ある晴れた秋の日、王室ゆかりの古い寺院で私たちの結婚式は厳かに執り行われた。国王陛下をはじめ王族の皆さまが参列して下さり、私たちの結婚を祝福して下さった。
ロングスリーブのドレスにマリアヴェールを被り、長い裾を引きながら、私は一歩一歩踏みしめるように歩いた。ルースさまはいつもの笑顔で待っていて下さって。私の手を取り、じっと見つめて下さる。
「あなたを愛し、慈しみ、支え、どんな喜び、悲しみもあなたと分かち合い、共に歩むことを誓います」
ルースさまは静かに、でもはっきり宣誓して下さった。
「この命尽きるまで、あなたを愛し、寄り添い、どんな時も共に在ることを誓います」
私も静かに誓った。意志の強いシシリーではなく、私にできること。それはルースさまの生き方に合わせることなのかもしれない。
私にはあまり自分がない。どうしても叶えたい夢、希望、野心はない。一生目立たない、地味な生活のままでも私は全く構わないと思っていた。静かな生活のほうが好みだし、むしろ縁の下の力持ちができたら嬉しい。ルースさまがそばで笑って下さるなら、それだけで私は幸せだと思った。ルースさまのお母様から譲り受けた大切なダイヤモンドが施された指輪を薬指に頂いて、誓いのキスをする。
「おめでとう」
ドレス姿のシシリーも目を細めて祝福してくれた。私は事前の打ち合わせ通り、白いバラのブーケをそっとシシリーに渡すと軽く頷きあった。
この一時間ほど前、婚礼衣装を整えた私とルースさまの控え室にシシリーがやってきて、人払いをしてこんなことを言った。
「実は二人にお願いがあるの。一生に一度の大切な日に、本当に申し訳ないんだけど……」
私が渡したブーケの中には拳銃が隠されていた。シシリーによると、寺院での結婚式の後、陛下は馬車で王宮までパレードなさるのだが、その道中もしものことがあってはいけないからどうしても守りたいのだと言う。
「ここ数日不審な者たちが次々入国しているの。おそらくあの海賊娘が親族と偽って手引きしてるんだと思うわ」
シシリーはロングドレスに上げ髪の艶な姿ながら、藍色の瞳に宿る眼光だけは鋭かった。
「お父様に頼んで警備を重くして頂いてるけれど。市民に混じって襲撃してくる可能性もある。私は陛下の馬車に同乗してお守りするわ」
「でも、シシリーは大丈夫なの?」
私は心配になって思わず尋ねた。陛下をはじめ位の高い方から順に進むパレードで、ルースさまと私の馬車も末席に連なるのだけれど……。
「そんな危険があるなら、陛下にお話してパレード自体を中止にしたほうがよくない?」
「私もそう申し上げたんだけど。『叔父上の最初で最後の結婚式なのですから!』って聞く耳お持ちじゃなかったわ」
シシリーは肩をすくめて言った。
「あの女が『陛下のパレード姿をぜひ見たい』とせがんでいるらしくて。嫌な予感がするの」
シシリーがそう言うので、私は結婚式におよそ相応しくない拳銃を花嫁のブーケに隠してシシリーに渡したのだった。シシリーは拳銃の入ったブーケを持ったまま、陛下と同じ馬車に乗った。もうすぐパレードが始まる……。私は自分も馬車に乗りながらあまりの不安に青ざめてしまったが、
「シシリーは射撃の名手なのです。それに一度言い出したら聞きませんから。ここは任せましょう」
ルースさまが私を抱き寄せてそう仰るので、そっと頷いた。