私たちは三泊四日、途中宿を取り、馬車に揺られながら旅をして、ついに我が家へ帰ってきました。ヒューは門の前で馬車を降りると、走って邸に入ってしまいます。帰ったらやろうと思っていたことがたくさんあったのでしょうか。
これほど真面目で優秀なヒューをなぜお父様は正式な後継者にして下さらなかったのか、私は悲しく思いました。ただ「私のことをずっと好きだった」と言ってくれたヒューの言葉が本当なら、たとえ義理であれ姉弟ではない方がよかったのかもしれません。
私はゆっくり馬車に揺られながら、邸の玄関まで来ました。少し離れていただけですのに、とても長い旅から帰ったかのように思えます。メイドたちと執事がいつものように恭しく礼をして私を迎えてくれました。ヒューは忙しそうにしていたのにわざわざ戻ってきて、私の手を取り、馬車を降りるのを助けてくれます。二人連れ立って玄関ホールに入りかけたとき、ヒューがふと従者たちに振り向き、思い出したように言いました。
「そうそう、僕たち恋人同士になったんだ。気を使ってね」
私はとても恥ずかしいような申し訳ないような気がして、思わず両手で顔を覆ってしまいました。ヒューと私が幼い頃から仕えてくれている従者たちばかりですから、皆がどう思うかと想像すると胸が苦しく、重い罪を犯したような気持ちになります。
「そんなに恥ずかしがらないでよ、姉さま。誰も笑ったりしないよ。僕たちもう大人なんだから」
ヒューはポンポンと私の頭を撫でると、立ち尽くす私をギュッと抱き寄せてくれました。
「それに僕、隠し事は嫌いなんだ」
それだけは譲れないという口調でヒューは付け足すと、私の手を取って、部屋まで送ってくれました。
◇◇◇
読みかけの本、刺しかけの刺繍、窓辺の小さな花たち……。
私の部屋は宮廷舞踏会に行く前と何一つ変わらず、変わってしまったのは私自身だけなのだと私は薬指の指輪を見ながら思いました。私が力なく椅子に座っているとコンコンと軽いノックがして、メイド長のエマがそっと入ってきてくれます。
「お帰りなさいませ、お嬢様」
エマは恭しくお辞儀したあと、心配そうに私を見つめてくれました。
「何か酷い目に遭ったのではないですか? お顔の色が優れませんが」
「いいえ、大丈夫よ。ヒューはとても優しかったわ」
私はため息をつくように言って、窓の外に目をやりました。エマが淹れてくれたお茶を飲むとホッとして、やっと家に帰ってきたという気持ちになれます。
「長旅でお疲れでしょう。お休み下さい」
エマが勧めてくれるので、まだ昼間なのに私はベッドで休むことにしました。ヒューとのことは本当に夢のようで。姉弟として無邪気に過ごした時間がむしょうに懐かしく、私は久しぶりに昔の、子供の頃の夢を見ました。