湖畔の別荘から帰ると季節はさらに進んで、メイドたちも冬服を着るようになりました。ヒューが新調してくれたドレスや靴も届いて。今度は私に値段を教えてくれます。
ヒューが忙しすぎないか私は常に心配していましたが、ヒューは国境管理の仕事を決して人に任せたがりませんでした。「人は信用できないからね」と口癖のように言います。
人に任せたことで過去に痛い目を見たことがあるかのような口ぶりなので、私は何も言うことができませんでした。もう少し年を重ねれば信頼できる部下も増えて、少し楽になるのかもしれません。
私はお仕事を手伝うこともできないので、ヒューをこれ以上心配させないよう、ただ自分の健康を保つことを心がけていました。「日の光を浴び、よく歩くように」とお医者様も仰るので、毎日家の周りを散歩しています。
私はヒューが「小さな村みたい」と褒めてくれた広い敷地内を歩いて、放し飼いにされている馬や牛を撫でたり、のんびり羊を追ったりしました。それから森を抜け、小高い丘の麓に差し掛かると、春ならば薄紫色のスミレが群生しているはずの場所があり、私は昔、幼いヒューとここを歩いたことを思い出しました。
「ヒュー、お花は好き?」
「うん」
私が七歳、ヒューが五歳くらいの時でしょうか。始終一緒にいた私たちは、その日も敷地内を探検して回っていました。薄暗く、ちょっぴり怖い森を抜けた先に綺麗なお花畑を見つけた私は嬉しくて、つい駆け寄って一輪摘もうとしました。
「姉さま、僕の分はいらないよ」
「どうして? とってもきれいよ」
「だって可哀想だから」
ヒューはお花畑に座る私を優しく見つめて言いました。
「ここで咲いたんだから。そのままにしておいてあげて」
私はなんて優しい人なんだろうと思いました。その日は二人でずっと、小さな指先で花を触ったり眺めたりして。その後しばらく私たちは毎日ここへ通いました。追いかけっこやかくれんぼ、虫捕りをして遊んで。花々がチョウやハチや、たくさんの生き物に必要とされるところを見ました。
ヒューは本当に優しかったなあ。出会った時からずっと、今も優しい。
あの男の子に会ったせいでしょうか、私は幼いヒューと共に過ごした思い出がただ懐かしく、ヒューを愛しく思いました。ヒューが私を責めることは減ってきていて。
もう私に飽きちゃったかな。ついに愛想を尽かされたのかもしれない。私は自分の役目もそろそろ終わりに近づいている気がして、寂しく思いました。