あれだけ大騒ぎしたのに、結局少し遅れて月のものがやってきて。私の妊娠は数日で誤解だったことがわかりました。
「本当にすみません、ご心配をおかけして」
「いえ、謝ることじゃありませんよ」
お元気になられて良かったですとコンラは笑ってくれました。それから少し改まった様子で、私の眼を見つめて尋ねました。
「陛下の御子が、欲しかったですか」
「そう、ですね……授かれるのであれば」
私はあれだけ不安だったくせに誤解とわかった途端ガッカリしてしまって、我ながら現金な自分だと思いました。私は赤ちゃんが欲しくないのではなく、お腹に宿った赤ちゃんが流れてしまうのが怖かったのだろうと思います。
「皇帝の御子というのは普通の子とは違います。手元では育てられませんよ」
「そう、ですよね……」
コンラの口調は優しいですがきっぱりしたものでした。寂しい、かな……でも伝統に則れば仕方のないことですよね。私のような身分の低い母がいては迷惑をかけてしまうでしょうし……。私は御子を産んだとしても結局お城を去ることになるのだろうと思いました。
「陛下の御子をお産みになられる方は、この世で一番幸せな方でしょうね」
それでも、私はヨウヒや国中にたくさんいる陛下の恋人たちも皆陛下の赤ちゃんが欲しいのだろうと思いました。陛下に御子がお生まれになったら。私はたった一度でいいのでこっそりお城に来たい気がしました。陛下の御子が一目見てみたくて。どんなに可愛らしく、凛々しく、賢くお育ちになることでしょう。陛下と二人並ばれたお姿は、きっとまばゆいほどご立派に違いありません。
「好きな御方のために子を産むことができたら。それだけで幸せです」
私はため息をつくように言葉を繋ぎました。それが私なら……などと願うのは高望みでしょうか。あまりのんびり、ボンヤリしているからいけないのかもしれません。もっと仕事に精を出して体を鍛えたりしたら、元気な子が産めるのかもしれません。畑にトマトと瓜も植えようか、などと考えている私の横顔を、コンラは微笑んで眺めておりました。朝から晩までよく体を動かして。私はおかげさまで、ぐっすり眠れる日が続いていました。
そんなある夜のことです。私はよほどぐっすり眠っていたのでしょう、陛下にカプッと耳を噛まれたことがございました。それでも私が飛び起きる、ということは無くて。陛下はカプ、カプと私の首や肩を噛んで下さいます。私はああ、起きなきゃと思って目をむにゃむにゃさせました。陛下は私に馬乗りになられたまま、右手に小瓶を取られるとその蓋を歯でグッとお開けになって、
「余と同じものが喰いたいと言ったな」
瓶の中身を御口に流し込まれ、その口で私にキスをなさいました。
「んっ……???」
私はトロッとした液体が口中に流れてくるので動揺しましたが、味は甘くて美味しいので、舐めながら飲むような形になりました。私の口の端から零れたぶんは陛下がペロリと舐めて下さいます。甘くほろ苦い味でしたので、何かお薬を下さったのかな、などと寝起きののんきな頭で私は考えておりましたが……これはなかなかよく効く薬で、私は体の奥がじわじわ温かくなるのを感じました。そのうちフワフワ、全身が浮いたように気持ちよく感じ出して、身も心もトロトロに溶けてしまったかような幸福感が全身を包みました。
「へーか……らいしゅき、れす……」
酩酊とでも言うのでしょうか。私は自分から何度もキスをして陛下におねだりしてしまいました。陛下は私の無礼を咎めず、面白がって願いをきいて下さいます。前後不覚というのはさすがに初めてのことでした。私は次の日も一日中この余韻に浸ってぼうっとしておりましたが、陛下はお忙しい中翌日もその翌日も私の様子を見に来て下さいました。