「ハルカ、一緒に住もう」
イヴの夜、一緒に過ごして。ハルカを背中から抱きしめてコタツに座りながら俺は言った。本気だった。
「俺と寝て」
ギュッと抱きしめて、ハルカに頬を摺り寄せる。好きかどうかなんて当たり前のことはもうどうでもよくなっていた。彼女が完全に欲しい。
ハルカは長い間黙っていて。でも俺はその無言が心地よかった。無言を苦痛と思わないほど俺たちは馴れていたし、彼女の無言は控えめなOKの意だと付き合いの長い俺は捉えていた。
「遼《りょう》くん、あの……」
ハルカの戸惑いがちな声に、俺は抱きしめる腕を強めた。優しく、するよ。今までそうしてきたように。いや、今まで以上に大切にする。
「私と、別れてくれないかな」
今夜ハルカをどうするかということばかり考えていた俺は、この言葉に思わず我を失った。
◇◇◇
「……は? なんで?」
この体勢で言うことかよと思って、俺はハルカの腕を握りしめた。逃げられないようにするためだった。
「俺の何が気に入らないの?」
「ううん。遼くんのせいじゃ、ないんだけど……」
「じゃなんで?」
「うん……」
イライラ、する。久しぶりに、付き合う前みたいなイライラが戻ってくる。何なんだよ。ハッキリ言えよ。
「他のやつを好きになったの?」
「ううん」
ゆるく首を振るからイライラした。他の奴に目移りしていたほうがまだよかった。そいつを消せばいいだけなんだから。
「じゃ何?」
「うん、えっと……遼くんの期待に応える自信がない、っていうか……」
「俺と寝たくないってこと?」
「なんかやっぱり、怖くて……」
「なんでそんなに俺のことが嫌いなの?」
俺は、あまりの怒りに泣くのではないかと思った。
「まだちゃんとやってみたわけでもないのに、なんでそんなに俺を嫌うんだよ? ハルカは俺の何を知ってるって言うんだよ。やってみて下手だとか言われるほうがよっぽどマシだよ。試してもくれないのかよ……」
「ごめん……」
情けないってこういう感情なのかと思った。本当にこいつ、情けがなさすぎるよ。