次の日、ヒューは私に綺麗なドレスと帽子を選んでくれると、朝から「お出かけしよう」と私を誘ってくれました。王都の朝市を二人で見て回り、カフェでお茶を頂くと、王国一の高さを誇る荘厳な大聖堂、美術館、劇場と私を連れて行ってくれます。
途中広場で楽器を奏でる人たちがいて、町の人々が手を叩き、跳ねるように踊っていました。ヒューは私の手を取ると迷わずその輪に入って踊りだします。激しいステップで、私は足がもつれ、何度も息が止まりそうになりました。もうダメ……と倒れかけた時、
「大丈夫?」
ヒューはすかさず私を抱きしめて、このダンスから救ってくれました。
「お揃いの指輪でも作ろうか。今日の記念に」
ヒューは私の腰に手を回し支えるように歩きながら、ある宝飾店に入りました。店主に頼み奥からプラチナの指輪を出させると、二人の名を刻んでもらいます。ヒューの行動には常に一瞬の迷いもありませんでした。女性に指輪を贈ることにも慣れているのかなと、買ってもらう身でありながら、私は妙な寂しさを覚えました。
店主は私たちの見ている前で細い指輪に器用に私たちの名を刻むと、ヒューはそれを私の右手薬指にスッとはめてくれました。
「よく似合うね」
それから自分の薬指にも同じようにはめて。私たちは馬車を呼び、宿へ戻りました。
◇◇◇
「今夜は男だけの集まりがあるらしいから行ってくるね。姉さまは疲れたでしょう? 先に休んでて」
ヒューは手早く衣装を整えると、私に手を振って流れるように行ってしまいました。疲れたのはヒューも同じでしょうに。私は買ってもらった指輪を撫でながら、ぼんやり今日のことを思い出していました。たった一日だけど、楽しかったな……。もし私にも恋人ができたら。いつかあんな素敵なデートをして下さるのでしょうか。
「ヒューには助けてもらってばかりね」
何かお返しがしたいけれど、ヒューは一人で何でもできるし、何でも知っているし……などと考えているうちに、まだ夕方だったのに、私はソファで眠ってしまっていました。次に起きたときは夜更けで、でもまだヒューは帰っていなくて。
私はシャワーを浴びて髪を乾かしながら、宮廷へお迎えの馬車を行かせた方がいいかしら、でも今夜はここに戻らないかもしれないし、などと不安な思いで待っていると、ドタッドタッと不規則な靴音がして。ガチャッとドアノブを開け、執事役の男性に支えられたヒューが入ってくるのが見えました。かなり酔っているのでしょうか、足取りがフラフラしています。
「ヒュー、大丈夫?」
私は思わずヒューに駆け寄ると、支えられもしないのにヒューの体に抱き着きました。私の存在はヒューが歩くのにかえって邪魔だったかもしれません。ヒューはしがみつく私ごとベッドに倒れこむと、私の頬から首を撫でるようにお酒臭いキスをしました。私はヒューにきつく抱きしめられてほとんど身動きが取れませんでしたが、
「ヒュー、あの……誰か他の方と間違えてない?」
酔ったヒューが気づいてくれるよう必死に祈りながら言いました。
「間違えてないよ、姉さまでしょ」
ヒューは首のタイを緩めシャツのボタンを外しながら、私へのキスを続けます。
「さあ、姉さまも脱いで。早く寝ようよ」
「脱ぐの?」
「着てやるの?」
ヒューは目を閉じたまま面倒くさそうに眉をしかめると、「姉さまシャワー浴びてんじゃん。良い匂いする……」と言って私の胸に顔を入れようとします。
「あの、こういうことは、やっぱり恋人同士じゃないと……」
「えっ? 僕たち恋人でしょ?」
「そうなの??」
「二日もデートして、指輪まであげたじゃん」
ヒューは痛む頭を手で押さえながら薄く目を開けると、私を睨みました。
「まだ何か欲しいの?」
「そんなこと、ないけど……」
ヒューは完全に興醒めした、といった様子でベッド脇の水差しに手を伸ばし水を汲むと、ベッドに座ってゴクゴク飲みました。それから「ハア―」と大きく息をついて。やっとベッドから半身を起こした私を眠そうな目で見つめながら、驚くべき話を教えてくれました。