付き合ってほどなくして、俺はハルカの部屋にはじめて行った。オートロックのない1LDKのマンション。外観は古いが内装は綺麗だ。一応RCなのか、隣室の音は聞こえてこない。地下鉄駅から徒歩5分ほどで、明るい道沿いにあり、防犯上はいい所だと思った。
ハルカの部屋にはベッドとテーブルとテレビ、クローゼットがあった。俺はベッドに腰掛けた。枕元に大きい羊のぬいぐるみが置いてある。
「羊すきなの?」
「そう、だね。お母さんが買ってくれたの」
まだ大学一年の夏だったので、ホームシックなのかもしれないと思った。ハルカはそれほど感慨深そうでもなく、冷蔵庫の麦茶を注いで、ローテーブルに置いてくれる。俺はエアコンの効いた部屋でいちゃいちゃしたくて。ハルカを後ろから抱きしめると、ベッドに誘った。
ハルカはいつもどこか怯えていて。目をきゅっとつぶって、必死に耐えているという感じだった。それでつい一線を超えられなくて。秋になり、冬になる。
俺とハルカは映画に行って、遊園地に行って、水族館にも行った。一緒に教習所に通って免許を取って、車を借りてドライブもした。ハルカはビビりで、必ず制限速度を守るから逆に危なっかしいと俺はいつも笑った。
食べ物にはいっこうに興味がなくて、俺が作ってと言えば、レシピを調べて、その通りに調理するだけ。その代わり、俺が作ったものにも一切文句を言わない。俺は料理が結構好きで、アレンジや創作も得意だった。途中から気づいてきたが、浮気を疑ったりして、俺のほうが女みたいじゃないか……?
何が欲しいとか、どこに連れて行けとか、ねだることも一切なかった。誕生日もクリスマスも我関せずで、ケーキもプレゼントも欲しがらない。あまり寂しいので、俺の方から頼んだり、身に着けてほしいものを贈ったりした。友人たちに訊いてみても、これほど金のかからない女は珍しいらしい。「本命別にいるんじゃねーの?」とからかわれたこともあった。実際割と本気で疑っていて。行動履歴を調べてみるが、一向に怪しいところはない。講義を受けて、週3でバイトして、俺とも遊んで。図書館と美術館にたまに行っているようだが、そこで浮気って考えづらいよなあ……小学生かと思うほど、彼女の行動はワンパターンで、友人はいっこうに増えなかった。