目が覚めるとまだ夜で、私は天蓋つきの大きなベッドに寝かされていた。頭が、痛い……。ゆっくり上半身を起こすと、首を振って辺りを見回す。広い部屋のようだった。窓からは遠く王宮の灯りが見えたので、敷地内ではあるけれど別の建物のようだと思った。
「気が付かれましたか」
奥のソファに座っていた人がすっと立って私の枕元に来て下さるので、私は驚いてしまった。このお声はルースタッド殿下かな? 私がベッドから上半身を起こした程度の物音にも気づかれるなんて、鋭い耳だ。
「ご気分はいかがです?」
「大丈夫です。ちょっと頭が痛いですけど」
「水をどうぞ」
ルースタッド殿下は枕元の水差しから水をグラスに注ぐと私に下さった。私はお水をゴクゴク飲んで、ほっと息をついた。
「一体何があったのですか。なぜ急にあんなことを?」
ルースタッド殿下は暗くて私が見えにくいのか、かなり顔を近づけて問われた。私は返答に困ってしまったが、正直にお話するしかないと思った。
「給仕がシャンパンに白い粉を混ぜるのを見てしまって」
あの令嬢が誰だったのか、もっとしっかり特徴を覚えておけばよかったと思った。皆似たようなドレスを着ているから、初めての私には見分けがつかなくて。
「私を助けるために、そのシャンパンを飲んだのですか?」
「理由をお話してお止めすればよかったですね。すみません」
「なんてことを……」
ルースタッド殿下は驚きとも呆れともつかない表情で私を見つめると、私の手をギュッと握って強い調子で仰った。
「私を助けて下さるお気持ちは嬉しいですが、こんな危険なことはもう二度としないで下さい」
「はい……すみませんでした」
私は謝りながら、
「私の言うことを信じて下さるんですか?」
不思議な気持ちになって尋ねた。
「あなたが急に倒れられたので、急いで医師に診せたのです。医師もただの酔いではないと言っていました」
宮廷舞踏会の会場で倒れてしまったんだと思って、私は恥ずかしいような申し訳ないような気持ちになった。
「ごめんなさい、舞踏会をお騒がせしてしまって」
「謝るのはこちらの方です。大切なお客様をこのような危険に晒して……必ず犯人を調べさせます」
ルースタッド殿下は厳しい口調で仰る。
「今夜はこちらで休んでいって下さいますか。急変しては困りますから」
「はい」
私は申し訳ないなと思いながら、入院患者のように素直にルースタッド殿下の言うことをきいた。殿下は私のそばにスッとお座りになると、
「あなたが無事で、本当によかった」
ため息をつくように仰って、私をギュッと抱きしめて下さった。私は広くあたたかい胸に抱きしめられて、何も考えられずに、しばらくじっとしていた。殿下の香水だろうか、アイリスのいい香りが部屋いっぱいに優しく満ちている。
「何か召し上がりますか?」
「いえ、このまま休みます」
殿下は私の額に手をあてて熱がないことを確認すると、私をベッドに寝かせて布団をかけて下さった。私は子供に戻ったような気がして。厳しいお兄さんのような殿下に髪を撫でられると、安心して眠った。