こういう朝というのはどんな顔をすればいいものなのでしょう。相手の方より早く起きて、身なりくらい整えておかなければ幻滅されてしまうのかもしれませんが……。私はやっぱりスヤスヤ寝ており、ヒューのつぶやく声でボンヤリ目が覚めました。
「頭いって……」
ヒューは二日酔いなのか、私の隣で眉間にしわを寄せながら頭を抱えていました。私は何も着ていないことに困ってしまって。ヒューがそばにいるうちは布団から出られない気がします。
昨夜のことは本当に、何度思い返しても不思議な感じがしました。賢くて皮肉屋で何でもハッキリ言うあのヒューが、恋人にはこれほど優しくするのかと、私は有難いような勿体ないような気がして、頭がまだ混乱しているのでした。
ヒューは下着しか身に着けていないことを意に介する様子もなく、水を飲み、部屋をスタスタ歩きまわりました。それがあまりにも慣れた感じですので、ヒューにとっては昨日のことも一夜限りの、酔った上での口約束で、何も覚えていないのかもしれないと私は悲しくなりました。そんなこんなで私がしょんぼり寝返りを打っていますと、
「姉さまさあ」
ヒューが私の隣に戻ってきて、おもむろに言いました。私はまた何かしてしまったかしらと不安に思いましたが、
「細いのに胸あるね。ズルいよ……」
ヒューは熱いため息をつくと私の背中にぎゅっと抱きついてきました。
「ヒュー、あの、昨日のこと、覚えてるの……?」
「えっ? 酔ったくらいで記憶無くしたりしないよ、僕」
ヒューは可笑しそうに笑うと、昨日とは違う調子で私の体を触ります。私は忘れられていなかったんだという安堵と、これでよかったのかなという不安を同時に覚えました。家族とも慕う人とこのような関係になってしまって、年上の私の責任ではないかと自分を責めたりしたいのですが……。ヒューは私にそのような思考時間を与えてはくれませんでした。
「恋人同士っていうのはね、必ず腕を組むか手を繋いで、寄り添って歩くんだよ。一日三回は抱きしめて、十回はキスするんだ」
ヒューはまるで先生のように私にいろいろなことを教えてくれました。帰る馬車の中でもウキウキしてとても楽しそうです。指輪をはめた右手をヒューの左手とつなぎながら、私は流れる景色をボンヤリ眺めていました。
「姉さま、僕のこと嫌い?」
ヒューは何にでもすぐ気が付くので、私の顔を覗き込みながら、心配そうに尋ねてくれました。
「いいえ、好きよ」
「なんか悲しそうな顔してるから。嫌だった?」
私はゆるく首を振ると、つぶやくように言いました。
「ヒューをうちに縛り付けてしまったような気がして」
本当にこれで良かったのだろうかと私は悩んでいました。ヒューがそろそろ家を出たいと言うのだから、邪魔してはいけなかったのではないか。私がしっかりすればいいだけのことなのに。どうして私はいつもヒューに頼ってしまうのでしょう。ヒューにはヒューの、開かれた大きな人生があるはずなのに。
「僕はレイクロード家当主の座が欲しいんじゃなく、姉さまが欲しかったんだよ」
ヒューは私の肩にもたれるように頭を乗せると、優しい口調で言いました。
「姉さまのことがずっとずっと好きだったんだ、言えなかったけどね。家のことは、姉さまを手に入れるための口実に過ぎない」
つなぐ手をギュッと強くして、私にもたれかかります。
「姉さまとこうして結ばれたということが、正直まだ信じられないよ。無事に家まで帰れるといいけど」
そう言って私の胸に頬を寄せますので、私はヒューの頭をそっと抱きしめるようにしました。ヒューがこんな弱気なことを言うのは初めての気がして。どこか具合でも悪いのではないかと、私は心配でなりませんでした。