24.
王は賄と歩いていました。
店にこられたので仕方なく
キャバ嬢のアフターみたいだな、と王は思いました。
むしろ同伴出勤か
これから随の家へ、賄をまいてから行こうと思います。
「キスして」
顔は悪くないから、王はしてやりました。
賄は制服姿で何度もせがみます。
「なんで付き合ってくれないの」
「高校生とねたら捕まるでしょ」
王は煙草を出して火をつけました。
口寂しいとき
煙草はべんり
「黙ってたらばれないよ」
「学校のお友達とやんなさい」
王は笑って相手にしてくれません。
「お兄ちゃんにあいたいな」
賄は歩きながら小さくつぶやきました。
本当の兄妹だったらよかったな
離婚すると何のつながりもない
遠くなっちゃう
「結婚、しちゃうんだね」
賄は寂しいと思いました。
たいしてすきでもないくせに
かんたんに
自分をあげちゃう
「私と住まない?」
賄は王を誘いました。
「お兄ちゃんを失った者同士」
同士だって
王は笑って
「君と住むくらいならひとりで住むよ」
終った煙草をしまいました。
携帯灰皿持ってるんだよ
青い小箱を腰にぶら下げています。
「いいよ、押しかけるから」
賄は王の手を探して無理やり握りました。
「一緒に住んでどうするの」
王がたずねます。
「その子から奪えばいい。簡単なことだよ」
賄は王とならできると思いました。
「お兄ちゃんを取り戻すの」
面倒くせえ女
王はため息をつきました。
一緒に住んでもいいかな
監視用に
せがまれて、最後のキスをしました。
少し長めに
「煙草くさい」
「だから友達とやれって」
「女子校だっつってんじゃん」
「女とやれば」
王は手をふって、パチンコ屋さんに入ってしまいました。
張り込みしたいけど、くやしい
ずっといるとお巡りさんに声をかけられてしまいます。
すきだといってるのに
ばか
なんで信じてくれないんだろう
キスがうまかったと思いました。
おいしかった
ずっとキスだけしてたいと思いました。
今度たのんでみようかな
高校生とはねれないんだって
なんか人権侵害だなと賄は思いました。
25.
王が随の部屋に入ると、随の咳きこむ声がきこえました。
「大丈夫?」
思わず覗くと、目隠しをされ後手に縛られた随が、ベッドに転がされ、激しくむせています。
「何してんの……」
王は驚いて言葉を失いました。
「勝手に入ってこないでください」
なんだこいつ小姑かうざいと思って、友は怒っています。
「水がうまくのめなくて」
随は目隠しをされたまま笑いました。
上半身脱がされて古傷をあらわにしてるし
なにこれ
犯罪の匂いしかしない
押し込み強盗かよ
撮影して通報するレベルと思います。
「もっとノーマルなプレイからはじめたら」
王は真顔で忠告しました。
「指図しないで下さい」
友はまけじと言い返しました。
「勝手に寝室を覗いて。悪いと思わないんですか」
「ごめんごめん」
そんなにこだわってんのかよと王は思いました。
このプレイスタイルに
こいつSなの? 随さんMじゃないと思うけど、などと考えています。
「ごめん王」
ずっとベッドに転がされていた随が、壁を向いたまま声をかけました。
「手かしてくれない?」
王は慌てて目隠しを取ってやりました。
「ありがとう」
随は捕縛されたまま、ベッドで笑っています。
随さんは自分を使って遊びすぎるよな
王もおかしくなって、はははと笑いました。
俺が来ることわかってたのかな
身体を張ったいたずら
随は自分の体をわりと自由に扱います。
友だけはまだ興奮してぷんぷんしていました。
「合鍵取り上げて下さい」
随に頼むけど
「一度あげたら、相手の物だから」
随は笑って、取り合ってくれません。
寝室に他人出入りさせていいとか
昔の殿様かよ
鷹揚さ加減についていけないと思いました。
腹が立つ
ふたりの仲のよさに
「男がすきなんですか」
思わずきくと
「すきだよ」
えっと思うほど随は即答しました。
「男は何も奪わないから」
腹の底からにじみでるような声でした。
「楽だよね」
すこし笑うと、王が使うかなと思ってもう片付けはじめていました。
26.
ある日敬によばれて、随は居酒屋にいきました。
がやがや賑わう店内に敬と男の人が、カウンター席に座っています。
随に気づくと、敬は席をあけました。
「どうも」
男の人が立ち上がって、名と身分をあかしました。
「こんばんは」
随もあいさつをして、男の隣に座りました。
「お前さ、傷、大丈夫なのか」
男はビールを頼んで心配そうにききました。
「え?」
随が不思議そうに男を見ます。
「お前、刺されて病院運ばれただろ。俺ついてたんだよ、ずっと」
あのときの警察の人だと気づきました。
「どうして、今日は」
「この人が連絡くれてさ」
男は敬を示して
「全然覚えてないんだな」
少し笑いました。
父親って、忘れられちまうんだな
「俺お前のおむつ替えてたんだぜ」
「父さん?」
随は驚いて息を止めました。
あまり驚きすぎて、しばらく酒を持つ手がとまっていました。
「生きてたんだね」
「生きてるよ」
父は苦笑して、つまみの魚をつつきました。
「女に非があっても親権とれるのがこの国だからなあ」
悔しそうにつぶやいて
「すまなかったな。苦労、したんだろ」
低い声で慰めます。
「苦労したよ」
随はすべて投げ出して酒をあおりました。
「殺されかけたよ、俺」
馬鹿みたいな苦労ばっかり
何度も
「そうか」
父は何を言ってもさえぎらずきいてくれます。
「俺本当に父さんの子供なの?」
随はいたずらっぽい目で尋ねました。
「わかんねえけど。信じるしかねえだろ男は」
父は諦めたように肩をすくめます。
「冷たいこと言うなよ。俺出産にも立ち会ったんだぜ。お前大変だったんだよ、逆子で。時間かかってさ」
父は昨日のことのように覚えていました。
「お前が生まれて、うれしくてさ。俺毎日だっこして、ミルクあげてたよ」
本当になつかしそうに目を細めます。
「結婚してるの」
「もう女には懲りたよ」
父は首をふってビールを注ぎました。
「今は猫二匹と三人暮しさ」
「すげえ」
随は笑って
「でも、わかるわ」
俺もそうしようかなと思います。
「お前結婚するんだって?」
「わからないけどね」
「やめとけって」
父がぼやきながら止めるので、随は笑ってしまいました。
「こども、守ればいいんでしょう」
たやすく、難しいことを約します。
「敵は身近にいるぜ」
父はビールのおかわりを頼んで目をとろんとさせました。
「俺四ツ木に務めてるから。何かあったら来な」
交番勤務のようでした。
家の住所と電話番号を教えてくれます。
「うん」
随はうれしそうに受けとりました。
暇なら冷やかしに行ってやろうと思います。
敬が店を出ようとしたので、随は追いかけて止めました。
「ありがとう。俺一生忘れないよ。必ず恩返しする」
敬の手をとって、礼をいいます。
「いいよ、別に」
敬は笑って去っていきました。
時間をかけて調べた甲斐があった
後ろ姿が似てるから、ふたりはきっと父子だろうと思いました。