ハルカと付き合い始めたのは、大学一年の6月、サークルの飲み会がきっかけだった。俺たちは写真部に入っていた。まあ写真なんて名ばかりで、単なる旅行好きの集まりだったけど。料理を撮るやつ、猫を撮るやつ、人物を撮るやつ。いろいろいた。俺は夜空が好きだから、星の写真ばかりを撮って。ハルカは空の写真を撮っていた。
香住《かすみ》ハルカは美人でもなんでもなかった。胸も尻も小さいし。中性的というのか、160センチくらいで細身で、髪は短くて。いつもズボンをはいてる。
声は小さく控えめで、あまりしゃべらない。でも暗いって感じでもなくて。いつも微笑んでいて透明感があった。その透明感のあまり、存在感が薄くて。小さいサークルなのに、来てないことに気づかれない時もあった。
俺はハルカのそういうところ全てに苛立ちを感じた。初めて会った時からそうだった。
「こんにちは」
ふわっと優しく笑いかけるその笑顔がもう、嫌だった。なんで初対面の俺なんかにそんなふうに笑いかけるんだよ。その笑顔を誰にでも見せるのかよ。嫌だった。こいつのやさしさのすべてが、俺の神経を逆なでした。
俺はいつもハルカと目を合わせないようにしていた。あの澄んだ瞳に見つめられるのはどうしても嫌だった。そのくせ、ハルカの横顔、後ろ姿はいつも目で追っていた。だって危なっかしすぎるんだ。飲みの誘いもハッキリ断わらねえし。
あんなに無理して笑顔作って、内心嫌で仕方ないだろうに。誘うほうも誘うほうだ。先輩のくせに、断りづらいのを承知で18の後輩を強引に誘うなんて。卑怯だ。
そのまま持ち帰られたいのかって思った。尻軽なのか馬鹿なのか、男ばかりの飲み会に行くなんて。襲われたいのか。まったく理解できない。
「俺も行きます」
誘われてもないのに、気づいたら俺は口走っていた。
「もっと女子も誘いましょうよ」
先輩に笑顔を作って。イライラしていた。