいよね、結婚前提のお付き合いなんだから……。
夕食を頂いても、恥ずかしさでいつもほどお顔を見ることはできなくて、それはルースさまも同じなようだった。私は言葉少なにさっきの唇の感触を思い出していて。ずっと覚えておきたくて、何か食べるのが惜しいような気持ちになってしまう。
その夜はなかなか寝付けなかったけれど、それは幸せな不眠だった。うたた寝の夢にルースさまが出てきて、抱きしめあって、目が覚めるとがっかりして。ルースさまは今頃どうしておられるだろうと思った。ぐっすり眠っておられるかな。
翌朝廊下でお会いしても妙にぎこちない感じになってしまって、私は残念に思った。この日も一日中聖堂でお手伝いさせてもらって。帰りの馬車でご褒美のキスをもらうとやっと息ができる気がして、昨日より長く求めてしまう。
「何と言うか、その……。一緒に住んでいると、逆に触れ合いにくいものですね」
ルースさまがため息をつくように仰るので、同じことを思っていて下さったんだと私はホッとした。
「そう、ですよね」
誰にも知られてはいけない関係を結んでいる気がして、私は落ち着かなかった。同居までしているのだから、知られないどころか周知の事実のはずなんだけれど。どこまで進んでいるのか逐一バレているような気がして、あまりにも恥ずかしい。
「今度デートしましょうか」
「デート、ですか?」
ルースさまは確かめるように私の頬に触れると、髪も撫でて下さった。
「二人きりになりたいのです。少し不便かもしれませんが……」
「どこにでも、お供します」
私はルースさまの鼻に自分の鼻を触れ合わせるようにキスすると言った。このままどこかへ連れ出してほしい。
「懇意の宿を貸し切れるよう、手配してみますね」
「お仕事のほうは大丈夫ですか?」
「あの聖堂は私を含め四人の司祭で職務を分担していますから。予定を調整すれば問題ないでしょう」
ルースさまは私を抱きしめてまたキスを下さった。私は次に進みたいけれど怖いような、もどかしい気がして。でも邸のメイドたちの前では手をつなぐのもはばかられて、ただデートの日を待っていた。