木立から出てきた人は、まだ少年のようでした。十歳くらいでしょうか? 黒いキャスケットを目深にかぶり、土で汚れた服を着た、貧しい子供のようです。ヒューは銃にかけていた手をスッと離すと、髪をかき上げ、少し困ったような表情をしました。その子はそんなヒューの様子を気にするふうもなく、帽子の下から私をじっと見つめて言いました。
「サラさん、だよね? 僕、手紙の差出人に頼まれて来たんだけど。お金、用意してくれた?」
「こんな子供に使い走りさせるのかよ……」
ヒューはそのことがショックだったらしく、ハアと大きなため息をつきました。
「うちに手紙を放り込んだのもお前か?」
少年はヒューの質問には黙ってしまって、答えません。
「金が要るんだろうけど。もっと仕事を選べないのか」
ヒューの言い方はぶっきらぼうですが優しいものでした。それでも少年はヒューの質問には頑なに答えず、ただ私だけを見つめています。
そのうち、少年が黙ったまま二、三歩私に近づいてくるので、ヒューは私を背後にかばって少年を睨みつけると、そっけなく言いました。
「手紙の答えならノーだ。あんたらに出す金はない。帰ってくれ」
その時初めて少年はヒューを見て、冷たい声で言いました。
「僕はおねーさんに訊いてるんだけど?」
二人の無言の睨みあいが続いて。私は何も言えず、ただヒューと少年を交互に見つめていました。
「おねーさんはそうやって、一生その人のオモチャになって生きてくの?」
さりげなく放った一言なのでしょうが、あまりに重く、私はヒューがグッとこぶしを握るのを見ました。
「お前……言っていい事と悪い事があるだろ」
背後からなので顔は見えませんが……。ヒューは相当怒っているように見えました。拳を震わせ、今にも少年に殴りかかりそうな様子です。私はヒューの背後からそっと顔を出すと、少年の前まで行ってしゃがみ、静かに答えました。
「オモチャには、なってないよ。大切にしてもらってるよ」
少年は私を見下ろすように見つめていましたが、何も言いません。私はこの貧しい少年がなぜか昔のヒューに似ているような気がして、つい少年をじっと見つめてしまいました。
「お金は出せないの。ごめんね……」
少年は右手を伸ばすと私の頬にそっと触れて、たった一言
「弱虫」
とだけ言い残すと、林の中へ姿を消しました。