どうしたら、ヒューはもっと楽になってくれるかしら。
小川のほとりに座って戯れる鳥たちを眺めながら、私は持ってきたハープを奏でました。
私がそばにいて、いいのかな。いないほうが、いいのかしら。ヒューは時折とてもつらそうに見えるので、どうすればいいかわからなくなります。
私の居場所が少しでも曖昧になるとヒューはとても不機嫌になって、メイドたちが叱られることもあるので、スッと姿を消すのは難しそうに思えました。
病気やケガで……。でも健康に気遣うよういつも言われているし、ヒューはお医者様と難しい相談をして、常に私を元気にしようとしてくれるので、それも申し訳ない気がします。
このままここにいたい、なんて、ワガママかしら。
以前は、ヒューが素敵な奥さまをもらって幸せに暮らすのを遠くから見守れたらと思っていました。でも、今は……。ヒューから離れることを想像しただけで身を切られるようにつらく、どうしようもありません。一緒にいたい、けれど、それでいいの?
私はポロンポロンとハープを鳴らしながら、重いため息をつきました。そんな私の視界が突然暗くなって。誰かが後ろから両手で私の目を隠しているのがわかりました。
「だーれだ?」
私は、なんだか泣けてきてしまって。ヒューの温かい手の中で、ぽろぽろ涙がこぼれました。
「泣いてるの?」
目隠しした手のひらに涙が付くので、ヒューは驚いて私の頬を拭いてくれました。
「なんで泣いてるの? 何かあったの?」
ヒューは自分以外の原因で私が傷つくことを極度に恐れるところがありました。私は何と言ったらいいかわからず、ただヒューの胸に顔を押しつけ、静かに抱きしめてもらいます。今だけは最高の恋人でいたい、のにな。もっとヒューを喜ばせたいのに。
「お仕事、大丈夫?」
「うん。ちょっと時間が空いたから」
「ありがとう。会いに来てくれて」
私はヒューにキスをしました。やっぱり、ヒューが好き。会えるとこんなに安心するもの。
「僕に会えなくて、寂しくて泣いてたの?」
「うん」
私がうなずくとヒューはホッとしたように笑って、お返しのキスをくれました。それから私を背中から包み込むようにぴったりくっついて座ると、一緒にハープを弾いてくれます。
「良い音だね」
「うん」
「何か、考え事してたの?」
「うん……」
私は、本当にヒューには何も隠せないなと思いました。私たちの秘密が明らかになったら。その瞬間に、この関係は終わるような気がします。終わっちゃうの、悲しいな……。
私は永遠に罪人でいたい気がしました。この人に捕えられたまま、償いきれない罪の中で、ずっと一緒にいたい。
「僕のこと、好き?」
「うん」
「どのくらい好き?」
「世界で一番、好き」
素直に言えて、私はホッとしました。
「僕と離れたくない?」
「そう、だね。でもヒューに全てを遺《のこ》して消えてしまいたいと思う時もあるよ」
「どうして?」
「私、邪魔なのかなって思うから」
ヒューは私の頬から首、肩を撫でるように何度もキスをくれました。
「邪魔じゃないよ」
ため息をつくように言います。
「ヒューには幸せになってほしいの」
私の願いはそれだけでした。私といても、いなくても、笑って。幸せでいて。
「僕は幸せだよ」
ヒューはそう言ってくれて。私たちはいつまでも、木陰の草地で抱きしめあっていました。