私の家の敷地内に教会があるのは、歴代家族のお墓があるためでした。「金持ちの墓は荒らされやすいから、自前で管理するんだよ」とヒューが教えてくれたことがあります。
ふだんあまり行かない邸の北側のよく日の当たる丘に、私の先祖の墓地はありました。お父様が亡くなられてそろそろ一年が経とうとしていたので、いろんな方の予定を調整して、ある冬の午後、追悼礼拝を行うことになりました。
礼拝には百名近い方が来て下さいました。遠い親戚、お父様のお知り合い、ヒューのお仕事関係の方、貴族のお付き合いとしてお呼びする方……。私が会ったことのない方も多く、社交下手の私は緊張しましたが、ヒューがいつも隣にいていろいろ教えてくれますので、私はとても助けられました。
礼拝が終わり、会食をして、食後のお茶でおもてなし……。私はかなりの疲労を感じましたが、何とかつつがなく終われそうかなと思った時でした。お客様のお見送りを終え、庭のベンチで休んでいる私に後ろから声をかける人がありました。
「サラお嬢さんだね?」
貴族のアクセントではないので、町の人だろうと思います。
「はい、そうですが」
私が振り向くと、そこにはあの少年のように黒いキャスケットをかぶった、でも大人の男の人が立っていました。礼拝に来た方ではないようで、庭師のような格好をしています。
「どなたですか」
メイド長のエマが私をかばうように前に立ち、その方に尋ねました。
「ちょっとそこのお嬢さんに用があるんで」
その方はニヤッと笑うと、例の差出人不明の白い封筒と同じ物を持って、顔の前でヒラヒラさせました。この人が差出人だったのかしら……。私はあまりの不安で、一気に顔から血の気が引くのがわかります。
「ずいぶんコケにしてくれたねえ。嘘だと思ったのかい?」
「いえ、それは……」
「金なら要らねえよ。もう別口から取ったからな」
その人はへへッと笑うと、私たちの方へ近づいてきました。エマがベンチから腰を上げた私をかばいながら後ずさるので、私もエマの肩に手を置いて、ゆっくり後ろへ下がります。ちょうど建物の陰で、人目に付かない場所でした。
「それより訊きたくねえかい? 例の秘密をさ。まあもう町に出りゃあ誰でも知ってることだからよ、あんたんとこの使用人にでも聞けばいいんだろうがね」
みんな知ってる……? 私は驚いて思わずエマの顔を見ました。エマは表情を変えないよう努めていましたが、一瞬ぎくりとしたように見えたので、私は悲しくなりました。私以外、みんな知ってる……。
「今から話してやるからよ。耳かっぽじってよく聞くんだね」
「結構よ。下がりなさい」
エマが気丈に言ってくれるのですが、この人にはちっとも堪えていないようでした。
「おいおい、俺は今日ここの招待客の連れで来たんだぜ? 勝手に追い返すのがこの家のマナーかい?」
「どこのどなたです」
「それは言えないね」
男の人は笑うと、さらに私たちのほうへ近づいてきます。
「あんたも年増だが、なかなかじゃねえか」
キッと怒ったエマにまでこの人が手を伸ばそうとするので、私はエマの手を引いて逃げようとしました。ちょうどその時、
「何の騒ぎだ?」
私たちの間にスッと割って入ってくれた人がいました。ヒューだ。ヒューはいつになく冷酷な表情で、この男性を見下ろしています。
私はヒューが来てくれてよかったと思いながら、ヒューの目の前で私たちの秘密が明かされることを恐ろしく思っていました。ヒューはエマに何事か囁いて下がらせたので、この場には、ヒューと私とこの男性の三人だけになりました。